42 理論や理屈をひねくり回しても、後の祭り
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とんだ目にあった
ワレの仕事は、こやつらがどこで何をし、しゃべったか、お知らせするだけではなかったのか
この男が、意識を失おうが、倒れようが、襲われようが、女から色目を使われようが、知ったことか
ワレの仕事は報告であって、救うとか、止めるとか、何かを働きかけることは含まれてはおらなかったはず
それがどうだ
このご叱責は
蛇に食わせるぞ、とまで言われて黙ってはおれぬ
今に見ておれ
いっぱい食わせてやる
いつか。
それまでは、このお役目、つつがなく務めるのみじゃ
や、また、ここか
ワレはこのマンションとやらいう館に入るのは気が進まぬ
無理をすれば、体を変えて入れないことはないが、いかにも窮屈
そこまでする義理はない
だが、居眠りせんようにせねばな
いつの間にやら散会に、という前回の轍は踏まぬぞ
特に今宵は
参加者が参加者だけに
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買い目をその理由とともに簡単に報告する、これだけがミーティングのルール。
なんとなくいい馬体だと思って、という理由でもアリだ。
理論や理屈をひねくり回しても、後の祭りであれば得るものはない。
「ね、先生、十二レースのユーペリオン、どうして本命に?」
「そりゃ、縁があるからな」
「それだけ?」
というわけだ。
珍しくミーティングに最初から参加してくれたハルニナに応えなければ。
謝意を表す言葉を、報いる言葉をなにか。
「馬が教えてくれる、このモットーに照らせば、ハルニナ、今日はどうだった?」
と振れば、きっと喜ぶだろう。これはこの娘の口癖でもある。
「万馬券的中のこと?」
「まずは、な」
「あれは勘。これまでまあまあの成績なのに前走は二桁着順だった馬、二頭いてたでしょ。パドックでとても良く見えたし、前走はなにか不利を受けたのかも、でしょ。この人気薄はチャンスかもって」
「すごい!」
ジンが盛大に拍手してくれた。
「メインレースは?」
「秋華賞? パドックで、いなないた馬がいたでしょ。G1じゃまずありえないことよね。なにか、あるのよ。彼女の気持ちに何か。そうせずにはおれなかった胸の高ぶりとか、女性として宣言したくなる気持ちとか」
などと、予想の常識を覆すことを言ってくれる。
「結果は伴ってないけど、今回はね。次のG1に出走した時、もう一度よーく見て、彼女の気持ちを理解して」
「次のG1まで、覚えてられる?」
「もちろん」
「じゃ、期待しよう」
「ええ。任せて」
元来無口なハルニナと交わした言葉はそれだけだったが、満足の笑みを浮かべたので、良しとしよう。
2LDK。
リビングダイニングも狭い。
全員が座るソファもないし、ダイニングにしたって二人用。
おのずとダイニングテーブルを脇へ寄せ、床に座ることになる。
今夜も、ソファの背にもたれて座る。
ハルニナ、フウカが窓際に、ジンとランがキッチンカウンターの下に、ジーオと初参加のメイメイが正面という着座となった。
それぞれ、今日の結果を報告していく。
進行はいつものように部長フウカ。
窓から、競馬場が見える。
もう数階高ければ、遠くレースの様子も見えるかもしれない。
今は、プチカジノ、ポーハーハー・ワイの賑やかな明かりがスタンドに反射しているのが見えるだけだ。
「じゃ、おさらいをします」
的中馬券の考察である。




