青春2
少しずつ雨が降り始めてきた。
自転車の荷台に乗るナツキは左手で
頭を雨から守りながらも、右手をヨシアキから
離さなかった。
「ヨシ君、雨が降ってきたよー!
もっと飛ばしてー!!」
ジメジメと暑い日だったが、背中に感じるナツキの体温に、
ヨシアキは嫌な気がしなかった。
「これ以上スピードを出すと、転んで怪我するぞ。」
ヨシアキが必死に自転車を漕ぐも、家までは
まだ20分ほどかかる。
家まで近付いていくのに反比例して、
雨足はどんどん強くなっていった。
ナツキを乗せていることもあり、
ヨシアキは自転車を近くのコンビニに止めた。
「雨降ってきたねー、こんなに強くなるとは
思わなかった。」
カバンから小さなタオルを出したナツキは、
少しだけ顔を拭くと、次はヨシアキの頭を拭きだした。
「俺のことはいいよ、自分の頭を拭けよ」
ヨシアキがナツキの手を払おうとすると、
ナツキはそれを避けた。
「ダメだって。剣道の大会も近いんだし、
これで風邪でもひいて、試合に負けちゃったら私嫌だもん。」
強情なナツキに言いくるめられ、
ヨシアキは小さなため息をついたが、悪い気はしていなかった。
ヨシアキより身長が低いナツキは、
つま先立ちをして、ヨシアキの頭を拭いていた。
「ねぇヨシ君、いつの間にか随分大きくなったね。
あんなに可愛かったのに。」
辛そうに背伸びをするナツキをみて、
ヨシアキは、その場にしゃがみ込み、
ナツキが拭き易いように体勢を変えた。
嫌がりながらも、まんざらでもないヨシアキをみて、ナツキはクスッと笑い声を出した。
ヨシアキはその声に気付いていないフリをした。
そして、前を向いたヨシアキの目には、
いつもと違うナツキの姿が映っていた。
ナツキの濡れたYシャツが、彼女の肌に吸い付き、
肌の色が少し浮き上がっていた。
ナツキの繊細なきめ細かい肌は、Yシャツ越しでも
十分な魅力を放っていた。
少し上を見上げると、二つの十分すぎる膨らみが、
曲線を描いており、白の下着の模様が浮き上がっていた。
そして、ナツキの濡れた髪から滴れる水をみて、
大人になったナツキの魅力に心が動いた。
「ナツキもさ、大人になったよな。」
「え、そうかなー。」
「Fカップくらいあるのか?」
ヨシアキがそういうと、ナツキは顔を真っ赤にして、
両手で胸を隠した。
「ば、ばか!どこみてるの!?」
少し怒っているナツキを見て、
ヨシアキは少し直接的に言い過ぎたと反省した。
なんだか気まずくなったヨシアキは、昔話をし、
その場をごまかそうとした。
「あの日ナツキと出会ってから随分たったよな。
父さんとジャックと一緒に遺跡を探索して、
その後ナツキがうちに住み始めて・・・。
ヴァルハラのこともあれから何もわかっていない。
なんかさ、普通の家族みたいだよな。」
そういうと、ナツキが少しだけ深刻そうな顔をした。
「ヨシ君のお父様は、ずっと海外に行ったきりだし、
お母様は亡くなってから大分経つもんね。
長い間二人でいると、夫婦みたいな感覚だよね。」
夫婦と言われ、ヨシアキは少し緊張した。
「私、今の時間がとても幸せなんだー。
このまま今がずっと続けば良いと思ってる。
ヴァルハラのことなんかより、
ヨシ君と、その・・・いつか赤ちゃんできたら、
家族のことを守っていきたいの。」
「赤ちゃん・・・。」
「ばか、そこだけ取り上げないの!」
恥じらうナツキも魅力的だった。
雨に濡れたナツキは少し冷えたのか、
体を震わせ、クシャミをした。
「少し長話をしたな、ちょっとタオルと飲み物買ってくるよ。」
ヨシアキは外にナツキを待たせ、店内へ入っていった。
店内を物色し、タオルと温かいミルクティーと、
何があっても良いように避妊具を購入しようとしたが、
ヨシアキはその種類の多さに目を疑った。
厚さ、そして大きさ・・・。
なんだこれは・・・
右か左か、上か下か
緑か赤か、yes か no か、
面か胴、 攻めか受けか
生あるいは死か
人はあらゆる選択を迫られるが、
選択とは未経験のことばかりだ。
そのためリスクは必ずついてくる。
しかし今回のケースは緊急事態への備えだが、
決して失敗することはできない。
ここでの選択ミスは、取り返しにつかないことになると
ヨシアキの本能はわかっていた。
「クッ・・・どれだ・・・。」
店員や他の客の目がある中で、
じっくりと選ぶ余裕はなかった。
ヨシアキに言い寄ってくる女は少なくないが、
ナツキへの思いが強すぎて、他の女性には興味を抱かなかった。
いざという時の準備をしておけばよかったと、
今更ながら後悔した。
ヨシアキはこのままではラチがあかないと判断し、
一番高いタイプを手に持ち、急いで会計を済ませた。
外に出たヨシアキは何とも言えない達成感に
包まれていた。
「お待たせー、急いで帰ろう・・・。」
そこには、先ほどまでいたナツキの姿がなかった。
悪い冗談だろうと周りを探すも、何処にもいる様子がなかった。
「あれ?一体どこにいったんだ?」
やましい気持ちを抱いていたのが、バレたかと焦りを感じていたが、
ベンチの上の1通のレターケースがあることに気が付いた。
妙な不安感に襲われた。
何故だかイタズラではないような気がしたからだ。
封を切り、中を見ると一枚の手紙が入っていた。
そこにはこう書かれていた。
”今夜19時 『CLUB バーニーズ』 でお待ちしております。”
バーニーズの悪い噂はよく耳にする。
ヨシアキはすぐにナツキが連れ去られたことに気が付いた。
愕然とし、ヨシアキはレジ袋を下に落とした。
コンビニ内で時間をかけてしまった選択が、一番不幸な結末を招いた。
罠であることに気付きながらも、
その時のヨシアキには、バーニーズに向かうこと以外の選択肢はなかった。




