42 勝った負けたと騒いでいるだけのサークルじゃないですよ
騎手たちが飛び出してきた。
それぞれの馬に駆け寄っていく。
「馬が教えてくれる」
これは、サークル・R&Hのモットー。
数年前、数名の学生から要請を受け、新設サークルの顧問に就いた時、なにか標語めいたものを、と考えたのがこれ。
パドックで馬をよく見ろ。数か月前のデータより、数日前の調教の出来より、今の馬を、というわけだ。
とはいえ、それぞれの学生で予想手法は異なる。
それはそれでいい。
馬が教えてくれる、にはさらに意味がある。
サークルの活動のもう一つの根幹。研究活動である。
このサークルが大学からかろうじて承認された理由。
かつてのレジェンド馬たちが紡いできた栄光の歴史、系譜、親から子へ引き継がれた夢、関係者たちの努力と挑戦、などを研究するというもの。
研究と銘打ってはいるが、実際は、そのめくるめく物語を、涙目になってひも解くこと。まるで長大な叙事詩を読んで感動する、そんな活動。
輝かしい経歴、敗北の歴史、度重なる怪我と不調、奇跡の復活、追い求めたもの、友情など。
レースを見るだけではわからない。レースは一つの結果ではあるが、その前にも後ろにも、豊かな物語の草原が広がっている。
こういったことを知り、感じることがもう一つの競馬の純粋な楽しみ。
ギャンブルやって、勝った負けたと騒いでいるだけのサークルじゃないですよと。
名前で決めると言われたジンは、三回生。
データを読むのは面倒過ぎて自分には合わない、だから馬名からでも馬番からでも、いくつか選んでおく。そして、オッズを見ながらパドックで最終決断、というタイプ。
前走着順も、脚質さえ、ジンには無用のデータ。
かといって、的中率が低いかというとそうでもない。
短いパンツから伸びる陽に焼けた素足が眩しい。
今日はクリーム色のブラウス姿。
秋華賞だから女性らしい服にした、これ勝負服、と。
いつものモノトーンのへそ出しルックより、女性らしいのかどうかわからないが、学生たちは無関心。
無視されたのか、諾という反応だったのか、女の子のやり取りの真意が、中年男に分かるはずもない。




