第56話 始業式の日では終わらない
夏も終わり、いろんな意味でハラハラした夏休みは幕を閉じた。
そして翌日の9月1日、僕は早朝の学校に来ていた。
特に生徒会のお仕事はなく、教室で独りになりたかったのだ。
何気ない日常に変わる季節の折り目、過ぎる日々は早い。
まだやり残したことはある。それを達成しなければ……僕は──
「……悠人、君?」
声に気付いて振り向くと、そこには綾未さんの姿があった。
「どうかしたかな?」
「あ、その……それは私の台詞だと思うんだけど」
「?」
「あ、そのね……なんだか深刻そうに考えごとしてたみたいだから。どうしたのかなって……思って」
どうやら僕は深刻そうな顔をしていたらしく、綾未さんを心配させたみたいだ。
「ありがとう。別になんでもないよ。ただ、ちょっと……妹のことを考えていたんだ」
「妹がいるの?」
「うん。僕には妹がいてね。明るくて気の優しい妹がね」
「そうなんだ」
「うん。病気持ちで、ちっちゃい体なのに明るく振る舞って……僕に心配させないように暗い部分を隠して」
「……私と同じ……」
「え?」
「あ、うぅん。妹さんの病気が早く治るといいねっ」
「うん。……僕もそれを切に願うよ」
だけど、それでは治る確証はない。
だって妹の病状は──
「悠人君?」
「ん、何かな」
「……。悠人君は、もう少し肩の力を抜いた方がいいと思うな」
「そうかな」
「うん。そうしたら、何か見えるものがあるかもねっ」
「あはは……。そうだね!」
僕は綾未さんに励まされた。
そこで廊下の方から足音がしてきた。
「集まり始めたね。じゃ、またね」入れ替わりに「お、時峰!ちっす」
「戸田君。おはよう」
そのあとチャイムが鳴るまで戸田君と喋っていた。
放課後に生徒会室に行くと、会長が一人仁王立ちして待ち構えていた。
「待ちわびたぞ。少年」
「今日はどうしたんですか?」
「いやなに、ちょっと頼みたいことがあってだな。まぁ座れ」
設備されているソファーに座り、会長は反対側に脚組んで座る。
「それで、なんですか。頼みたいことって」
「それはな、まずはこれを見てくれ」
「これって……」
一枚の紙をテーブルの上に乗せ、それを僕が覗き込むと、そこにはここの生徒と思しき女の子のぶっきらぼうな顔の写真と、その女の子のプロフィールが……
「って、これ学生名簿ですよねっ!?」
「そうだ」
「いいんですか、これ」
「大丈夫だ。先生からは許可を得ている」
「そうなんですか……」
僕はもはや呆れて返す言葉がない。
どれだけ用意周到なんだ、この人は。
「それで、これが頼みごととどう関係が?まさか、この子が引きこもりでもしていて、それを僕に出させるようにしろとか言わないですよね?」
「そのまさかだ。さすがだ、少年」
開いた口が塞がらないとはこのことだった。
ただの予想というか、想像したことをそのまま否定されないで肯定されたのだから。
「えっと……なんで僕?」
「愚問だな。君には女性を引き寄せる魅力がある。それも、自然に成せる天然のものだ。それを活かさずにどうする」
「買い被り過ぎですよ」
「いや、そんなことはない。過大評価でもなければ個人的贔屓でもない。これは客観的に見た事実的成果なのだよ、少年」
「それは僕のわかりかねる部分なので置いとくとして、どうすればいいんですか?何か作戦でも?」
「それは君に任せるよ。少年の実力を発揮する機会だよ。生徒会の役員としてね」
生徒会の役員とは言うけど、実際はただの雑用係なのだ。
こうやって手から零れた水を請け負って再び注ぐのが、僕の仕事。
「期待はしないでくださいね」
「期待しているぞ」
「……そうですか」
「廊下が騒がしい。皆が来たようだ」
こうして僕は二学期の登校初日から任務を言い渡されたのだった。
二週間後には体育祭もあるというのに、大変なのだ。生徒会も。
始業式なんてなかった……(遠い目




