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怪獣のいない世界〜偶然アレに変身できたけど一切使い道がない件〜  作者: 大福


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20/20

最終話 へぁ!!


 その夜。


 俺は、いつも通りベッドに入った。


 明日も仕事。


 目覚ましをセットして、スマホを置く。


 電気を消した。


「……。」


 目を閉じる。


 しばらくして。


 意識が、ゆっくり沈んでいった。


     ◇


「……。」


 気がつくと。


 何もない場所に立っていた。


 白い。


 どこまでも。


 何もない。


「……ここ。」


 知っている。


 あの時と同じ。


 最初に。


 銀色のアレを渡された時。


「……。」


 前を見る。


 いた。


 銀色の男。


 へぁさん。


「……。」


 久しぶりに見た。


 俺と同じくらいの大きさ。


 いや。


 ここでは、という意味だけど。


「お前……。」


 聞きたいことが山ほどある。


 どこから来た。


 何者なんだ。


 なんで俺なんだ。


 あの力は何なんだ。


 そもそも。


 最初から、一番聞きたかった。


「ちょっと色々聞きたかったんだけど……。」


「へぁへぁへぁへぁ。」


「……。」


「へぁへぁ。」


「……やっぱり。」


 駄目だ。


 何言ってるか、全然分からない。


 へぁさんは。


 しきりに頭を下げている。


「……何?」


「へぁ。」


 頭を下げる。


「いや、だから。」


「へぁへぁ。」


 また頭を下げる。


「……謝ってんの?」


「へぁ。」


「何に?」


「へぁへぁへぁ。」


「分かんねえよ。」


 相変わらずだった。


 へぁさんは、申し訳なさそうに。


 何度も。


 何度も。


 頭を下げる。


「……。」


 なんだ。


 この感じ。


 嫌な予感がする。


 へぁさんが。


 ゆっくり俺へ手を差し出した。


「……?」


「へぁ?」


「何?」


 手を差し出したまま。


「握手?」


 俺も手を出す。


 へぁさん。


 首を横に振る。


「違う?」


 へぁさんは両手の指で、細長い何かの形を作った。


「……。」


 もう一度。


 細長い形。


「……まさか。」


 銀色のアレを思い浮かべる。


「これ?」


 へぁさん。


 思いっきり頷く。


「……。」


「これを返せって?」


 ブンブンブンブン。


 すごい勢いで頷く。


「……。」


 俺は、へぁさんを見る。


 へぁさんも俺を見る。


「……お前。」


「へぁ。」


「もしかして。」


「……。」


「お前、間違っ――」


「へぁへぁへぁへぁ!!」


 ブンブンブンブン!


