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怪獣のいない世界〜偶然アレに変身できたけど一切使い道がない件〜  作者: 大福


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11/20

第11話 討論


 土砂災害から数日。


 へぁさんを巡る議論は、まだ続いていた。



 今夜も。


 テレビでは特集が組まれている。



『緊急討論――へぁさんをこのままにしていいのか?』



「…………」



 俺は夕食を食べながら、テレビを見ていた。



 別に見るつもりはなかった。


 チャンネルを変えたら、やっていただけだ。



『今夜は専門家の皆さんと、巨大人型存在、通称へぁさんについて徹底的に議論していきたいと思います』



「……徹底的に。」



 テーブルには。


 コンビニ弁当。


 ビール。



 箸を割る。



 画面には出演者が並んでいる。



 危機管理の専門家。


 災害救助の専門家。


 弁護士。


 軍事評論家。


 女性タレント。



 そして。



『ネット論客の西村博明さんです』



 四十代。


 眼鏡。


 薄い笑みを浮かべながら、椅子へ深く座っている。



『よろしくお願いします』


『よろしくお願いします』



 司会者が資料へ目を落とした。



『まず、今回の土砂災害です。へぁさんは二度にわたって現場に姿を現し、消防と連携して救助活動を行いました』



 映像が流れる。



 巨大な指で土砂を慎重に除けるへぁさん。


 岩を持ち上げるへぁさん。


 二次崩落を消防隊員へ知らせるへぁさん。



『この活動によって、複数の方が救助されています』



「…………」



 唐揚げを口へ入れる。



『一方で、救助活動に伴って道路や設備にも損傷が発生しました』



「そこもやるのかよ。」



『さらに議論となっているのが、二度目の出現後、へぁさんが再び現れなかったことです』



 箸が止まった。



「……来た。」



     ◇



『西村さんはどう見ていますか?』



『僕は、この件でへぁさんを批判するのは、ちょっと違うと思うんですよね』



「…………」



 テレビを見る。



『そもそも、二回現れたから三回目も現れられるって、誰が確認したんですか?』



「そう!」



『誰も知らないですよね?』



「そうだよ!」



『ネットでは「なぜ三回目がなかったんだ」と言われていますけど、三回目も可能だったという前提そのものが憶測なんですよ』



「そうなんだよ!」



 箸を持ったまま。


 テレビへ身を乗り出す。



『それを結果だけ見て、「もっとやれたはずだ」と批判するのは無理があると思います』



「お前、分かってんな!」



 唐揚げをもう一つ取る。



 こいつ。



 結構まともだ。



『ただ。』



「ん?」



『もし本人が、自分の活動限界を把握していないんだとしたら、それはそれで問題だと思いますけどね』



「はぁ?」



 唐揚げが止まった。



『これだけ巨大な力を持っていて、飛行までできる。自分がどこまで活動できるのか、安全な場所で事前に確認しておくべきじゃないですか?』



「どこでやるんだよ!」



『何ができて、何ができないのか。それすら分からない状態で市街地や災害現場へ出てくる方が、僕は怖いですけどね』



「知らねえんだよ!」



 箸を置く。



「説明書ついてねえんだぞ!」



 テレビの西村は。


 薄く笑っている。



『善意なのは分かるんですけど、善意と安全性って別の話なので』



「分かってるよ!」



『もし何か起きた時に、「知りませんでした」では済まないですよね』



「だから慎重にやってんだろうが!」



 ビールを一口飲む。



「こいつ嫌い。」



     ◇



 司会者が。


 危機管理の専門家へ話を振った。



『問題は、やはりへぁさんがどこの組織にも所属していないことでしょうか?』



『そうですね』



 専門家が頷く。



『現状、へぁさんは完全に独立した存在です』



「会社には所属してるよ。」



『警察でも消防でも自衛隊でもない』



「保険会社だよ。」



『そして、誰の指揮下にもありません』



「上司いるよ。」



『ですから、いつ現れるのか、どこへ現れるのか、何をするのか、すべて本人の判断に委ねられているわけです』



「そりゃそうだろ。」



