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大海の蜃気楼 ートリアイナ王国海戦記ー  作者: 出羽育造
第1章 灼熱の世界大戦
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第24話 シルルの姫

 AT歴1875年10月26日


 戦いの機運高まる。ネアス島基地は敵上陸艦隊接近の報を受け、防衛計画に基づく陣地の構築や塹壕の補強、戦闘車両の配置を行っていた。増派機甲旅団の戦車連隊(戦車72両)の大隊(1個大隊24両)率いるエドワードとユウキもまた連隊長の西田少佐や中隊長らと迎撃戦に向けた作戦計画を練っていた。


「再度確認しておくぞ。偵察機情報によると敵上陸艦隊は大型強襲揚陸艦1、戦車揚陸艦20、機動兵器揚陸艦12、兵員輸送艦35隻、計67隻の大艦隊だ。想定される敵兵力は7万から8万人。戦車、装甲車等の機甲車両は400から500両、何より問題は機動兵器揚陸艦に搭載されているドアマースだ。ドアマースも200機を超えるだろう」

「錚々たる戦力ですね。これを第2師団の1万5千人と我が増派部隊6千人で迎え撃たなければならないという訳ですか」

「こりゃ少々てこずりそうだなぁ」


 西田少佐の説明にユウキがため息をつき、エドワードが両手の平を上に向けて動かしながらおどけたように言った。西田少佐は手元の紙を見ながら続ける。


「さらに悪い事に、帝国第7艦隊と第3任務部隊から分離した戦艦隊が上陸支援のため接近している。第7艦隊には空母が3隻含まれている。こいつらの搭載しているフィンヴァラーとアルビオンも厄介な存在になりそうだな」

「ところで、航空隊の方はどうなんですか?」


 会議に参加している中隊長の1人が手を上げて発言した。


「第11航空団のヒューズ少将は、飛行場が敵戦艦の艦砲の射程内にある事から、少数の航空支援機を残して、マルティア基地に退避させることを決めた。よって、航空支援はそれほど期待できんだろう。ただ、少将は敵に制空権を取らせるような真似はしないとも約束してくれた。ここはヒューズ司令を信じるしかない。また、隠し玉もあると言っていたそうだ。あとは自走対空機関砲頼みだな」


「隠し玉か…。エドワードの玉のようなショボイもんだったら困るな」

「ウルセェ! ユウキだってオレとそんなに変わらんだろうが。大きさは!」


 会議室がどっと笑いに包まれる。室内の緊張感が大分和らいだ。西田少佐は皆の笑いが収まるとネアス島住民及びシルル王国の対応について説明した。ネアス島住民1万7千人は増派部隊を運んできた輸送船団に乗せてテティス島に避難させる。その後、輸送船団はマルティア基地に戻り待機。

 撃沈破された空母部隊から移動してきた母艦機のうち、飛べるものは燃料補給の上マルティアに移動、被弾損傷機は爆破の上、搭乗員は輸送機で避難する。


「なお、王室と政府はシルル王族を一時保護することに決め、専用機が派遣された」

「さすが、国王オヤジは仕事が早いな」


 エドワードがふむふむと頷く。西田少佐はそんな彼を無視して次の話題に移った。


「現状は以上の通りだ。次に防衛計画に基づく我が戦車連隊の作戦について説明する」


 西田少佐はテーブルに地図を広げた。


「このネアス島はサンゴ礁の隆起で出来た他の環礁内の島とは異なる火山島で、環礁では最も大きい島だ。南北約45km、東西約17kmと細長い形状をしている。北部と南部は平均200から300mの山地で、最高峰は南部のアイタペ山432mだ。」

「平坦な島中央部の東側には爆発火口マールで出来たザールビング湾があって、湾奥部に島唯一の町ホーランディアがあり、海軍基地や飛行場もここにある。ちなみに西側はリアス式海岸でソロン湾に小規模な港がある。お前ら、改めて言うまでもないが、この地形をよく頭に叩き込んでおけ。特にお前、エドワード!」


