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第22話「ガルーダ来襲」


 タナリアの森の出来事以降は平和なもので、特に大きな問題も起こらないまま十日程が経過した。


 その間、俺たちは村の中で、グータラしたり、たまに狩りに出かけたりして過ごした。


 少し変わったことと言えば、衛兵の人たちに指導してほしいと詰め寄られたことだろうか。

 村長や衛兵長から、腕利きの冒険者だと聞かされたらしい。


 俺は人に教えられるほど偉くもないし、凄くもない。

 そもそも睡眠魔法は教えてできるものでもないだろう。

 レーカだって、人に教えるタイプじゃないしね。


 何か伝えることで村の防衛力が上がるなら、何でも伝えるつもりだけど良い案も浮かばなかったので、適当に濁しておいた。


 あと予想外だったのは、いつの間にかレーカが村の子供たちの人気者になっていたことだろうか。


 たまにどこかに出かけてたけど、そんなことになっていたとはと驚いたものだ。



 これはレーカの子分?になった、とある少年に後から聞いた話だ。



………………


…………


……



 レーカがちょっと面白いことないかなあと、村の端を一人で歩いていた時のことだ。


「へっ、よそ者がこの村ででかい顔してんじゃねーよ!」


「そーだ、そーだ! ここを通ってジャンさんにあいさつしないってどういうことだ!」 


 十二、三歳くらいの少年だろうか。レーカに言いがかりをつけているようだ。

 レーカに絡んだ少年たちは五人、その内ジャンさんと呼ばれる少年が腕を組んで立っている。

 中には少女も一人混じっている。


「なんで、全然知らないあんたたちにあいさつしなきゃいけないのよ……」


 レーカはまるで興味ないといった風にその場を過ぎ去ろうとする。

 その態度が少年たちを苛立たせる。


「おい! 待てよっ! ここはジャンさんの“なわばり”だぞ」


 取り巻きの一人が声を荒げる。

 どうやら村の一角のこの辺りを自分たちのものだと主張しているようだ。


 盗賊を撃退したのが、自分たちよりも幼く見える目前の少女だとは知らないのだろう。


「そうだ! あいさつくらいしていけよ。いざという時に、お前たち子供を護る俺たちに敬意を払えよ」


 別の少年も強い口調でレーカに告げる。


「ずいぶん小さいなわばりね。美味しいモノも獲れなそうだし……。それにあんたたちも子供じゃん」


 レーカは思った通りのことを口にする。

 ドラゴンのなわばりと比べたら、大抵のなわばりは小さいものだろう。


「あんた、ずいぶんね。痛い目に合わなきゃ礼儀ってものが分からないのね」


 少女が一歩前に出る。髪は短く、勝気そうな目が印象的な少女だ。


「やめとけ、マリアーナ」


「ジャン。でも……」


「そいつは商人の連れでよそ者だ。放っておけ」


 ジャンと呼ばれた少年が、少女を制する。


「じゃあ、あたしは何か面白いもの探すから」


 レーカはその場を去ろうとする。


「嬢ちゃん、忠告だ。この世の中、相手の強さも分からないような奴は生きていけないぞ」


「そうだ! もう数年経ったら街に出て、冒険者として活躍していく俺たちのことが分からないとはなっ!」


 ジャンがレーカの背に向かって声をかけ、隣の少年がそれに同調する。

 この少年たちは、将来冒険者を目指しているようだ。


「強くないと生きていけないのは同感よっ。そういうのなんだっけ、たしかネロが“焼肉定食”って言ってたわね」


 レーカは振り返って、少年たちに告げる。食いしん坊変換されているが……。


 振り返ったレーカの表情が、見た目に似合わず獰猛な笑みを浮かべている。

 少年たちはそんなレーカを見て、理由も分からないまま一歩後ずさった。


 次の瞬間、レーカの視線が空に向く。


「な、なんだよ……」


 レーカの動きにつられたのか、皆の視線が空に向く。


「なんか来たわよ」


 レーカの言葉のすぐ後に、風切り音をともない何かが近くに降り立った。

 朱色の羽に覆われた、大型の猛禽類をほうふつとさせる姿。


 体高は人の倍はあろうか。その(くちばし)は容易に人の体に大穴を開けそうだ。


「おい! なんだよこいつ!?」


 少年の一人が声をあげる。


 マリアーナが震えた声で口にする。


「わ、わたし見たことあるわ。こいつはガルーダよ!」


 その顔には恐怖が色濃く浮かんでいる。


