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35 地下馬道エスコート券

「どう、調子は。仕事、順調?」


 ルリイアは元サークルメンバー。今春の卒業生である。

 競馬好きが高じてか、JRAに就職し、今はここ淀の競馬場にいる。


 緑色の制服制帽が初々しく見えるまだ新人。

 にもかかわらず、快活な性格が周囲に認めさせているのか、サークルメンバーが競馬場に来るたびに顔を見せ、なにかと便宜まで図ってくれている。


「暑いですねえ。ご覧の通り、頑張ってますよ。先生、はい、これどうぞ」


 第十二レース地下馬道エスコート券だった。


「一枚だけだから、先生に」

「おっ、いいのか、もらって」

「集合時間が早くてメインレース最後まで見れないんですけど、いいですか?」

「ありがとう!」



 この秋から京都競馬場が始めたファンサービスである。

 重賞レースの行われる日、最終レース。

 パドックから返し馬までに通過する地下馬道で、馬の手綱の一端を持たせてくれるというもの。

 まだ試用期間というのに大変な人気で、今のところ、関係者のコネでしか手に入らない。


「ええっ、先輩、すごすぎ!」

 フウカが目を輝かせる通り、年間二十枚そこそこしかない黄金のチケット。


 十六という大きな数字の横に、でかでかとルリイアの捺印があった。

 教え子であるルリイアが、社会人一年生の身でこれを手に入れることができる立場にあることが誇らしかった。



「十六、大外枠、ユーペリオンだって」

「知らない馬だね」

「知ってるよ。ボクのPOGだった子だから」

 などと、ジンとランの声もトーンが高い。

 その様子を楽しそうに見るルリイア。

「ごめんね。1枚しかないから」


 笑顔のままに、

「夜もいつも通りですか?」と、聞いてきた。

「そのつもり」

 全レース終了後のミーティング。

 ルリイアが借りている近くのマンションで集まるのが恒例。

 競馬場のフードコートは、全レース終了後、すぐに閉まってしまうので都合が悪い。


 また後で、と持ち場に戻っていくルリイア。

 在学時にはピンク色の長い髪だったが、今はオーソドックスなショートヘアにしている。


 いい娘たちに恵まれているな、と思う。

 今更ながら、大学でのこの職を得た幸運を思う。



 が、そんな温かな気分に水を差された。


 また、あいつだ。


 すぐ後ろにいた。

 片目の白髪。

 こいつも、よく似た行動パターンをしているだけなのかもしれないが、それでも何度も出くわし、目まで合うのは、気分のいいものではない。

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