「おわ! いきなしご指名かよ!? 連隊長、悪ガキを名指しする先生みたいに言わんといてください」

「いや、その通りだろ」


 ユウキがエドワードの顔を見て笑った。西田は小さく笑みを浮かべた後、真顔に戻ると地図上のある一点を指し示した。全員指示棒の先を見る。


「ネアス島に強襲上陸するとして最も適している地形はザールビング湾だが、ここは入口が幅1km程しかないボトルネックとなっているため、大艦隊が一時いっときに通過するには難があるし、機雷を仕掛ければ艦の侵入そのものを封じられる。では、ザールビング湾以外で大部隊が上陸できるのはどこか。それは、見ての通り南東丘陵地帯の前面にある転石海岸だけだ。よって、第2師団司令部は、奴らが必ずここに来ると見ている」


「転石海岸は長さ1.5km、奥行き100から150mの砂交じりの転石地帯で、そこを抜けると奥行き約2kmの岩場が点在する緩やかな上りの草地が続き、その先は高さ200から300mの低山が連なる山地=サマラス山となってる。海岸から侵入し、このサマラス山を押さえてしまえば、ホーランディアの側面に回り込むことが出来、一気に町に雪崩れ込むことができる」


 西田は全員の顔を見回した。


「俺達は何としても、このサマラス山を死守しなければならない」


 全員が決意と覚悟を決めた顔で頷いた。西田は地図の上に山地の拡大図面を広げた。地図には赤、青、緑…様々な色のペンで書き込みがされている。


「サマラス山の重要性を理解していた第2師団はここをコンクリートで強固な要塞化している。我々は第2師団と共に、ヴァナヘイムのクソ野郎共をここで迎え撃つ!」

「オオーーッ!」


 全員が雄叫びを上げた。続いて連隊長の西田が戦車連隊全体の作戦方針、大隊長のエドワードとユウキが大隊毎の役割分担について説明を始め、各中隊長は来るべき戦に向けて確認をしていくのであった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 戦車連隊の作戦会議を終えたユウキとエドワードの2人は、戦車の終結場所に移動し、ユウキの乗車戦車であるトリシューラの砲塔に腰かけながら、支給されたレーションで遅めの昼食を摂っていた。


「しかし、西田少佐はクソ真面目だよな~。会議に5時間て拷問だろ。椅子に座りっぱでケツの感覚が無くなったぞ。おまけになんだよ、みんなの前で何回も名指しで注意してくるしよ。クラスの問題児じゃねーんだぞ。全く…。大体、俺は大隊長だぞ。しかも王子様」

「いや、オレが少佐の立場なら、やっぱりお前を注意するぞ。アホだし」

「このぉ…。誰がアホだ、誰が!」

「お前」


 ユウキがレーションをスプーンで掬ってエドワードに向けた。エドワードはガルル!と唸って、パクっと目の前のスプーンを咥えた。口に入ったレーションをもぐもぐしながら、感心したように言った。


「だが、指揮官としては優秀だ。俺達の命を預けるには値する男だと思うぜ」

「それについては全く同意だ」

「だけど、あーんなクッソ真面目で面白味もねぇ堅物じゃ、女は敬遠するだろーなー。デートの場で絶対に「王国陸軍戦車兵心得之条」とか言って、渋茶を飲んで女をドン引きさせるんだぜ。わははっ」

「なんじゃそりゃ。流石に少佐でもそれは無いだろ(笑)」


 二人はワハハと笑った。戦車の周囲で休憩を取っていて、話を聞いていた兵達も声を殺して笑ったが、人の気配に気付いて振り返ると、慌てて立ち上がって敬礼して散って行った。しかし、砲塔の上に座っていた二人は気付いていない。西田少佐ネタで大笑いしている。その二人に声が掛けられた。


「エドワード、ユウキ。降りて来い」

「ん…? ゲッ!?」

「に、西田連隊長!?」


 声をかけて来たのは西田少佐だった。エドワードとユウキは慌てて戦車から降り、西田の前に立って敬礼し、気を付けの姿勢を取った。心の中では話を聞かれていない事を祈っている。戦いを前に説教だけは避けたいところだ。脇の下を冷や汗が流れる。


