第49話 敵対宣言では終わらない
人間関係を深める為だかなんだかの強化合宿3日目の朝、僕はお風呂に入っていた。
色んなことでの疲れを癒やしたくて朝早くに起きたのだ。
「……はぁ。朝に入る露天風呂はいいなぁ~……極楽だよ」
そう。露天風呂に僕は居るのだ。
ここの露天風呂は混浴で、みんなが起きている内は入ることの許されない領域。
なんでかと言うと、僕が入ろうとすると、なぜかみんな入ろうとするのだ。
例外も居るけど、どうしてそんなに大勢で入りたくなるのか、僕にはわからない。否。男女混合で入ろうとするのが間違いなのだ。
若い男女が混ざって入るなど、言語道断。間違いでも起きたらどうするのだ。
「……」
それにしても、本当にいい湯だ。
ずっとこのまま時間が止まればいいと思う。
──カラカラカラ
そんなことを思った時、露天風呂への扉が一人でに開いた。
いや、違う。誰かが入って来たのだ。
誰なのか。
湯煙で隠れたシルエットが近付いて来る。
「あれ、時峰先輩?」
「……月島さん」
タオルを巻かずに前で持っているだけの生まれたままの姿をした月島さんが、そこに居た。
「先客がいたんだ……あう。でもまあいっか。時峰先輩だし」
何がどうしてそうなるのかわからないが、僕に追い出す権利などないから、というより、何か言えば刺激を与えて怒らせることになるかも知れないから僕はあえて沈黙を選んだ。
「隣、いいですか?」
「あ、うん。どうぞ」
少し緊張しながらも返事をする。
横目で見やると、スベスベして柔らかそうな綺麗な肌とお風呂に浸かっているからか、頬が薄く赤に染まっているのが見えた。
今どんな気持ちなのだろうか。
月島さんは僕に対してどこか敵対心を持っているようにも思えたから、この状況は予想外でもあった。けれど、こうして見ると、月島さんはやっぱりかわいい女の子にしか見えなかった。
「……先輩は」
「へ?」
「……なんでもないですっ」
十数センチで、肩もぶつかりそうな距離。
水の波紋を立てて月島さんはぷいっとそっぽを向いた。
何かしたのか、僕。身に覚えがないのだけど。
朝のわりには湯煙が良く立ち込める露天風呂は、なんだか落ち着かなかった。
「あの……」
再度月島さんは何か言おうと口を開く。
「……えっと」
「?」
まだ逡巡しているようで、言葉を紡ぐまで僕は無言を貫いた。
「先輩は……ひーちゃ──日和のこと、どう思いますか」
「日和さん?」
「そう。です。男なのに、女の子の格好だなんて……変だとは、思いませんでしたか?」
友達思いな子なんだなと、そう思わずには居られなかった。
きっと心配しているのだろう、この子は。日笠日和という女の子のことを。
「思ってないよ。と、言いたいけど、まぁ……少しは思ったかな」
「──っ」
「けどね、人にはそれぞれの理由があり、悩みや葛藤を抱え込んでいるんだ。だから、いいと思うよ。男で女の子の格好ってのも。てか、それを言ったらにゃむ君もそうだしね。僕は気にしないよ」
本心を、思ったことをそのまま言った。
「そう……ですか」
どこか納得のいかないような顔をする月島さんは、今何を考えているのだろうか。
きっと僕には想像ができないような葛藤があるのだろう。
という風に勘ぐってはみるけど、実際違うのかも知れない……なんて。
「今まで、時峰先輩の嫌ってました」
「あはは。唐突だね」
いきなり直球で言葉を紡いで来た。
「いつもへらへら笑ってるし、やたら女の子にモテるし、それに……ひーちゃんと仲いーし」
なんかひどい言われよう。
というか、最後のが一番の理由だろ。
「だけど、今日のこの瞬間から、認識をかえる」
息を吸って、その言葉が紡がれた瞬間、僕は彼女の敵になった。
「わたし、ひーちゃんが大好きです。時峰先輩になんかに渡しません!この、スケコマシ!」
非常に納得のいかないシチュエーションで。
「あ」
「え」
彼女は体にタオルで隠しもせず、勢い良く立ち上がったことにより、全身の素肌が空気晒されたのだった。
そして、悲鳴より先に僕の頬にビンタを食らわしたのだった。
光をも超える速度に思えるような速さで。




