16 そもそも、ランは何を知っている?
ランは最初に謝った。
ここから先はまだ遠い。
時間にして一時間ほどだという。
「スニーカーだから大丈夫よね。でも、ちょっと急がないと。相手を待たせるわけにもいかないし」
「今夜中に帰れるのか? 明日は」
「大事な仕事がある?」
「ああ」
「順調にいけば、夜中になる前に帰れると思うよ」
「どう見ても、もう真夜中じゃないか」
しかし、漆黒の闇ではない。
星明かりがあるからか。
そうではない。
木々の下でも、芝居のセットのように、夜であることを意識させる照明があるかのように、夜目はきく。
かなり暗いことに変わりはないが。
「あいだみち。ここは時間の概念が希薄な道。あいだみちって妖の体内。彼か彼女か知らないけど、お腹が満たされてれば時間はゆっくり流れる。お腹がすいてれば、時の経つのは速い」
だから、しっかりお礼を持ってきたのよ。
これだけあれば、お腹いっぱい。
向こうに戻った時、たいして時間は経ってないわ。
「でも、急いでいくよ」
おう。
速い!
意識を妖怪ランの後ろ姿に集中した。
幸い、道は平坦。
歩きにくいこともない。
追いつけないほど、ランは飛ぶように走っているわけでもない。
でも、なんで黒装束なんだ。
闇に溶けている。わかりにくいぞ。
とんでもないことになった。
妖怪の世界で、誰かに会う。
何のために会うのかも定かではない。
ノーウェの死に関係しているとは言うものの。
ランは猫の妖怪。
オレは特別な人。
あいだみちの体内を移動。
お礼のおはぎ……。
ノーウェの死は妖怪の仕業?
そもそも、ランは何を知っている?
そんな思いが浮かんでくるが、深く考えないように。
考え事をすれば歩みは遅くなる。
ここではぐれてしまうわけにはいかない。
絶対に。