『これは危機管理上、非常に大きな問題です』



「何でだよ!」



 また箸を置く。



『今回のように善意で救助活動を行っている間はいい。しかし、判断を誤った場合、誰が止めるのでしょうか?』



「…………」



 これは。



 少し。



 分かる。



『ですから今後は、政府との間で何らかの協力体制を構築する必要があると思います』



「それならいいよ。」



『活動について、一定のルールを設けるべきです』



「まあ……。」



『場合によっては、出現前に政府の許可を得る仕組みも――』



「待て待て待て待て!」



 身を乗り出す。



「人埋まってんだぞ!」



『無秩序に活動させるわけにはいきません』



「申請通るまで待ってろって言うのかよ!」



 立ち上がる。



「どこに申請すんだよ!」


「市役所か!?」


「巨大人型存在窓口って何階だよ!」



 テレビでは。


 冷静に討論が続いている。



『西村さんはどうですか?』



『いや、許可制は現実的じゃないと思いますよ』



「そう!」



 座る。



『災害って許可を待ってくれないので』



「そうなんだよ!」



『ただ、政府への連絡くらいはできるんじゃないですか?』



「どうやって!」



『日本語を理解していることは確認されているわけですから』



「電話したら俺だってバレるだろ!」



 ビールを飲む。



 テレビでは。



 誰も何も言わない。



     ◇



 今度は。


 軍事評論家。



『私が懸念しているのは、安全保障上の問題です』



「またかよ。」



『海外から見れば、へぁさんは日本国内で活動する巨大な戦力とも受け取れます』



「戦力じゃねえよ。」



『飛行能力を有し、極めて高い身体能力を持つ。さらに未知の能力を保有している可能性も否定できません』



「…………」



『これを一個人の判断だけで活動させていると他国に認識された場合――』



「一個人って言うなよ。」



『国家として管理できていないということになります』



「管理管理って!」



 声が大きくなる。



「何時に起きたとか!」


「何食ったとか!」


「休みの日どこ行ったとか!」



『少なくとも所在については把握する必要があります』



「なんで休日まで国に居場所教えなきゃなんねえんだよ!」



 ビールを飲む。



「プライバシーって知ってるか!?」



     ◇



 弁護士が口を開いた。



『法的には非常に難しい存在です』



「今度は何だよ。」



『まず、へぁさんを法的に何として扱うのか』



「人だよ。」



『人間であるという保証はありません』



「人間だよ!」



『未知の生物である可能性もあります』



「生物って言うな!」



『仮に人格を有する存在と認められた場合でも――』



「有るよ!」



『損害賠償責任を負わせることが可能なのか』



「…………」



『仮に数億円規模の損害が発生した場合、本人に支払い能力があるのかという問題もあります』



「払えるわけねえだろ!」



 即答した。



『そもそも本人の資産状況すら分かりません』



「そんな金ねえよ!」



『住所も不明です』



「賃貸だよ!」



『氏名も不明』



「高橋直人だよ!」



 ビールを飲む。



     ◇



『でも。』



 女性タレントが口を開いた。



『へぁさんって、ちょっと可愛いですよね』



「…………」



 止まった。



『可愛い、ですか?』



『なんか、こう……一生懸命じゃないですか』



「…………」



『土をこう、優しく取ってるところとか』



 手で。


 サワサワする仕草。



『あと、「へぁ」って言うじゃないですか』



「言うよ。」



『あれ、ちょっと可愛いなって』



「…………」



 唐揚げを食べる。



「まあな。」



     ◇



 司会者が話を戻した。



『では、へぁさんへ報酬を支払うべきだという意見についてはいかがでしょう?』



「!」



 テレビを見る。



『今回、実際に人命救助を行っています』



「そうだよ。」



『消防や警察では対応困難だった作業を行ったという点では、何らかの報酬があってもいいのではないでしょうか』



「そうだよ!」



 身を乗り出す。



「タダだぞ!」



『西村さんは?』



『僕は反対ですね』



「はぁ!?」



『そもそも誰も依頼してないですよね』



