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ヴァルハラゲート  作者: taxi
9/17

ヨコシマの過去②

無駄に消費される人生、それに嫌気が差したとき、

ちょっとした悪事に人は心を躍らせる。

イタズラに始まり、万引き、暴力、

エスカレートすると、後戻りができない事態に発展していく。


ユウキは愛車のマグナを走らせながら、

何処から歯車が狂ったのかを考えていた。



そしていつも同じ結論になるのだった。



2年前、ユウキが率いる不良集団は30名を超えていた。

地元で、名が知られ始め、ユウキは一つのパーティに招待された。



それは ”club バーニーズ " でのイベントだった。



ユウキは何人か人を連れてそのイベントに参加した。


会場に入ると、眩い程の様々な光、アルコールの臭い、

そして200名は超える大人数が、人目を気にせずに

踊り狂っている場所だった。



見たこともない景色、そして大きく動く金。

ユウキ達その状況に胸が高鳴った。


しかし限度を超えた欲望を満たすには、

大きなリスクが付いてくる。


ユウキは入り口から出るころには、

自分の大きな過ちを痛感させられることになった。





その忌まわしき場所へ、2年たった今でも

通う羽目になっている。


前を走る和田がスピードを上げると、

ユウキは距離を離されないように、アクセルをひねった。




目的地に着くとユウキは吐き気を抑えるのに必死だった。



「早く入れよ!」



和田に背中を蹴られ、ユウキは会場に入った。



「遅かったね・・・」



中には3人の人間がいた。

真ん中に座っている男がユウキたちにそう言うと、

和田が焦りながら謝罪した。



「申し訳ございません、道が混んでおりまして・・・。」



「本当に君は言い訳ばかりだね。

 少しは期待していたのに、最近はどうですか。

 君たちのグループの数字の落ち込みようには

 目が当てられませんよ。今回呼び出された理由はわかりますね?」



「えーと、、、決起会みたいなのをやるんですかね?

 みんなでガンバロー!みたいな・・・ハハッ・・・」



和田の引きつった笑い声がピリピリした空気の中で、

空しく響いた。



「君の頭の悪い話には、もううんざりしました。

 ねぇユウキ君、どうしますか?君のプラン次第では、

 責任をとってもらわないといけなくなりますよ?」



男はユウキを脅迫してきた。

ユウキはデジャブを見ているようだった。


この男はなんだってする男だ。









2年前、ここで起きた出来事は地獄だった。


ユウキとその仲間たちは、アルコールと音を楽しんでいた。


そこで初めて和田に会った。



「いや~~ユウキくん、君の評判は聞いてるよ!!

 なんでもプロ並みの演奏!!そして素晴らしい仲間たち!!

 綺麗な女の子たちも君の魅力に近付いてくる!!

 このエリアで一番有望な人間は君だと、みんなが言う。」


その頃のユウキは、和田のつまらないおべっかにも心を良くしていた。



「いや、そんなことないですよ。

 こんな大きなイベントに初めて参加しました。

 僕のライブもこれだけの人が集まるようにしたいですね。」


アルコールで顔を赤らめたユウキはそんな野望を語った。




「このくらいのイベントなら、君にならすぐにできるよ!

 どうだいやってみるかい?」


甘い誘惑にユウキは心が動いた。



「いいですね、是非させてください!」



「わかった、上に話してみよう!君みたいな人間は

 成功してもらわなきゃ困るからね!」



そう約束したのが、地獄の始まりだった。

その後、バーニーズでライブを開催したが、

中学生のユウキには、場違いな空間だった。

会場の客のほとんどは、20歳を超えていたし、

ほとんど全員がバーニーズの息がかかった人間だった。

全く楽しむ気のない人間を楽しませるのは、

ユウキ達には不可能だった。




「ユウキちゃん、、、君には期待していたのに、、、

 お客様みんなから酷いクレームだったよ。

 俺たちは高い金払ってガキのお遊戯会を見に来たんじゃねぇって。

 おかげで店は大損失だよ!!!」



「すみません、僕が呼んだお客さんは皆来れなくなって

 余計にご迷惑をお掛けしてしまいました・・・。」


ユウキが謝罪するが、和田の怒りは収まらなかった。



「謝るなんて誰だってできるよ!!

