第57話 頼まれただけでは終わらない
9月始めの始業式の終わり、生徒会の活動も今後の活動について会長が話しただけで終わった。
それでも午前中で、今はまだお昼前。家に帰る前に会長に頼まれた件の様子見に来てみたけれど、一人だとなんだか緊張する。
「──よし」
襟を正し、『聖橋』と書かれた表札下のインターホンを鳴らす。
──ピン、ポーン
しばらくするとスピーカーから若い女性の声がした。
『はい、どちら様でしょうか』
「生徒会の者ですが、桜花さんはいらっしゃいますか?」
『あらあらっ。はいはいはい、いますいます。今開けますから待ってくださいね』
引きこもりって言うくらいだから、暗い感じなのかと思ったけど、違うみたいだな。あくまで家族の人は。
「はい、上がってくださいな」
「え、あ、あの──」
「どうぞどうぞ。何も構えませんけども、ゆっくりしていってください」
僕が何か言う前にあれよあれよと家の中に招かれてしまった。
マイペースなのか、自分のペースへと巻き込んでゆく、姉らしき女性。
「えっと、桜花さんのお姉さんですか?」
「あらまあ!違いますよお~っ。お世辞がお上手なのねー!」
「え、えっと……」
「私は桜花の母の、鈴蘭って言います」
「え、お母さん……?」
それにしては若々しい。声も母親としてはおっとりというよりハキハキとしていて、親とは思えない。
別に差別とか批判してる訳ではなく、素直に褒めているのであって……て、誰に言ってるのか。
「そうです、お母さんですー!」
なんて元気なのだろう。
引きこもりの娘がいるようには見えない程に明るい。
これは空元気なのか天然なのかわからないけど、なんだかやりにくくはある。
「驚きました。あまりにも」「若々しい?」「あ、はい」
「そうなのよ。血筋なのか、家系に生まれる女の子はみんな若々しくなるよ~。お陰で近所から若いとか良く言われるのよ」
そういうことか。なるほど。
「けどね、代わりにね、背が伸びにくくてね。女の子みんな背が低いのよ~っ」
言われてみれば、僕より低い。
年齢による骨の劣化だけではなさそうだ。
それに、話し方も砕けて敬語ではなくなってる。これが主婦なのか。
「あ、それでね。この前背が伸びるかなーって通販で買った物があるの。それがなんか楽しくてね──」
いや、もう伸びないと思います。
そんな一言が言えずに僕は黙って聞いている。
どうしたら本題に入れるのか、タイミングを見計らいながら。
「だけど一向に伸びなくてねー」
「あ、あの」
「はい?」
「桜花さんのことで今日はお伺いしたくてですね」
「あーっ、そうね。ごめんなさいね。おばさんついお話相手が欲しくてね。やっぱり何年も主婦やってるとね、話に飢えちゃって飢えちゃって、もう話したくて困っちゃうのよー」
「そうなんですか」
「あ、桜花のことね。本当にごめんなさいね」
「いえ」
「そうね……あの子ったら、学校に行きたくないみたいでね。部屋から出ようとしないのよ。もちろん、トイレとかお風呂には入るのだけど、それ以外はずっとお部屋。ご飯も手を付けないことが多くてね」
聞けば聞く程に桜花の置ける状況がわかってくる。
「だから私心配なのね。このまま休めばあの子は出席日数が足りなくて進級できないじゃない?そうすると留年でしょー。あの子に友達ができないんじゃないかって」
当然の心配だった。
留年すれば自分とは歳が一つ下のクラスメートと過ごすことになる。今の段階で学校には来ていないわけで、楽しく過ごせるはずがない。
このままだと、進級どころか、留年することすら危うい状態だ。
だけどまず、
「とりあえず、桜花さんに会わせてもらえませんか?」
「そうね。二階の奥の部屋なの。案内するわね」
二階に上がり部屋へと案内してもらうと、鈴蘭さんはノックする。
「桜花、お客さんよ。部屋に入れてもらえないかな」
返事はなかった。
「ごめんね、反応がなくて。寝てるのかしら?」
「いえ、大丈夫です。今日はどんな感じか様子を見に来ただけですから。今日の所は帰ります」
「そう?また来てね」
軽くお辞儀して家路に着く。
帰りがてらお昼を喫茶店で済ませた。
帰宅すると、従妹の沙奈が居たが、追い返す──ことはせず、午後に一緒に遊んで過ごした。
もちろん夜は家に返したが。
そんな変哲の無い一日だった。
× × × × × × × ×
一方、聖橋家では──
一旦休憩を入れる為、良いところでセーブをして家庭用ゲーム機の電源を落とす。
今日はずっと新作のRPGゲームをしていたから、心身共に疲れてしまった。
真っ暗な部屋にテレビの画面に張られた光だけが自分を照らす。
ヘッドホンを外して座っている椅子の背もたれに首をダレる。
「はぁ……だる」
桜花は一息吐いた。
「今日誰か来たみたいだけど、ぜってー家から出ねーからな」
そんなことをボヤいて、またヘッドホンを掛けた。




