十二の世界 三人暮らし
一の世界で学園を辞めて二の世界へ来ると、まさに子犬だと言いたくなる光景が待っていた。
「あっ、おかえりプシェ、ジシェ。寂しかったぁ」
「……子犬飼ってたんだな」
「そうみたいだ」
一人で寂しかったのだろうが、子犬がご主人様が帰ってきて喜ぶ姿にしか見えない。
ジシェンもそう見えているようだ。出なければ開口一番にこんな事言わないだろう。
「朝ごはんできてるよ。軽いものだけど」
「助かる」
むしろその方が良い。そこまで空腹というわけではないからな。
「ジシェの分も作ってあるから」
「いや、俺は」
ジシェはこの世界での居場所はあるんだろうが、何年も……そういえば行方不明の王族の話を耳にした事がある。あれがジシェンなのだろう。
だとしたらこれは迷惑だろうか?
だが、言うだけ言ってみても良いかもしれないな。
一人も二人も変わらないし、この家は広くて使っていない部屋があるからな。
「殿下さえよろしければ、ここで一緒に暮らしませんか?シェフィも人が多い方が寂しくないと思うので」
「だが」
「断って頂いても良いです。ただ、私は今更一人増えようと何も思いません。むしろ、シェフィより頼りになりそうで歓迎です」
「僕だってプシェ守れるくらいには頼りになるよ!」
シェフィはそう言うが、前にも言ったように最近女性を狙った事件があるんだから心配になる。ジシェンなら勘違いされる事もなさそうだからな。
「……なら、甘えさせてもらおう」
「二人ともそういうの良いから早くしないと冷めちゃう。頑張って作ったんだから」
シェフィに急かされて朝食を摂った。
「ジシェ、学園行かないと。騎士科は朝早いから」
「ああ」
「プシェ、後で迎えに来るから待ってて。僕が来るまで誰か来ても開けちゃだめだよ」
「分かってる。遅刻するから早く行け」
「うん。行ってきます」
「……行ってきます」
なんだかこういうのも良いな。今までずっと一人で暮らしてきたから、こんな当たり前の事すら体験した事がなかった。
さて、私も支度をするか。
こっちの学園の制服に着替えなくてはな。
そういえば、ジシェンは一の世界の学園の制服を着て行ったが大丈夫なのだろうか。
ん?なんだ?外からゴトゴトと変な物音が聞こえる。風が強いんだろうか。
とにかく今は支度をしなくてはな。
普通科は騎士科より遅いとはいえ普通の学園よりも早い事は変わりないからな。
制服に着替えて今日の授業に使う教科書を入れて、これで支度は終了だ。
あとはシェフィが来るのを待つだけだ。
「ぐへへへへ」