【B】−3
#包容力と安定? #若さと刺激?
「駅まで送ってくよ」
店を出ると雅樹くんが言った。外はだいぶ暗く冷え込んでいて、私は思わずブルッと小さく身震いした。どちらかというとまだまだ田舎のその町は、街頭が少なくて歩けないほどではないけど一人で歩くのはちょっと不安な所だった。
「ありがとう」と私が言うと
?――彼が指を絡ませてきた。うわっ……昔好きだった人に手を握られて感動が込み上げる。彼を見ると身体ごと顔が進行方向を向いていた。照れてる? そのまま手を繋いで駅に向かって歩いていく。キュンキュンする〜〜。熱った顔が“幸せ……”の形にだらしなく歪む私。学生の頃にこれをしたかったなぁ、って贅沢かな? でも幸せ〜とそれを噛み締める私だった。
雅樹くんと駅で別れるとわたしは電車に乗って家路を行く。電車に揺られながら彼のことを思っていた。カラオケボックスでキスされた時のことを思い出すと頭がぼーっとしてくる。キスされてもいやじゃなかった。もちろん後ろめたい気持ちはあったけど、かえってそれが刺激的で少し快感だったような。刺激、かぁ。最近全然そういうの感じたことなかったからなぁ、と深い息を吐く。聡志さんは一緒にいると安らぐけど……
ちょっと退屈かもしれない。私はもう若くないし、遊んでる場合じゃないってわかってるけど。けどもっと刺激的な恋がしたい……
ああ、ダメダメ! 私、何考えてんだろ。やっと本当の幸福がそこまで近付いてきてるっていうのに、何で……“彼”のことが。ふと電車の窓に目をやるとそこに映る自分の顔が見えた。私はぽわんとした顔をしていた。
電車を降りてからもずっとずっと頭から彼のことが離れなかった。罪の意識なんてどこかへ行き、ずっとずっと頭の中は雅樹くんしか居なくなっていた。気持ちにブレーキが利かなくなってきちゃった。
私、やっぱりまだ好きなのかな。
彼のこと……。
唇に指を当ててまたキスのことを思い出す。夜風に当たって頭を冷やそうと帰り道を歩いても効果はなかった。思考が彼の記憶に犯されていて。
もう重症だ……
溜め息の雨が降る。
私、このまま結婚しちゃってもいいのかな。聡志さんの包容力と安定感。雅樹くんの若さと刺激。どっちを取るか。
「はぁ〜〜……」
出てくるのは悩ましい吐息ばかり。答えは出てこない。どうしたらいいのかなぁ。
金曜の夜も深まる頃、突然ケータイにメールが届いた。誰? 開いて見てみると
“雅樹
今から会えない?”
こんな時間に!?
時刻は9時を回っていた。私は呆れて返信する気もなくなる。彼に対する感情が冷めていく。やっぱりあの人はだめだ。“彼(あの人)”にしよう。
“聡志さんに”
「?」
突然ケータイの着メロが鳴って、私は反射的にボタンを押していた。電話に出ると
《わがまま言ってごめん》と急に謝ってきたのは雅樹くんだった。私は沈黙する。
《会えない……かな》
弱々しい声。
私はまだ沈黙。
ダメダメ、騙されちゃ! いくらこうやってしおらしい声で言われたからって騙されるな、と自分に強く言い聞かせる。そして心を鬼にして電話を切った。
これでおしまい。さようなら。のはずだったが……
「っ?」
それからしつこく電話が鳴り続け――
【※選択してください】
電源切る→Dへ
うるさいな!と出る→B―4へ