17 提灯は口に
径は徐々に登り坂になってきた。
依然としてクマザサは深く視界を遮る。
径は曲がりくねり、ふとランの背が視界から消える。
映画館の中のような薄暗闇。
明かりはない。
妙だな。
生えている木はシイ類とクマザサのみ。
ま、どうでもいい。
舞台セットの環境づくりに「あいだみち」ってやつは無頓着なだけだろう。
ランが立ち止まった。
再び平石に小皿。
今度はみたらし団子。
「はい、ミリッサ、これ」
と差し出されたものは、小さな提灯だった。
「手に持って、しばらくしたら火が灯る」
その通りだった。
ほのかな明かりだが、暗闇に慣れた目には眩しいほどだ。
足元だけが照らされる程度のものだったが、それでもありがたい。
明かりは灯ったが、なぜ光っているのか。
覗き込んでも、火はなかった。
「今日は、あいだみち、ご機嫌いいみたい。こんなのを用意してくれてるなんて」
登り勾配がきつくなってきた。
積み重なった岩を登り、木の根を掴んで降りる、を繰り返す。
そのたびに、提灯は口でくわえることに。
「やっぱり機嫌が悪いのかな。道が意地悪い」
「明日、筋肉痛かも」
「がんばって」
依然としてシイとクマザサ。
植生に変化はない。
というか、単調すぎる。
あいだみちの体内経路を彩る木々や草花は、修景としてどうでもいいのだ。
ここには何も住んでいない。
単なる修景。セット。
蜘蛛の巣さえ顔にかかることはない。
前方に大きな岩が立ちふさがっていた。
ランは跳ねるように飛びつくと、あっさりその上部に立つ。
「ミリッサは、鎖で」
確かに鉄の鎖が垂れ下がっていた。
「やれやれ」
「提灯は口に」
鎖を握り、岩を見上げた。
すでに、ランの姿はない。
薄情な奴め。
猫なら平気だろうが、こちらは中年男。
そう、やすやすとこれを超えては行けぬぞ。
岩に足を掛けようとして、再び上を見た。
念のため、今一度足場を確認してから。
と?
が。
ぬなっ!
体は硬直し、提灯は口から落ちた。




