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第18話「眠れる森の美少女」

 台座の上の少女は目を開けてから、眠そうに目をこすっている。


 とりあえず無事に呪いだけを解くことができたのかな……。


 ほっとしつつも、ドキドキしている。


 なんて声をかければ良いのだろうか。

 目を開けたは良いものの、次は少女を取り巻く状況が問題となってくる。


 楽観できない理由がある可能性が高い。


「おはようっ」


 レーカが少女にニコニコしながら声をかけた。

 

 レーカのこういう明るさには助けられるな。


「お……はよ……?」


 少女は体を起こし、キョロキョロと周囲を見回している。


 見た目は俺と同じくらいの歳だろうか。

 黒に近い紫色の髪が綺麗な美少女だ。


 少女がこちらを向き、目が合う。

 その様子はどこか不安げだ。


 そりゃあいきなりこの状況だったら不安になるよね。


「どこから話したらいいか分からないけど……、君はずっと眠っていたんだ」


 少女を驚かさないように、優しい口調を意識する。


「ねむって……。あ、アビーはどこ? 騎士団のみんなは?? ――きゃっ!?」


 慌てた様子で台座から降りようとするが、ずっと眠っていたためか上手く体が動かせないようで、こちら側に滑り落ちてくる。


「よっと。俺たちは君を助けたいんだ。安心してほしい。俺の名前はネロ――」


 俺は倒れこんできた少女を受け止め、ゆっくりと下ろし台座に寄りかからせる。

 ついでにリラックスのために、薄く睡眠魔法を使う。


 すぐに警戒を解いてもらうというのは難しいかもしれないけど、きっとこういう時は真剣に向き合うのが大事だよね。


「あたしはレーカよ。寝るのと食べるのが大好きよ」


「わ、わたくしはヴェネットと申します」


 笑顔のレーカに少女も名前を名乗る。


 ヴェネットっていうんだね。

 丁寧な言葉遣いに、どことなく育ちの良さを感じる。 


「私はセシル。可愛い子の味方のセシルよ」


 セシルさんも少女に話しかける。


 しかし、レーカとセシルさんのその自己紹介は一体……。


「僕はアル。ふと思い出したけど、前にいた世界には『眠れる森の美女』っていうのがあったなあ」


「なにそれ?」


 気になった俺はアルに聞いてみる。


「んーとね。王女様が悪い魔女に眠りの呪いをかけられるんだけど、王子様がキスをすることで呪いが解けて、目を覚ますんだ」 


「へぇー、今回の状況と凄く似ているね」


「そうなんだよ。さっき思い出してたら、呪いを解くにはキスも必要だと吹き込んでたのになあ。うーん、残念……」


 悪戯っぽい口調でアルが呟く。


 さっきは真剣な状況だったし、アルなりの冗談だろう。


「キ、キスっ!?」


 そんな冗談に、眠れる森のヴェネットが慌てる。


「いや、キスしてないからね。魔法で呪いを解いただけだからさ」


 誤解させたら可哀想じゃん。好きでもない男にキスされたなんてさ。


「あ、あなたが助けてくれたんですね。ありがとうございました。体の中が温かいもので満たされていくのを感じてた気がします」


 こっちを見るヴェネットの目が潤んでいて、顔が少し赤い。

 寝起きというより、病み上がりに近いし体調が悪いのかもしれないな。


「体調は大丈夫? 少し休んだほうが良いかもしれないね」


 ヴェネットのおでこに手をあて、もう一度薄く睡眠魔法を使う。

 呪いが残っていたらまずいしね。


「んっ……。すみません、少しポーッとしますが大丈夫です。それにあなたでしたらキスされても……」


 大丈夫そうなら良かった。後遺症とか心配だからね。

 ヴェネットの呟きの最後の方は、小さくてよく聞き取れなかった。


 と、その時。


『グルゥォォオオー!』


 外から咆哮が聞こえてきた。


 これは黒ドラ?


「あ、アビー!! ちょっと声が変わった気がするけど、アビーよねっ!?」


 ヴェネットは、勢いよく顔を上げ、叫ぶ。

 不安と嬉しさが入り混じった表情に見える。


『グルルゥゥゥン!』


 まるで返事を返すかのような黒ドラの咆哮。

 不思議と咆哮に嬉しさがのっている気がする。


 これはもしかして……、あの黒ドラが“アビー”ということかな?


 ヴェネットは外に向かって行こうとするが、上手く起き上がれない。


「私の肩につかまって」


 セシルさんがヴェネットに近づき、肩を貸す。


「ありがとうございます」


 ヴェネットを連れて俺たちは(ほこら)から外に出た。



『グルゥ……』


 外に出ると黒ドラがこちらに向かって、おすわりをしていた。

 まるでご主人様を待つ犬のような雰囲気だ。


 犬のようなのは雰囲気だけで、実際は巨大だから、迫力があってちょっと怖いんだけどさ。


「アビー?」


 セシルさんの肩につかまっているヴェネットが、黒ドラを見て疑問の声をあげる。


 あれ? 違ったかな。


 ドラゴンと少女だけど、知り合いかなと予想していた。

 黒ドラは明らかにヴェネットを護っていたわけだし。


『グルゥゥウ』


 黒ドラは、ヴェネットを見て嬉しそうな鳴き声を出す。


「えっと……。大きくなっちゃってるけど……、あなたはアビーよね」


 ヴェネットが黒ドラに話しかける。


『グルルゥ』


 黒ドラが巨大な体でその場に寝転がり――。


 今、ドスンと地面が揺れたぞ……。


 お腹をこっちに見せて、ついでに顔もこっちに向ける。


「服従のポーズだね」


 アルが呟く。犬が飼い主に見せるアレだね。


「アビーだわ。この感じは間違いないわ」


 ヴェネットがなにやら確信したようだ。


 そこで確信するんだ!?


 巨大ドラゴンの服従のポーズは……。


 何というか……。シュールな光景だ。


 レーカに続き、ここ数日で俺の中のドラゴン像が、ガタガタと音を立てて崩れていくのを感じた――。



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