「第19話」
どこから連れてきたんだ、か。
店主が気にするのも無理はなかった。とはいえ、いちいち正確に答える必要はなかった。
「薬草を採ってるときに拾ったさ」
「……孤児だったんですか?」
「まぁ、かなり薄汚れていたな」
レイゲルと出会ったときには、すでにこの子の両親は亡くなっていた。だから、別に間違ったことを言ったわけではなかった。
「服もボロボロだったし、せめて見すぼらしくない格好くらいはさせてやらんとな」「ああ……だから店を探してたんですね」
店主は知っている店について説明してくれた。ついでに簡単な地図まで描いてもらえた。
「弟子って言ってましたけど、教えてみてどうですか?」
「大人に負けず劣らず、なかなか賢い」「おお、そうなんですか?」
「一つ教えればそれ以上のことを自分で理解してしまうので、私が知っている知識がすぐに尽きてしまいそうなほどかな。それだけ教えがいがあるとも言えるが」
興味半分、社交辞令半分。そんな軽い質問だったのかもしれない。なのに、私はすっかり調子に乗ってしゃべりすぎてしまった。無意識のうちに語気が強くなっていたように思った。そのことに気づいたのは、ずいぶん話した後だった。普通はこうしないのに。らしくもなく浮かれた自分に気づいて、咳払いで誤魔化した。
「その弟子さん、かなりお気に入りなんですね。機会があれば、お目にかかりたいです」
「……機会があればな」
店主は気さくな笑みを浮かべて笑った。目元まで柔らかく緩んだその顔を、真正面から見ているとなんだか恥ずかしくなっていた。頬にほんのり熱がこもるのを感じた。幸いにもフードを被っていたので、私の顔は見られていないだろう。心の中で安堵した。
……自分らしくないことをするとは。
ちらりと店主を見ると、彼は変わらず笑顔のまま、どこか可笑しいほどやさしい眼差しを向けていた。
……変な風に思われていないなら、それでよしとしよう。
「じゃあ、そろそろ失礼しよう。家で待ってる者がいるものでな」
「あ、すみません、引き留めちゃって。来月も、よろしくお願いします」
これを最後にして、私は軽く手を振って店を後にした。町は再び、いつもの穏やかな雰囲気に包まれていた。ベニアサの騎士たちが引き上げた今、人々の間にはようやく安堵の色が広がりはじめていた。
「さて、まずはどこに行こうか」
地図の描かれた紙を指でこすると、かさりと音がした。目的地を示す印が目に入った。
先に寄ってもいいだろう。
行き先を決めて歩き出した。
カラン。
「いらっしゃいませ」
「八歳くらいの男の子の服を探しているんだが」
「こちらへどうぞ」
店員に案内されながら、ずらりと並ぶ子どもの服を順に見た。
……どんな色が好きか、聞いておけばよかったかな。
今さらそんなことを考えても、後の祭りだった。レイゲルが着る服。あの子がかつて貴族だったことを、わざわざ周囲に吹聴して歩く必要はなかった。当然、選ぶべきは平民向けの服だった。
良家育ちだったせいで、質感に慣れてないかも知れないが……
どんなに高価な服を買っても、平民が着る服と貴族が着る服では、生地の質に違いがあるのは仕方なかった。ましてやレイゲルは、ただの貴族ではなく、名門と呼ばれる家の出だった。違和感を感じても無理はなかった。
まぁ、そこは適当に折り合いをつけてくれるだろう。
とても利口で、子どもなのに子どもらしくないところがあった。だから、着せた服に文句を言うような真似はしないだろう。
デザインも、無難なのが一番だよな。
そこはあまり悩む必要がなかった。庶民の服なんて、金持ちの商人でもない限り、たいてい似たようなものだったからだ。
問題は、色か……
子どもが着る服だけあって、シンプルなものから、さわやかで元気なデザインのものまで、さまざまな種類があった。中には、鮮やかでも派手すぎない、絶妙な色もちらほら見受けられた。
できれば目立たない色の方がいいかな。
そう考えながらも、ふと手が止まった。好ましくない事実に気づいてしまったからだった。
……あの子、顔が目立ちすぎる。
どんなに地味な服を着せたところで、着る本人があれだけ目立つのでは意味がなかった。隠しようとしても現れてしまう。その存在感は、じっとしていても人の目を引くほどだった。髪なら染めるなり、かつらをかぶせるなりできる。だが、顔立ちだけはどうにもならなかった。だからといって、その美しい顔に醜い傷跡を残すわけにはいかない。
元々普通ではないとは思ったが。
長い歳月を生きてきた中で、世間で『美形』と言われる人々には、それなりに何度も出会ってきた。その中でも、レイゲルは群を抜いていた。まだ十歳にも満たない子だが、将来の芽がただならぬものだと言える。ブサイクよりはイケメンのほうがいいが、そのおかげで面倒なことが増えた。その点がどうにも気に入らず、短く舌を鳴らした。
結局、何を選んでも同じだな。
もし、レイゲルの見た目がもう少し平凡だったら、ここまで悩む必要もなかっただろう。たぶん控えめな色を選ぶだけで済んだはずだ。本当に無駄にイケメンであるがゆえに、悩みを増やしてくれた。
先に好みを聞いておくべきだったかな。
今こんなことを思っても、意味はなかった。
……まって。
ふと我に返った。自分が何を考えているのか分からなくなった。なんで俺が、あいつの好みまで考えてやってるんだ?思わず自分自身に呆れて、頭を軽く振った。ただ一着、無難そうなものを選んで渡せばそれで済む話だというのに。あの子が何と言って、そんな趣味みたいなつまらないことまで考慮してくれているのか、よくわからなかった。
変じゃなければそれでいい。
そう結論づけて、いい感じのものがあれば、それを選ぶことにした。何着か手に取り、レイゲルがそれを着ている姿を頭の中で想像してみた。明るい色は、子どもらしい無邪気さが引き立って悪くない。暗めの色は、落ち着いた雰囲気を纏わせてくれるので、これもまた悪くない。
気軽に着るには黒が無難だけど。
汚れが目立たない色だからだ。ただ、問題がひとつ。私自身も日常的に黒い服を好んで着ているのだ。二人そろって黒づくめで歩く姿を想像してみた。どう考えても陰気くさい。
……じゃあ、黒はナシとして。
どうするか、決めた。