「な、何か御用でしょうか!」


 西田は表情を変えず敬礼を返すと、二人の顔をじっと見た。鋭い視線に射すくめられ、ごくりとつばを飲み込むエドワードとユウキ。とても妹達には見せられない姿だ。


「二人に客だ。旅団司令部にいる。ついて来い」

「は? 客…ですか?」

「一体誰です?」

「来れば分かる」


 それだけ言うと西田はくるりと踵を返して歩き始めた。エドワードとユウキはその後をついて歩きながら顔を寄せ合って、囁き声で話し始めた。


「客って誰だろうな」

「それより、オレ達の話は聞こえてなかったようだな。助かった」

「ホント、それな」


 急に立ち止まった西田は二人に向かって振り返り、ポケットから1枚の写真を出して見せてきた。写真には20代後半と思われる美しい女性が優しく微笑みながら1歳位の可愛い女の子を抱いている姿が写っている。


「私の妻と娘だ。悪かったな、妻帯者だ」

「す、スミマセンでした…(き、聞かれてた…)」(ユウキ)

「び、美人な奥様と娘さんですね。羨ましい。はは…」(エドワード)

「ごまなどすらなくていい。全くお前らはしょうがないな」


 旅団司令部に向かう途中、西田は奥さんとの出会いを話してくれた。家が近所で幼い頃からの知り合いだった事。子供の頃の彼女は体が弱く休みがちで、お見舞いがてらよく勉強を教えてあげた事、中学の頃、いじめを受けていた彼女を身を挺して守ってあげた事、やがて恋仲になり、自分の陸軍大学校卒業と同時に結婚した事など…。真面目で堅物、色恋沙汰には無縁と思っていた西田が思い出話をした事に二人は驚いた。


「いやぁ~、西田連隊長にも青春時代があったんですね~。良い話を聞けました」

「にもってなんだ。私は愛する妻を、子供を守りたい。家族の居場所を守りたいんだ。増派機甲旅団に志願したのもトリアイナ本国を戦火に巻き込みたくないという思いからだ。妻には泣かれたけどな。最後には分かってくれたよ」

「その気持ち分かります。オレの父は戦火で両親と妹を失ったそうです。その時、側にいてやれなかった事を今でも後悔していると言ってました。オレにも妹がいます。何としてもヴァナヘイムのクソ共から妹の未来を守ってやりたい」

「そうだな。私達が守ってやらねばな」

「隊長の奥さんは理解があって優しそうだし、ユウキの妹のベルは兄思い。それに比べて俺は妹のレイラに「お国のために死んで来い。骨も残さずにね」と心からの笑顔で言われたぞ。二人が羨ましすぎる」

「お前にはあおいちゃん(中学生)がいるだろ」

「そうだった(笑)」


 ユウキとエドワードは、仲間内で「堅物鉄面皮の鬼連隊長」と異名を持つ西田も家族を愛する一人の人間として、相当な覚悟を持って戦いに臨んでいるんだと知り、距離がなんとなく縮まるのを感じるのであった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 第2師団司令部に隣接して急遽建てられた仮設の臨時庁舎の1室に案内されたユウキとエドワードに西田は中に当該人物がいることを告げて扉をノックした。ほどなくして中から「どうぞ」と声がかかった。西田に続いてふたりが中に入ると、テーブルを挟んで二人の若い女性が座っており、その隣に一人のスーツを着た老年男性が立っていた。


「お待たせしました」


 西田は女性に敬礼をして、エドワードとユウキを紹介した。


「こちらが王国陸軍大尉、エドワード王子様。その隣が王国伯爵家、ユウキ・ソーリオス・伊達様です」


 二人が紹介された後、女性達はスッと立ち上がって頭を下げて礼をした。ユウキは女性を見て内心驚いた。二人の顔はそっくりで見分けがつかないほど似ている。


(双子か!? 全然見分けがつかないぞ。しかも、凄い美人だ)


 ユウキは思わず見とれてしまった。女性は20代前半位の年頃で、肌の色は薄褐色系。スタイルの良い体をワンピースドレスに包み、黒くて艶のある長い髪を三つ編みにして、一人は右前、もう一人は左前の胸当たりまで下げている。