「ガルーダだと! おい、それってたしか一年前に村に来た魔物の名前だよな。天空の死神って呼ばれてる魔物だよな」


 さっきまで落ち着いていたジャンにも焦りが見える。


「そうよ。一年前、わたしもその場にいたのよ。あの時は衛兵三人がかりで何とか追い返したのよ。それも追い返すだけで、衛兵の一人は全治三か月の傷を負ったわ」


 マリアーナは泣きそうな表情でまくし立てる。


「俺たちだけでは、倒すどころか追い返すことも厳しいか……」


 ジャンはガルーダから視線をそらさないようにしながら、考えを巡らせている。


「ジャン……」


「よし、ロックは俺をサポートしろ。他のやつは、急いで衛兵を呼んでこい! ああ、弓の得意な大人も呼んできてくれ!」


 ジャンは腰からナイフを抜き、他の少年たちに指示を出す。

 震える足を、奮い立たせるように大声を出している。


「ねえ……」


 そんな時、レーカはジャンに声をかける。

 その声音はとても落ち着いていて、「ねえ、ご飯先に食べていい」の「ねえ」だ。


「なんだ、今はさっきの続きをしてる場合じゃない! それにお前もさっさと逃げろ!!」


 ジャンは怒鳴るようにレーカに告げる。


「ねえ……。あれって美味しいの?」


 レーカは顎をクイっとして、ガルーダを指す。


「は?」


 お前は何を言ってるんだという顔をレーカに向けるジャン。

 混乱したのか、ガルーダから視線を外してしまっている。


 無理もない。普通ガルーダに遭遇してしまった場合、ガルーダは食べる存在ではなく、食べられる存在になるからだ。


 硬直しているジャンの代わりではないが、ロックと呼ばれた少年がレーカに答える。


「ガルーダの肉は美味しいと聞いたことがあるよ。腕利きの冒険者が討伐して、街に持って帰ることが稀にあるらしく、臭味がなくそれでいて濃厚な旨みがあるらしい」


 貴族様に高値で売れるらしいよ、とロックが語る。


 それを聞いていたレーカの顔には笑みが浮かぶ。


 ただ、先程と同様に獰猛な笑みだが。


「じゃあ、あの獲物はあたしのものね」


「お前は何を言って――」


 ジャンの問いかけが言い終わる前に、レーカの姿がかき消えた。


――ビィーーーッ!!


 少年たちがハッとガルーダの方に目を向けると、そこにはガルーダ首の部分を掴んでいるレーカの姿があった。


 ガルーダの方がレーカより遥かに大きいため、ガルーダは頭を下に向けた前かがみの体勢だ。

 ガルーダは鳴き声を上げながら暴れようとするが、完全に抑え込まれている。


 次の瞬間、レーカは手刀でガルーダの首を落とした。

 少年たちは、動きが早すぎてコマ送りに見えたと後に語る。


 何が起こったのか分からない少年たち。ジャン以外の四人はその場で尻餅をつく。


「な、な……」


 ジャンは手をレーカの方に伸ばし、言葉にならない声を上げる。


 レーカはそんな少年たちのことを大して気にした風もなく、


「これはあたしのだから、あげないわよ」


 肉の取り分に関しては、いつも通りシビアなレーカだった――。



………………


…………


……



「レーカ姐さん。今日はどこに行くんですか?」


「特に考えていないわ。気の向くままよ」


「さすが姐さん。俺たちとは違いまさぁ」


 俺の前で、繰り広げられる会話。


 レーカの後を少年たちがついて歩く。

 少年たちはキラキラした眼差しをレーカに向けているのだ。


「ネロ兄貴。今日も元気そうで」


 なぜか俺にも、キラキラした眼差しを向けてくる少年たち。


 どうしてこうなった……?


 まあレーカが上手くやっているのは良いことなんだけどね。


 ちなみにガルーダは俺たちだけで食べるには大きすぎたので、少年たちや他の村人たちにも振舞った。

 振舞ったと言っても料理したのはモリーさんだけどさ。


 その日はちょっとした祭りになり、村全体で盛り上がった。

 村の脅威を排除した上に、美味しい思いができたということで、村長はじめ村の皆に感謝された。


 今回も俺は何もやっていないのに……。


 ちなみに貴族が食べる高級食材と言うだけあって、ガルーダの肉はめちゃくちゃ美味しかったよ。

 レーカも「ガルーダのてりやき! ガルーダのステーキ!」とか言って大満足の様子だった。


 そんな感じで村での生活は良い感じで、盗賊に関する報告が戻ってくる十日程が経過した。

挿絵(By みてみん)

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