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僕らの平和に忍び寄る影  作者: 逢沢 雪菜
承章 死亡 
4/9

★ 四話

「よっす!」

「やっほいっつん!!」


 結局百弥は2階と3階の間の踊り場で、樹里の家を前にしてバテていた。

 しかし、僕が着いた時にゆるゆると立ち上がり、樹里の家のインターホンを押して、樹里が出てきた途端に、この調子だ。


「とりあえず上がりなよ」

「おっじゃましま〜す♪」

「お邪魔します」


 いつの間にか、ちゃっかり僕より先に入っていく百弥。さっきまで高々階段2階分でバテてたのは何だ。小芝居か?


「千那? 早くあがりなよ」

「え? あ、あぁ」


 玄関先でしっかり立ち止まってしまっていた。慌てて靴を脱いで、中にあがる。


「俺の部屋入ってて〜。二人共炭酸大丈夫だったよね?」

「ん」

「むしろ炭酸中毒だしー♪」


 コイツが言ったそれはあながち間違いではなく、1日に500ミリリットルペットの炭酸飲料を絶対に1本は飲んでいる。


 樹里のお言葉に甘えてアイツの部屋に入る。ここには今までにも何度もお邪魔してる為、部屋を間違える事は無い。


 開き戸を開いてそこに有るのは、生活感の薄い部屋。家具は机、本棚、ベッドに小さめのソファとテーブルが全て1つずつ。机の上には何も乗っていなくて、通学用鞄は机の横に置いてある。本棚には教科書と著名な小説が何冊かに、国語と英和と和英の辞典が一冊ずつだけ。本当にここで毎日過ごしているのか怪しくなる。


「お待たせー。よく考えたら炭酸だと寒いからココア入れてきたよー」

「問題無かったんだけど」

「更に言うと、炭酸無かったんだ☆」

「それは先に言うべきだろ」


 物事を言う順序というのはかなり重要だと思う。


「さて、何しようか」

「さっき勉強するっつってたのはどの口だ?」

「この口です……」

「えーっ、勉強すんのー?」


 わざわざ文句たらたらな口調で何を言うかこの妹。

 だったら別の事してろと言おうとした時、樹里が口を挟んだ。


「じゃあ綺来のとこ行ってたら?」

「えっ……あ、うん。じゃあそうする」


 ほんの一瞬、表情を暗くしてから、いつもの能天気な表情に戻ってそう言った。


 まただ。綺来ちゃんの事が話に出た瞬間、コイツのテンションはどっと下がる。何も無ければ――彼女の話題でなければ、表情を暗くする事もテンションを下げる事も無いのに。


 僕がそう訝しんでる間に百弥は席を立った。


「さて、何からやるか」

「そだね。人生ゲームでもやる? プレステつける?」

「殴るぞ?」

「じゃあトランプしよう!」

「勉強しないんなら僕は帰るけど」

「ごめんごめん、冗談だよ」


 全く反省の様子無く言ってる辺りコイツらしいというか……。


 それでも一応、遊ぶ気は無くなったらしい。本棚から教材を出してきた為、僕も鞄から問題集を出して、指定されたテーブルにそれを置いた、刹那――


「いやぁぁぁぁぁぁ!!」

「!?」

「百弥ちゃん!?」



 突然聞こえた妹の悲鳴。それは何を差していたのか、綺来ちゃんの部屋の方からだった。


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