 ものすごい勢いで首を横に振る。


「……。」


「へぁ!」


 ブンブン。


「……嘘だな。」


「へぁ!」


「絶対間違えただろ。」


「へぁへぁへぁ!」


「分かった分かった。」


 もういい。


 今さらだ。


「返すよ。」


 そう言うと。


 いつの間にか俺の手の中に、銀色のアレがあった。


「……。」


 最初に見た時と、何も変わっていない。


 継ぎ目もない。


 ボタンもない。


 結局。


 最後まで。


 何なのか分からなかった。


「……ほら。」


 差し出す。


 へぁさんが両手で受け取った。


「へぁ。」


 頭を下げる。


「へぁへぁ。」


 また頭を下げる。


「もういいって。」


「へぁ。」


「……。」


 へぁさんが、少しずつ後ずさる。


「へぁ。」


 頭を下げる。


 一歩。


「へぁ。」


 また一歩。


「……。」


 帰る気だ。


「待って。」


「へぁ?」


「一応、これも渡しておくわ。」


 俺は思い出した。


 この前まとめた。


 今までの損害金額。


「……。」


 そう思った瞬間。


 手の中に数枚の紙が現れた。


「便利だな、ここ。」


 表紙。


『へぁさん活動に伴う推定損害一覧』


「これ。」


 へぁさんへ渡す。


「今までの損害金額。」


「……へぁ?」


 へぁさんが紙を見る。


 一枚。


 めくる。


「……。」


 二枚目。


 めくる。


「……へぁ。」


 三枚目。


「……。」


 動きが止まった。


「結構な額だろ。」


「……へぁ。」


 もう一度。


 一枚目から見る。


「そこ、最初の山。」


「へぁ……。」


「道路も。」


「へぁ……。」


「飛行機も。」


「へぁ……。」


「海も。」


「へぁ……。」


「船も。」


「……へぁ。」


 どんどん。


 小さくなっていくように見える。


「……。」


 俺は少し笑った。


「まあ。」


 へぁさんが顔を上げる。


「結構な額だけど。」


 少し考える。


 海。


 工場。


 船。


 助かった人たち。


 俺には名前も知らない人が、ほとんどだった。


「でも。」


 へぁさんを見る。


「助けられた人もいる。」


「……。」


「この力のおかげで。」


 へぁさんが俺を見る。


「……だから。」


 俺は頭を下げた。


「ありがとうございました。」


「……。」


 へぁさんは、しばらく動かなかった。


「……へぁ。」


 少し。


 安心したように見えた。


「……。」


 俺も、なんとなく肩の力が抜けた。


「でさ。」


 顔を上げる。


「結局、お前――」


「へぁ!」


「え?」


 へぁさんが。


 いきなり飛んだ。


「……え?」


 上へ。


 ものすごい勢いで。


「ちょっ!」


 遠ざかる。


「待て!」


「へぁぁぁぁぁ……。」


「まだ聞きたいことあるんだけど!」


 小さくなる。


「お前どっから来たんだよ!」


 さらに小さくなる。


「なんで俺だったんだよ!」


 消えた。


「……。」


 白い空間。


 俺だけ。


「……。」


「なんなんだよ!」


     ◇


 目が覚めた。


「……。」


 天井。


 自分の部屋。


「……夢?」


 身体を起こす。


 時計を見る。


 午前四時。


「……。」


 テーブルを見る。


 銀色のアレ。


「……。」


 ない。


 立ち上がる。


 テーブル。


 床。


 引き出し。


「……。」


 ない。


「マジか……。」


 引き出しの中。


 あの紙も、ない。


「……。」


 本当に。


 持っていきやがった。


 俺はしばらく、何もなくなったテーブルを見ていた。


「……。」


 もう。


 変身できない。


 四十五メートルにも。


 飛ぶことも。


 光線を撃つことも。


 できない。


「……。」


 不思議と。


 寂しくはなかった。


 少しだけ。


 肩が軽くなった。


「……寝よ。」


 明日も仕事だ。


     ◇


 数か月後。


     ◇


【最近へぁさん来なくね?】


1:名無し


そういや最近見ないな


2:名無し


最後いつ?


3:名無し



4:名無し


あれから出てない


5:名無し


死んだ?


6:名無し


やめろ


7:名無し


普通に帰ったんじゃね


8:名無し


どこに


9:名無し


知らん


10:名無し


宇宙


11:名無し


宇宙人だったの?


