第68話 よぎるだけでは終わらない
体育祭前日、生徒会の仕事も一旦は落ち着いていた。
だけど安心はしていられない。僕にできることはやらないといけない。
今は落ち着いてはいても、慌ただしいことには間違いない。
それは嵐という吹き荒れる予兆の一歩手前でくすぶる渦の風。
前の呼び出しの後、会長に言われた事が脳内に過ぎる。
「少年──話がある」
話が乱雑して収集が着かなくなり、結果解散することとなり、みんなが出た後に僕も出ようとした時、会長に呼び止められた。
「なんです?」
「妹君のことだ」
「──っ!」
考えてもいない突然の切り出しに、僕は驚きの顔を隠せないでいた。
なぜ会長が妹の事を知っているのか……それ自体は特に驚く事でもなかった。
それは特に隠す事でもないし、家系は会長の事だから見通しているだろう。
それより、今この時に話に出してくるという事に──僕は驚いていた。
タイミング的にも、状況的にも。
それでも今切り出す理由があるのだろう。
意味もなく話を切り出すのは、彼女らしくはないからだ。
というより、大抵が変なことを発言していた気がする。
て、そうじゃなく。
「……妹がどうかしましたか?」
「そこまで気を張らなくていい。話はすぐに済む」
「……あ、はぁ」
「妹君は今少年の父親である時峰 永久氏の系列である病院に入院しているな」
「えぇ、まぁ。他所に移す事をあの人が許さないですから」
厳格であり堅物であり仕事人のあの人は、自分が〝所有する物〟はすべて手中に収めていないと気が済まない。
それが血が繋がっていたとしても同じだ。
どんなに優れていてもそうでなくても、自分の物は何だって支配して縛って、都合のいいように扱う。
「少年、あまり強張るな。顔が怖いぞ」
「え?」
言われて気づく。
肩に力が入り、自然と握り拳をしていた。
「父親を良くは思っていないことがわかるな」
「別に……あんな人、父親だと思ってませんから」
「そうか」
追求はしてこない。
会長は無駄だと思えば省き、ちゃんと状況を見て話をする。
流されてばかりの僕のとは違う。
「まぁそれはそれとしてだ、少年」
真剣な目つきで会長は告げた。
「妹君が病院を抜け出したようだ」
──背景にひびが入った音がして、崩れた。




