30 サークルの掟 その二
ミャー・ランは三四郎に目を向けたが、すぐにパドックの最後の一周に目を凝らし始めた。
ランの黄金色の魅惑的な瞳の先、最後の一頭が地下馬道に消えた。
ジンとランは互いの買い目を披露しあってから、じゃ、と別々の方向に歩いていく。
ハルニナも、ちょっと笑みを見せただけで、さっさとスタンドに戻るようだ。
パドック横の大階段を見上げた。
巨大な時計。長針が五十一分を指している。
ファンファーレまで十九分。
まずは、今日の運気を高めてくれるところへ。
そうだ、ライスシャワー碑へ。脇のベンチに、ちょっと座って……。
サークルの掟 その二。
他人を束縛しないこと。
パドックは一緒に見るし、レースも一緒に見る。
しかし、それ以外の時間は、食事も含めてよほどのことがない限り単独行動。
このルールを決めたのは、一年ほど前。
女の子同士で学年も違う。
必ずしも全員が仲が良い、というわけではない。
現に、今の三人にしても。
中年男の俺でさえ感じている。
ジンはハルニナと馬が合わない。
ハルニナも、ミャー・ランに対しては冷たいと感じるほどだ。
ミャー・ランは以前、極端な無口だった。口を開けば片言の日本語。
最近でこそ自然な口調だが、誰とも、同学年のジンに対してさえ、打ち解ける様子はない。
そんなことに気づいて、導入したルールである。
返し馬のテーマ曲が流れてきた。
今日一日の幸運を告げる前奏曲。
気分が上がる聞きなれたメロディー。
馬券購入の締め切りまで、もうあまり時間はない。