「お初にお目にかかります。私はシルル国王アベルの娘でアーシャと申します。こちらは双子の妹の…」

「サーシャと申します」


 西田少佐が着座するように促した。全員が椅子に座るとエドワードが話を切り出した。


「私達にお話があると言う事ですが、どのような事でしょう。突然の事で少々驚いているのですが」


 流石のエドワードも相手が王族という事で敬語になっている。アーシャとサーシャは笑顔から真剣な表情になると理由を話し出した。


「ヴァナヘイム帝国の侵攻でこのネアス島が戦場になるとのこと。そうなれば、環礁に隣接するシルル王国の各島々も戦禍に巻き込まれ、多くの被害が出るでしょう」

「シルルは小国です。強大なヴァナヘイムに対抗できる軍事力はありません。大変心苦しいのですが、私達シルルの国民は貴国にお縋りするしか助かる道がないのです」

「そのような中、貴国は私達王族(国王、王妃他王子2名、姫3名)を受け入れて下さっただけでなく、イザヴェル国と協議して全国民5万人を同国に避難させる手筈を整えていただき、既に9割の国民が避難完了しています。貴国には感謝してもしきれません」


「まあ、シルル王家と俺ん家とは長い友好関係にありますからね。国王オヤジも良い判断したと思いますれば。で、滞在は王宮になるのでありましょうですか?」

「お前、無理に敬語使うから変になってるぞ。ところで、お二人はどうして私らに面会を?一刻も早くここを離れなければいけないのではないですか?」


「はい。そうなのですけど、この地を守るため、トリアイナ王族の方が自ら前線に立たれているとお聞きしまして、どうしても、一目お会いして、私たちの気持ちをお伝えしたく、デイビス准将(旅団長)に無理を言ってお時間を作っていただきましたんです」


 話終えた二人は顔を見合わせて頷くと、スッと立ち上がって頭を下げて声を合わせた。


「お願いです! このシルルを、この世界をお救い下さい。もう、トリアイナが私たちの希望なのです。お願いします!!」


 暫し沈黙が流れる。同席している西田連隊長とお付きの男性はなにも言わず、成り行きを見守っている。ややあって、エドワードが口を開いた。


「ここは軍人としてではなく、王家の人間として言わせてもらう。お二人の気持ちはわかる。だが、トリアイナは世界を救う力など持っていない。ヴァナヘイムより国力も人口も遥かに劣る中堅国だからな」


 アーシャとサーシャは顔を上げ、思ってもみない回答に失望の表情を浮かべた。エドワードは小さく笑みを浮かべて話を続けた。


「だが、俺達には異世界から得た技術と精神がある。これは決してヴァナヘイムに劣るものではない。トリアイナが戦い続け、彼らに打撃を与え続ける限り、ヴァナヘイムはこちらに注力せざるを得なくなる。そうなれば、イザヴェルやエウロペ条約機構が各戦線を押し返す。そのための外交交渉も続けている。世界の皆が協力し合えれば、きっと、以前のような平和な世界を取り返せると思っている。理想論かも知れんけどな」


「私の父は異世界から来た日本人で、あの戦艦大和の乗組員でした。父の元居た日本と言う国はアメリカという強大な国によって、多くの都市が焼け野原にされ、大勢の民間人が犠牲になったそうです。父はそのような事が繰り返されないよう、新たな故郷と決めたトリアイナを守るため、自分の知識を使って航空機開発に協力しています。私も同じ思いです。世界とか、そんな大きいのは関係ない。トリアイナを守る盾となり、愛する家族を守り抜く。それが、今の率直な気持ちです」


 二人の話を聞いたアーシャとサーシャは深々と礼をして、顔を上げるとニコッと笑った。


「よかった…。満足のいくお話を聞けました。私たちが言える立場ではありませんが、お二人の…トリアイナの方々のご活躍をお祈りしております」


 お付きの男性に促され、シルルの姫は臨時司令部から出て、司令部差し回しの車に乗り、飛行場の方角に走り去った。車が見えなくなるまで見送ったユウキとエドワードは、戦車大隊の集結地に戻るため歩き出した。


「シルルのお姫様、あんな話を聞くためにわざわざ時間を取ったのかな。本当にアレで満足したのか? 良くわからんな。どう思う、エドワード」

「……………。」

「エドワード?」

「なあ、ユウキ」

「なんだ?」

「あのふたり…」

「ふたりがどうした?」

「すっっっごい爆乳だったな! あんなデカいおっぱい、初めて見たぞ! 彼女ら、肩出しワンピースだったろ。お辞儀した時の谷間の迫力ったらなかったな。俺のハートと股間のドキドキが止まらねーよ。お前もそうだろ!?」

「お前もそーだろ♡ じゃねーよ、バカか、お前はーーッ!!」


 ネアスの夕焼けにユウキの魂の叫びが響き渡った。

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