23 気持ちは最短距離
手近な石に腰を落ち着けた。
一応、後ろを振り返る。
蛇は見えない。猿もいない。
あたりを見回した。
木々の様子からすれば、高山ではなさそうだ。
先ほど見た街の明かりの多さからすれば、とんでもない山奥でもない。
少なくとも大峰山中でもなければ大雪山系でもない。
あとは何とかして街まで降りるのみ。
ここは日本だ。外国であってたまるか。
いや待て、あの灯はまさか妖怪の街?
忌々しい。
のこのこ入っていけるか。
いや、好都合か。
あそこでランを探せば。
ええい、くだらんことを考えるな。
ロールプレイングゲームじゃないんだぞ。
頼む、雨よ、やんでくれ。
滝つぼの向こう側に小さな岩穴があることに気づいた。
ふうむ。
首を振った。
あの中で雨宿り……。
まさかな。
徐々に明るくなっていると感じたが、それは思い違いだったようだ。
まさに夜。
あいだみちの中より、幾分明るいというだけのようだ。
街の明かりが、かろうじて、この山中にもごくごくわずかな光をもたらしていただけ。
ここで朝まで待つか。
いや、雨に濡れたままでは体力が持たない。
蛇もいつ何時。
行動を起こすべきだ。
太ももをパシリと叩き、気持ちを奮い立たせた。
いてててっ。
ズボンに血がついた。
立ち上がった。
体中が痛い。
さあ、どうする。
暗がりの中を下山する。
これしかないが。
そんなにうまくいくか。
沢は、先ほどより水量が多い。
けもの道は滝つぼのところで消えている。
道らしきものさえあれば下っていけるのだが。
街が近いのなら、どこかに道はあってしかるべき。
と、思いたい。
しかし、気持ちは最短距離。
道がなくとも、このまま無理やりにでも沢沿いに下る。
そう決めた。
谷は狭い。
通れなくなれば、水の中を歩くか斜面を登るしかないが、体を濡らしたくはない。
斜面は登れないほど険しくはないように見えた。
沢の右岸を慎重に下り始めた。
足を濡らしながら歩くより、少し上の斜面を行った方が都合がよさそうだ。
草や枯れ枝や石ころを踏みながら、沢から離れないように、転んだりしないように慎重に斜面を進もう。
と、いくらも行かないうちに、やれうれしや、踏み跡があった。
道だ!
よし!
この道を行けば、必ずやあの街に。
前を向いた。
ん?
んん?
少し先、道の脇、大きな樹の下。
夜の闇が居座っているところ。
何やら構築物らしきものがある。
ますます好都合だ。
人里が近い証拠。
切り石を組み合わせた小さな祠。
が。
えっ!




