第13話「暴れるドラゴン」
スケルトンの集団がレーカに迫る。
数は二十体くらいだろうか。武器は持っていないけど、なぜか上半身だけは立派な鎧をつけている。
まあ立派といっても、錆だらけには違いなく、なんとなく元は高級そうな鎧というだけだ。
レーカなら大丈夫かな?
スケルトンと対峙しているレーカは、特に焦っている様子はない。
周囲を見回すと、すでに二体ほどのスケルトンの残骸がある。
「あたしの狩りを邪魔しないでよ!」
レーカがいつになく怒っている。
「レーカ! 気をつけろ」
言っておいてなんだが、最強レーカに俺が言えることはない。
スケルトンって睡眠魔法が効かなそうなんだよね。
効くか試しておきたい気持ちはあるけど、射程に近づかなきゃいけないし、レーカの戦いの邪魔になりそうだ。
今はレーカを連れて、早くタナリアの森から離脱したい。
セシルさんは?
セシルさんの方を振り向くとガクガクと震えている。
アンデッドモンスターは見た目からして、精神的にくるものがあるからね。
「大丈夫ですよ」
そう言って、セシルさんの手を握る。
怯えのためか手が冷たくなっている。
俺はセシルさんに、ほんのり薄い睡眠魔法をかける。
「あっ」
セシルさんの声がこぼれる。
俺の睡眠魔法は、精神的にリラックスさせる効果がある。
そのため、薄くかけると眠らないけど落ち着かせることができる。
こんな時に思いついたけど、これを使って商売をすることもできるんじゃないだろうか。
「レーカは大丈夫だし、俺たちも大丈夫だから安心してて」
もしスケルトンに睡眠魔法が効かなかったら、全然大丈夫じゃないけど、今はこう言うべきだろう。
その時、レーカの方で動きがある。
「食べられない魔物に興味はないのよー!」
レーカは無茶なことを言いながら、無茶苦茶な強さでスケルトンを破壊、殲滅していく。
魔物とモンスターはほぼ同義で使われるけど、より魔の属性が強いものをモンスターと呼ぶ場合もある。
スケルトンはモンスターに分類されることが多い。
けど、レーカの魔物分類は食べられるか否かのようだ。
なんでもかんでも食べて、実は食べたら毒だったとか、今までなかったのかね。
そんなことを考えている内に、レーカは最後のスケルトンを後ろ回し蹴りで破壊した。
「レーカの強さは凄いね。でも、まだまだ全然本気じゃなさそうだね」
アルが感心している。
そうだろう、そうだろう、レーカは強いんだぞ。
俺たちはレーカに駆け寄る。
あれだけの数のスケルトンと戦っても、レーカは息一つ乱していない。
「レーカ、大丈夫か?」
見た感じは大丈夫そうだけど、結構な高さから森に落ちたからね。
まあ、跳んだのはレーカだけど……。
「大丈夫よ。それより暴れたらお腹空いたわ」
「そ、そうか。帰って、ご飯にしよう」
暴れてるって自覚あったんだね。
とりあえず今は、この森を出て帰ることを優先したい。
その時、レーカが急にタナリアの森の奥の方へと振り返る。
「!?」
「ネロっ! 何かがくるよ!」
アルも何かに気づいたようだ。
『グルルゥゥ!!』
木々の奥の方から、大型の魔物を思わせるうなり声がする。
「アル! 何が来てるんだ?」
嫌な予感がする。
「分からない。けど、今から撤退するのは無理だと思うよ」
アルが、いつもと違い真剣な雰囲気でこたえてくれる。
「あ、これは!」
レーカはハッとした顔をする。
「どうした?」
「この魔物はきっと……」
レーカが俺の問いかけに答える前に、それは木々の間から姿を現した。
『グルルゥ……』
うん、ドラゴンだった……。
黒い鱗皮の巨大なドラゴン。
レーカのドラゴン形態より一回り小さいけど、俺たち人族からしたらとんでもない大きさだ。
しかもこのドラゴン、どこか尋常ではない雰囲気だ。
目が血走っているように見え、口からは大量のよだれを垂らしている。
飢えて見境が無くなっている感じに見えなくもない。
まあドラゴンの普通とかよく分からないから、なんとなくだけどね。
ドラゴンって滅多に出会わないって聞いていたんだけどなあ。
この数日で既に二体、運が良いのか悪いのか……。
さて、どうしようか?
隙を見て眠らせるしかないか……。
レーカは訝しげな表情で黒ドラゴンの様子を伺っている。
「レーカ、少しの間だけあのドラゴンの注意を引いておけるか?」
あまりレーカに無理をさせたくないけど、あの黒ドラゴンを抑えられる手札は限られているからね。
なんとか近づいて眠らせよう。
「別に、アレを倒しちゃってもいいのよね」
レーカが獰猛に笑う。
頼もしいな。
「レーカ、それ言うとフラグが立つよー」
アルが冗談っぽく言っているのを聞いて、少し心にゆとりが出てきた。
セシルさんは大丈夫かなと見やると、動きを止めて固まっている。
セシルさんが巻き込まれないようにしないとね。
「レーカ! 無理はするな!」
相手が動く前に、レーカに声をかけ行動に移る。
セシルさんの手をつかみ、黒ドラゴンから離れるように手を引く。
「あっ、ごめんなさい」
セシルさんが申し訳なさそうに謝ってから、自分の足でその場から離脱してくれる。
黒ドラゴンは俺たちが動き始めたのが気に入らなかったのか、こちらに敵意を向けてくる。
『グゥオオー!』
黒ドラゴンは咆哮と同時に、傍にあった木を軽々と引っこ抜き……。
引っこ抜き……?
「なっ!?」
こっちに投げてきやがった。
やばい。
俺はなんとか避けられても、セシルさんに直撃してしまう!?
――――その瞬間、赤い光が周囲を包んだ。
これはもしかして。
光はすぐに収まり、そこには頼もしい我らがドラゴンの姿が。
こちらに飛んだ来た木は、片手で軽々と払いのけられていた。
『クルォオーーン!!!』
紅く輝く鱗皮、見とれてしまう程に美しいフォルムの翼、圧倒的な存在感がそこにあった――――。




