★ 四話
「よっす!」
「やっほいっつん!!」
結局百弥は2階と3階の間の踊り場で、樹里の家を前にしてバテていた。
しかし、僕が着いた時にゆるゆると立ち上がり、樹里の家のインターホンを押して、樹里が出てきた途端に、この調子だ。
「とりあえず上がりなよ」
「おっじゃましま〜す♪」
「お邪魔します」
いつの間にか、ちゃっかり僕より先に入っていく百弥。さっきまで高々階段2階分でバテてたのは何だ。小芝居か?
「千那? 早くあがりなよ」
「え? あ、あぁ」
玄関先でしっかり立ち止まってしまっていた。慌てて靴を脱いで、中にあがる。
「俺の部屋入ってて〜。二人共炭酸大丈夫だったよね?」
「ん」
「むしろ炭酸中毒だしー♪」
コイツが言ったそれはあながち間違いではなく、1日に500ミリリットルペットの炭酸飲料を絶対に1本は飲んでいる。
樹里のお言葉に甘えてアイツの部屋に入る。ここには今までにも何度もお邪魔してる為、部屋を間違える事は無い。
開き戸を開いてそこに有るのは、生活感の薄い部屋。家具は机、本棚、ベッドに小さめのソファとテーブルが全て1つずつ。机の上には何も乗っていなくて、通学用鞄は机の横に置いてある。本棚には教科書と著名な小説が何冊かに、国語と英和と和英の辞典が一冊ずつだけ。本当にここで毎日過ごしているのか怪しくなる。
「お待たせー。よく考えたら炭酸だと寒いからココア入れてきたよー」
「問題無かったんだけど」
「更に言うと、炭酸無かったんだ☆」
「それは先に言うべきだろ」
物事を言う順序というのはかなり重要だと思う。
「さて、何しようか」
「さっき勉強するっつってたのはどの口だ?」
「この口です……」
「えーっ、勉強すんのー?」
わざわざ文句たらたらな口調で何を言うかこの妹。
だったら別の事してろと言おうとした時、樹里が口を挟んだ。
「じゃあ綺来のとこ行ってたら?」
「えっ……あ、うん。じゃあそうする」
ほんの一瞬、表情を暗くしてから、いつもの能天気な表情に戻ってそう言った。
まただ。綺来ちゃんの事が話に出た瞬間、コイツのテンションはどっと下がる。何も無ければ――彼女の話題でなければ、表情を暗くする事もテンションを下げる事も無いのに。
僕がそう訝しんでる間に百弥は席を立った。
「さて、何からやるか」
「そだね。人生ゲームでもやる? プレステつける?」
「殴るぞ?」
「じゃあトランプしよう!」
「勉強しないんなら僕は帰るけど」
「ごめんごめん、冗談だよ」
全く反省の様子無く言ってる辺りコイツらしいというか……。
それでも一応、遊ぶ気は無くなったらしい。本棚から教材を出してきた為、僕も鞄から問題集を出して、指定されたテーブルにそれを置いた、刹那――
「いやぁぁぁぁぁぁ!!」
「!?」
「百弥ちゃん!?」
突然聞こえた妹の悲鳴。それは何を差していたのか、綺来ちゃんの部屋の方からだった。




