4.2
朝礼はセンター長にむかってわたしたち六人のスタッフが扇形に並び、朝の挨拶からはじまる。
続くセンター長の恭しい紹介の言葉に、彼の横で待っていたそびやかな男性は無表情のまま深々と一礼した。
「榎波と申します。よろしくお願いします」
同僚の女性たちから小さな歓声があがる。
持ちあげた芳顔は雪よりも白く、そこから一筋に繋がる細腕の先には、女性のようになよやかな指がすらりと伸びていたのだ。
続いてセンター長は、彼が来ることになった経緯を話しはじめた。
「詩織さん、どう思う」
となりから話しかけてくる彼女はセンター一の雄弁家で、その弁舌たるやまさに懸河の流れという、咄家も真っ青の演説つかいだ。朝礼の耳語が三度の飯より好きというのだから、それこそ筋金入りである。
「どうって?」
しかしながら、ついひそひそ話に乗ってしまうのは、少なからずわたしにもその素質があるということなのだろう。
「すっごい美顔よね。センター長なんて同じ男とは思えないわ」
そこまで言われてしまっては、センター長も男として立つ瀬がないだろうと気の毒になる。
「あたし本気でアプローチしちゃおうかしら」
「本気? もう結婚してそうだし、それに年が離れてるんじゃない?」
バツイチの彼女は四十なかばだが、榎波という男性は三十歳くらいにみえる。
しかし彼女は、指を立てて、大丈夫、とウィンクする。
「調べによるとね、独身のうえにあれでも今年四十らしいのよ」
彼女はいっそう顔を近づけて声を細めた。
「うそ、四十?」
春樹と同い年で、彼より若くみえる人なんてはじめてだ。
「それにあなた年の差でとやかくや言えた立場だったかしらね」彼女はくすりとし、それもそうだったわ、とわたしは舌をだした。
「皆さん、おしゃべりもいいですが、ここからは重要ですからよく聞いてくださいね」
突如大きくなったセンター長の声に、聴音の遠近感が通常にもどされる。
「榎波くんの職務についてですが、カウンセリングは基本行いません。我々のアドバイザーとして働いてもらうことになっています」
彼に意見を仰ぐ場合はクライアントのプライバシーをよく考慮し、最低限のアドバイスのみをいただくように、とセンター長がまとめると、一人の同僚が手を挙げた。
「榎波さんは、わたしたちの個人的な相談にも乗ってくださるのでしょうか」
歌うような嬌声できいた彼女をセンター長が叱責するより早く、喜んで、と微量の笑みを含んだ榎波は答えた。これにはまた女性陣が沸き、となりの彼女は手拍子まで打って熱狂した。
こうして突然舞いこんだ華のおかげで朝礼は大いに盛りあがった。
「詩織さんは実際のところどんな印象だった?」
弄舌家、兼カウンセラーの彼女はデスクもとなりだ。
「どんなって、二枚目だけど、ちょっと金仏そうじゃない」
「そこがいいのよ」
彼女は両腕で頬杖をついた。
場末に来たのはおちついて結婚相手を探すためだ、とか、こんなセンター丸ごと自分の物にできるくらいの私財と技量を持ちあわせている、とか、彼女は言いたい放題の憶測を語るだけ語って、午前の部がはじまる九時の三分前になると、デスクルームをつうとを出ていった。
世にもまれな弁士兼カウンセラーの正体は、興信所の女探偵だったようだ。