「助けてって言ってただろ!」



『雇用契約もない』



「会社とはあるよ!」



『本人が自分の判断で来て、自分の判断で救助しているわけですから』



「勝手みたいに言うな!」



『それに活動時間って、一回あたり約三分ですよね?』



「二回なら六分だよ!」



『仮に時給換算すると――』



「時給で計算すんな!」



 完全に。


 テレビと喧嘩していた。



     ◇



『では逆に、損害についてはどうでしょう』



「…………」



『今回も救助活動に伴って数千万円規模の損害が発生しています』



 弁護士が答える。



『本人の行為と損害との因果関係が認められれば、理論上は賠償責任を検討する余地はあります』



「おい!」



『ただし、緊急避難や人命救助という事情もありますから――』



「あるだろ!」



 西村が口を挟む。



『でも、報酬は欲しい、壊した物は払いませんって、ちょっと都合良すぎません?』



「うるせえな!」



『仕事としてやるなら責任も負うべきですよね』



「仕事じゃねえよ!」



『じゃあ報酬もいらないですよね』



「それとこれは別だろ!」



『どう別なんですか?』



「…………」



 ビールを飲む。



「こいつ本当に嫌い。」



     ◇



 災害救助の専門家が口を開いた。



『現場の立場から言わせていただくと、今回へぁさんが来てくれたことは非常に大きかったと思います』



「ほら!」



『人力や重機では時間のかかる作業を、極めて短時間で行ってくれました』



「そう!」



『しかも映像を見る限り、かなり慎重に作業しています』



「そうなんだよ!」



『ですから、今後も災害時には協力していただきたい』



「いいよ!」



『ただし。』



「…………」



『現場の指揮系統には従っていただきたい』



「どうやって!」



『消防の指示を正確に理解し、行動してもらう必要があります』



「へぁしか言えねえんだぞ!」



 西村が口を挟む。



『だったら巨大なフリップでも用意すればいいんじゃないですか?』



「…………」



 止まった。



『「右」「左」「止まれ」とか』



「…………」



 ビールを飲む。



「それは用意しとけよ。」



     ◇



 討論は。


 一時間続いた。



 夕食は。



 とっくに冷めていた。



『最後に視聴者アンケートの結果が出ました』



「…………」



『皆さんは、へぁさんをどのような存在だと思いますか?』



 画面に。


 選択肢が出る。



 A 人類を守るヒーロー


 B 管理すべき危険な存在


 C まだ判断できない


 D なんか可愛い



「Dいるか?」



『結果はこちらです』



 数字が出る。



 A 26%


 B 18%


 C 21%


 D 35%



「…………」



 テレビを見る。



「なんでだよ。」



 女性タレントが笑う。



『やっぱり可愛いんですよ』



「…………」



 司会者も笑った。



『西村さん、最後に一言お願いします』



『そうですね』



 西村は。


 いつもの薄い笑みを浮かべた。



『結局、嫌なら何もしなければいいと思うんですよ』



「…………」



 少しだけ。



 怒りが消えた。



『誰もへぁさんに救助を強制しているわけじゃないですよね』



「…………」



『本人には、僕らを助ける義務なんてないんですよ』



 黙ってテレビを見る。



 あの日。



 泥だらけの男が。



 カメラへ向かって叫んでいた。



『まだいるんだ!』



『助けてくれ!!』



 行かなければ。



 それで済んだ。



 何も壊さない。



 誰にも文句を言われない。



 損害額も増えない。



 危険にもならない。



 やらないでいられるなら。



 その方が。



 ずっと楽だ。



「…………」



 小さく息を吐く。



「それができりゃ……。」



 テレビを見る。



「苦労しねえんだよ。」



『まあ。』



 西村が続ける。



『本人がそこまで深く考えて行動しているのかは、分かりませんけどね』



「考えてるわ!!」



 声が。



 誰もいない部屋に響いた。



『それではまた来週』



「来週もやんのかよ!!」

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