 僕が許して済むならそれでいいよ!!でも僕だって、

 上の人から怒られるんだ!!責任を取らされるんだよ!!!」



「す、すみません・・・。」



ユウキが謝罪を重ねていると、1人の男が

背後からユウキの肩に手をやった。



「まぁまぁ、和田君。そこまで言うことないじゃないか。

 和田君が招いた事態だ、君に責任があるのは当然じゃないか。」



「そ・・・そんな渋谷さん・・・。」



渋谷と言われた男は優しく微笑んでいた。



「まぁ僕たちバーニーズは、そこまでお金に困ってるわけじゃない。

 ここにはヤクザや芸能人、政治家だって立ち入っている場所だ。

 やり方次第で、どうにだって稼げる。

 ただね、看板に傷がつくことは止めて頂きたい。

 メンバーのモチベーションが下がるからね。

 今回の件は、今後もバーニーズが成長していくために、

 君たちが責任を取る必要がある。」



「ど、どうしたらいいでしょうか・・・。」



ユウキは恐る恐る渋谷に聞いた。



「君は若くて有望だと聞いてるよ。

 僕もそんな芽を取ってしまおうなんて思ってない。

 良い話があるんだ。」



渋谷が側近に耳打ちをすると、渋谷の後ろの

大きなカーテンが開いた。



「リョーマ、、、マキ・・・。」



初めてバーニーズに訪れたときに、

ユウキに付き添った二人だった。

二人は裸の状態で、おかしな笑い声を上げていた。




「幸せそうでしょ?」



渋谷がそう言い、錠剤の入ったナイロン袋を

ユウキに見せた。



「今僕たちが流通させてる、"愛バーニーズ”。

 通称ラヴっていう薬だ。これで色んな人たちを

 幸せにしたいんだ。」



渋谷は怪しい笑みを浮かべ、話を続けた。



「ユウキ君、君には女の子達を呼び寄せる力がある。

 若い子達は僕らにとって財産だ。

 これからどんな大物になるかわからない。

 君にはラヴを使って、お友達を幸せにして、

 バーニーズのファンを増やして欲しいんだ。」



渋谷は甘い誘惑を使って、商品価値の高い若者の、

金と人生を巻き上げようとしていた。



「そ、、、そんなことできません・・・。」

ユウキにはその光景がとてつもなく恐ろしく、

承諾することができなかった。



「そうか、みんなが幸せになれるのになぁ。

 じゃー君のお友達にここで働いてもらうよ。

 君ほどの実力はないだろうが、ラヴがあれば大丈夫だろう。」



もはや、脅迫だった。


ユウキが原因で招いた事態だ。


自分が最初からここにさえ来なければ、

嫌、バンドなんて始めなければ・・・。

ユウキは後悔に押しつぶされそうになった。




「そんなに難しく考えないで。皆幸せになれる。

 さぁ君も1錠飲んでみるといいよ・・・ほら・・・

 その後考えればいい。

 ・・・わかった、君が嫌な物だと判断したら、

 君たち全員帰らせてあげるよ。それなら安心でしょ?」



逃げ道を与えられたユウキは、襲る襲るラヴを口にした。

その瞬間に、脳に血液が流れ、視界が波打つように歪んだ。



「ね、いいでしょ?

 これで君も犯罪者だ。君には和田の元で働いてもらうよ。

 頑張ってね。」



その時、渋谷の声はユウキの耳には届いていなかった。





今の状況は二年前と何も変わっていなかった。

どうせ、あの時のライブの失敗だって、奴らが仕組んだ仕業だ。

それがわかりながらも、腰まで浸かった泥沼から

ユウキは脱出することができなかった。



「ユウキ君、君は最近やる気がないようだね?

 和田連合は、君のおかげで成り立っているんだ。

 どうするんだい?」



悪事を重ね、感覚がマヒしてしまったユウキでも、

発作的に反抗したくなる。

しかし渋谷の顔をみると、過去の光景を思い出し、

また心が死んでいくのを感じる。




「アドバイスを下さい・・・。」

そう、ユウキが言うと渋谷の横にいた女が、ユウキの元に近付いた。



「面白いアイディアがあるの。」


絢子は魔性の笑みを浮かべ、

ユウキを泥沼の深みへ連れていった。




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