12:名無し


知らん


13:名無し


何も分かってなくて草


     ◇


87:名無し


政府に消された説


88:名無し


45mをどうやって消すんだよ


89:名無し


自衛隊


90:名無し


無理だろ


91:名無し


へぁさん普通に爆発痛がってたぞ


92:名無し


あれ衝撃だった


93:名無し


痛覚あるんだよな


94:名無し


海では震えてたし


95:名無し


寒かったんだろ


96:名無し


巨大ヒーローが寒さでガタガタ震えて

救命艇揺らしてたの今思い出しても草


97:名無し


本人必死だっただろ


98:名無し


笑うな


99:名無し


でも笑う


     ◇


216:名無し


ガイドラインにキレて

来なくなったんじゃね


217:名無し


それなら船助けに来てないだろ


218:名無し


確かに


219:名無し


じゃあ何で来ないの


220:名無し


事件ないからだろ


221:名無し


平和ってことじゃん


222:名無し


……


223:名無し


そう考えると

来ない方がいいのか


224:名無し


へぁさんが必要な状況って

基本ろくなこと起きてないからな


225:名無し


それな


     ◇


401:名無し


俺は会社員説まだ推してる


402:名無し


まだ言ってんのか


403:名無し


絶対会社員


404:名無し


根拠は


405:名無し


出現時間


406:名無し


係長な


407:名無し


なんで係長なんだよ


408:名無し


課長になったんじゃね


409:名無し


だから忙しいのか


410:名無し


昇進してへぁさん引退は草


「……。」


 俺はスマホを見る。


「してねえよ。」


 係長のままだ。


     ◇


676:名無し


結局ビーム何だったの


677:名無し


ビーム


678:名無し


本人は否定してそう


679:名無し


なんで


680:名無し


なんとなく


681:名無し


へぁさんスレも人減ったな


682:名無し


そりゃ数か月出てないし


683:名無し


そのうち忘れられるだろ


684:名無し


まあそんなもん


685:名無し


また出たら盛り上がるよ


686:名無し


出ない方がいいって

さっき結論出ただろ


687:名無し


そうだった


     ◇


921:名無し


もうすぐ1000


922:名無し


次スレいる?


923:名無し


いらなくね


924:名無し


本人出てないし


925:名無し


一応立てろよ


926:名無し


また来るかもしれん


927:名無し


来ない方がいい


928:名無し


でもちょっと見たい


929:名無し


分かる


930:名無し


勝手だなお前ら


     ◇


 俺はベッドに寝転がりながら、スレを眺めていた。


 もう。


 銀色のアレはない。


 へぁさんにもなれない。


 普通の三十五歳。


 会社員。


 係長。


「……。」


 それでいい。


     ◇


991:名無し


なんだかんだ面白かったな


992:名無し


被害受けた奴は笑えんけどな


993:名無し


それはそう


994:名無し


でも助かった人もいた


995:名無し


結局プラスだったのか

マイナスだったのか


996:名無し


そんなの誰にも分からん


997:名無し


結局へぁさんって

何だったんだろうな


998:名無し


分からん


999:名無し


本人はどう思ってたんだろ


「……。」


 指が止まった。


 その書き込みを、しばらく見ていた。


 山を壊した。


 道路を埋めた。


 飛行機にもぶつかった。


 海で光線を撃った。


 世界平和なんてものにも首を突っ込んだ。


 爆発は痛かった。


 瓦礫は熱かった。


 海は死ぬほど寒かった。


 腹はやたら減った。


 政府とは○×で話した。


 世界中から好き勝手言われた。


 会社では。


 なぜか係長になった。


 金も。


 とんでもなくかかった。


「……。」


 めちゃくちゃだった。


 でも。


 助かった人もいた。


 名前も知らない。


 もう二度と会わないかもしれない。


 そんな人たちが。


 今も普通に生きている。


「……。」


 俺は返信欄を開いた。


 少し考えて。


 文字を打つ。


1000:名無し


まあ、悪くなかったよ


 送信。


――このスレッドは1000を超えました。

新しいスレッドを立ててください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


『怪獣のいない世界』は、これにて完結です。


もし現実の世界で、突然巨大ヒーローになれてしまったら。


怪獣もいない。

宇宙人も攻めてこない。


そんな世界で、その力に本当に使い道はあるのか。


そんなところから始まった物語でした。


高橋の行動が正しかったのか。

へぁさんがいたことは、この世界にとってプラスだったのか、マイナスだったのか。


たぶん、答えは一つではないと思います。


ただ、高橋本人にとっては――


「まあ、悪くなかったよ」


それくらいでよかったのだと思います。


そして結局。


へぁさんが何者だったのか。

なぜ高橋にあの力を渡したのか。


……本当に間違えただけだったのか。


その辺りは、へぁさんに聞いてください。


たぶん、


「へぁ」


としか答えてくれませんが。


ここまで高橋とへぁさんを見守っていただき、本当にありがとうございました。


面白かった、へぁさん好きだったと思っていただけましたら、

感想や評価をいただけると嬉しいです。

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