17 カップの冷麺を啜っているこの子が
へえ、そんなことが……。
聞けば聞くほど、最初に感じた驚きは小さくなっていった。
いとおしいと思うほどに、ランが語る話にのめり込んでいった。
猫の妖怪。
妖の幼稚園児。
今、目の前に。
黒いシャツから細い腕を出して、今度はカッププリンの蓋を開けている、この小さなランが。
「どれにする?」
牛乳プリンや抹茶ゼリー、一口チョコパイなどを出してくる。
「どんだけ買ってるんや」
「お土産もあるからね」
今、隣に座って、プラスチックのスプーンでプリンを掬っては微笑んでいるミャー・ラン。
この娘は、小さいながらどこに行っても目立つ。
ピンク色と薄紫色と銀色の混じった、いわゆるフェアリーカラーの髪を肩甲骨辺りまで伸ばしている。レイヤーカットで少しワイルドな感じ。
体の線は起伏に富んで、しなやかに動く。
両の涙袋の下にある二つほくろが愛くるしい。
機嫌が良いと大きくなり、悪い時は小さくなるような気がする、不思議なほくろ。
今、ランのほくろは小豆大。
気分は、まあまあ良好というところだろうか。
今度は、冷麺の汁を飲むかどうか、思案している。
こいつが妖怪?
確かに黒猫とは見えた……。
それに、本人がそう言うのだから……。
この子は嘘をつくような子じゃない。
本音を隠し、薄っぺらな言葉で教師を騙そうとするような子でもない。
かわいい教え子。サークル部員。
二年生の時から、もう何十時間も顔を見てきた。
授業中に目を合わせることは一瞬であっても、塵も積もれば。
信じないでどうする。
「ごちそうさま。さ、急いで行かなきゃ」
「思うんだけど、お前の声、地声か?」
「そうやけど。なに?」
「いや、何でもない」
ランの声。
甘いホットミルクがぬるくなりかけたような声。
猫妖怪は、蕩けるようなこんな声をしているのか、と思っただけ。
「いい声してるな、と思って」
「声だけやないやん。他には?」
「それは、まあ、おいおい、ってことで」
「やっぱり、ミリッサはすごい」
「なにが」
「それも、まあ、おいおい、ってことで」
「ふふ」
「さ、行こ」
言われるがままに、荷物はコインロッカーに。
向かった先は茶屋町のテレビ局のある一角だった。




