第14話「赤と黒」
レーカがドラゴン形態に変化してくれた。
黒ドラゴンに立ちはだかる、紅きドラゴン。
味方だと思うと、これほど心強いものはない。
仲間だと思うと、ことさらに格好良く見える。
宝石よりも綺麗な紅い輝きに目を奪われ、硬さを見せつけながらも獰猛に躍動する姿に心を奪われる。
気づいてしまった。
ああ……、俺はレーカに憧れているんだな……。
だけど、今は戦闘中。あまり見とれている場合ではない。
セシルさんを見ると、自身のピンチを助けられたことが分かっているのかポーっとしている。
レーカが男だったら、完全に惚れるところだもんね。
「赤と黒、どこの世界でもよく敵対する色だけど、レーカは問題なく勝てそうだね」
アルには危機感が全くうかがえない。
レーカの方が強いと確信しているからかな。
それは俺も同感だ。
どちらも人族が相手にするには、強大すぎる存在だ。
けど、どちらが強いかはある程度は本能で分かる。
俺なんかが分かるくらいに、レーカと黒ドラゴンには差があるのだろう。
今の俺にできることは、レーカの戦いの邪魔にならないことだ。
少し寂しいけどね。
『ネロたちは少し離れてて! あたしだけで大丈夫だから』
おお! レーカの声だ。
いつもより反響しているような声音だ。
ドラゴンの姿でも喋れたんだね。
レーカの言葉に従いその場を離れるべく、セシルさんの手を引く。
セシルさんを安全な場所まで逃がしたら、戦いの場に戻るつもりだ。
睡眠魔法が必要な場面が出てくるかもしれないからね。
『グルォオオオ!』
黒ドラゴンがレーカに体当たりをしかける。
レーカはそこにカウンターで尻尾を叩きつけた。
ゴンっとおよそ生物同士がぶつかったとは思えない鈍い音を立て、黒ドラゴンが弾き飛ばされる。
『グルゥ……』
黒ドラゴンは、地面に這いつくばりうめき声を上げる。
そこにレーカが追い打ちをかけようとしているのか、何か力が集まっていくのが感じられる。
魔法を撃つ時のタメに似ている。
レーカがより赤く輝き、離れている俺にも熱量が伝わってくる。
おそらく炎系の攻撃だろう。
それも大概のモノを消滅させるような規模の……。
その時、急にアルが大声で叫んだ。
「レーカ! 待って!! その黒いドラゴンは殺さないで!」
アルの叫び声を聞いたレーカは、小さくコクンと頷くとエネルギーの収束を解いた。
そして、黒ドラゴンに近づき上から手で地面に抑えつけた。
『ネロっ!』
俺を呼ぶレーカの声。
黒ドラゴンを眠らせろということだろう。
黒ドラゴンは殺されるところを止められたことを理解しているかのように、大人しく睡眠魔法にかかってくれた。
終わってみればレーカの圧勝だった。
◇
「どうしたものか……」
これからどうするか、集まって話すところだ。
レーカはドラゴンのままの姿。
セシルさんは俺の隣でソワソワしていて、アルは俺の隣でプカプカ浮いている。
黒ドラゴンは近くで眠っている。
睡眠魔法を強めにかけたから、ちょっとのことでは目を覚まさないだろう。
本当はすぐにでもこのタナリアの森を出た方が良いのかもしれないけど、この森のことが気にならないと言えば嘘になる。
“好奇心は羊も殺す”ってアルが言ってたしなあ。
そんなアルは、レーカを止めてたな。
「アル、そこの黒いドラゴンを殺すのを止めてたけど、何か理由があるの?」
「うん、実はそこのドラゴンなんだけど、この森の瘴気の影響をうけて正気じゃない感じなんだ……。ハッ!?」
「アル……。ダジャレを言ってる状況じゃあ……」
俺のジト目が止まらない。
「そんなアル君も可愛いよっ!」
まあ、セシルさんがリラックスできたみたいだから良いけどさ。
アルの話によると、ドラゴンは魔物の中でも理知的なことが多く、正気を取り戻したら何か話が聞けるかもしれないということだった。
理知的ねえ……と思ってレーカの方を見たら、何かを察したのかフーっと息を吹きかけられた。
かなりの強風で危うく吹っ飛ばされるところだったよ。
「普通じゃない感じは俺も感じたけど、この瘴気の原因がアルには分かるの?」
「ええとね。はっきりとは分からないけど、このタナリアの森の中心に原因になってる何かがあると思うよ」
確かにそんな気はするよね。村長も何かが封印されているとか言ってたし。
『どうするかはネロが決めてっ』
レーカが反響ボイスで促してくる。この反響ボイスはなんだか癖になるな……じゃなくて。
うーん……。
このまま帰るのもありだけど、君子危うきに……っていうけれど。
気になって夜寝れなくなるんだよね。
それに、スケルトンにドラゴンと、すでにだいぶ核心に近づいている気がするんだよね。
「よし! 行ってみようか!! それで少しでも危なそうだったら全力撤退で」
「僕はオーケーだよ」
「わたしもいいわ」
『クルォーン』
俺の決定に、みんな賛成してくれた。
なんだかこの冒険者パーティーっぽい感じ、ちょっと嬉しくて潤んでしまったことは内緒だ。
とくにレーカにはね。なんだか悔しいじゃん。
というわけで、俺たちはタナリアの森の深部目指して歩みを進める。
黒ドラゴンをそのままにしておくのもどうかということで、レーカが引きずっていくことになった。
首根っこを咥えられて引きずられる巨大なドラゴンの姿は、とてもシュールだった。
通り道にある木々が、運ばれるドラゴンにあたってバキバキと薙ぎ倒されていく。
どこからどう見ても、狩った獲物を住処へと持ち帰るドラゴンの姿だった――――。




