表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大海の蜃気楼 ートリアイナ王国海戦記ー  作者: 出羽育造
第1章 灼熱の世界大戦

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/53

第13話 第5艦隊出撃!

 ネアス環礁モエン島のトリアイナ王国海軍基地に一群の艦艇が入港してきた。帝国第3任務部隊と対峙する第5艦隊に合流すべくマルティア基地から派遣された第4艦隊だ。旗艦の戦艦ミカサを始めとする40cm砲搭載戦艦2隻、軽空母2隻、重巡洋艦2隻、軽巡洋艦1隻、駆逐艦8隻の計15隻という編成である。続いて入港してきたのは増派機甲旅団の人員と戦闘車両を載せた大型貨客船と車両輸送船(RO-RO船)の一群だった。


 車両輸送船はタグボートによって指定された岸壁に横付けすると、ランプウェイを下ろして運んできた車両を揚陸し始めた。増派機甲部隊の中心となる王国軍主力戦車、52口径105mmライフル砲を搭載したトライデントA2が轟音をたてて次々と船倉から出てくる。また、別の運搬船からはM74装輪装甲戦闘車、35mm自走対空機関砲が次々と降りてきて埠頭に整然と並んで行く。最後に出てきたのは、量産が始まったばかりの最新鋭戦車トリシューラだった。


 トリシューラは全長9.41m、全高3.53m、全幅2.45m、重量52トン、1,250馬力の排気過給機付き水冷4サイクルV型12気筒ディーゼルエンジンを搭載し、最高速度は57km。新開発の複合装甲と砲塔全面に楔形隔壁装甲、両側面に増加爆発装甲を持ち、44口径120mm滑腔砲を装備するとともに、副武装として12.7mm重機関銃と7.62mm機関銃を持つ、王国の技術を結集した新型戦車だった(トライデントは傾斜装甲+増加爆発装甲)。


 埠頭に居並ぶ戦闘車両から少し離れた場所に兵員輸送してきた貨客船から降りた旅団兵6千人が整然と並んでいた。第1戦車大隊と第2戦車大隊を率いるエドワード王子(陸軍大尉)とユウキ・ソーリオス・伊達大尉も列の先頭に立って戦車が並ぶ様子を見ていた。


「何とか敵の来襲より先んじて到着出来たようだな。しかし、機甲車両が並ぶ景色は壮観の一言だぜ。おまけに、まだ40両しか生産されていない新型戦車トリシューラを18両も寄越すとはな。ベアトリーチェ叔母さんは太っ腹だぜ」

「それ、本人の前で言うなよ。最近腹周りを気にしているからな。トリシューラの配備は相当な戦力強化になると思う。ただ、ミューゼル大将は相当渋ったって聞いたぞ。お前をダシにして何とか認めさせたって話だ」

「マジかよ…。ミューゼル大将には悪いことをしたな。こりゃ土産を持って行かなきゃならんな」

「土産? モエンの名物ってなんだっけ。魚の干物か?」

「干物じゃねーよ! 土産ってのは、ヴァナヘイムの輩共を叩きのめして追っ払う事だよ!」


「煩いぞ、静かにしろ!」


 うっかり大声を出したエドワードとユウキに対し、戦車隊連隊長の西田正隆少佐から静かにするように叱責の声が飛んできた。学生のように叱られてしゅんとなったエドワードとユウキに、部下達は笑ってはいけないと思いつつ、下を向いて肩を震わせている。しかし、当の本人達は全く気にしていないのか、直ぐに兵達と一緒に笑い出した。あまりの緊張感の無さに西田少佐もあきれ顔になった。だが、西田少佐はこれで良いとも思っている。

 モエン島に派遣された兵は、本土の各基地から選抜された優秀な兵達ではあるが、ここは最前線であり、近く始まるかも知れない戦いの予感に誰もが緊張でガチガチになっていた。それが、この2人のお陰でリラックスしたのか、表情が落ち着いたものになっていたからだった。


(さすが、王子と王族に連なる奴は違うな。肝っ玉が座ってやがる)


 西田少佐が感心していると、旅団長のアーネスト・デイヴィス准将と第二師団長ダニエル・クリストファー中将が増派機甲旅団の全兵士6千人、全戦闘車両(戦車72両、装輪装甲戦闘車48両、兵員輸送戦闘車48両、35mm自走対空機関砲16両、155mm自走りゅう弾砲36両)の前に進み出てきて訓示を述べる。


「諸君、よく来てくれた。諸君も知っている通りヴァナヘイムは圧倒的な兵力で、ここネアス環礁を攻めようとしている。ネアス環礁はトリアイナ王国を守る防波堤だ。ここを失えば王国本土が直接ヴァナヘイムの脅威に晒される。統合作戦本部もこの地の重要性を知っているからこそ、勇敢なる諸君らを派遣したのだ。既にヴァナヘイムは魔導戦艦12隻を主力とする戦闘艦100隻からなる大艦隊を編成してフリッツ島を出撃させた。ここネアス環礁を占領するためにだ。さらに、陸戦兵力を積載した強襲揚陸艦や輸送艦も出撃見込みとの情報もある。我々は陸海空、全ての力を結集して、これを退けなければならん。兵力差は大きく、敵の戦力は強大だ。しかし、我々もこの日のために力を蓄えてきた。愛する国土を守るため、諸君らの努力に期待する。以上だ!」


「国歌斉唱!」


 中将の訓示後、全員でトリアイナ王国国家を斉唱する。エドワードとユウキも歌いながら絶対に王国を、愛する家族を守ると心に誓った。ユウキは胸ポケットに手を当てた。可愛い妹から貰った小さなお守りがそこにある。お守りに触れていると心の奥底に勇気と力が湧いてくる気がした。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 第4艦隊司令のロバート・アルゲンティ少将は到着後、小沢長官及び各艦隊幹部と挨拶を行うため、モエン軍港にある第5艦隊軍司令部を訪れていた。

 厳つい顔に人懐こい笑顔を浮かべた小沢長官は、歓迎の言葉を述べて出迎えた。


「よく来てくれた、アルゲンティ少将」

「知将の誉れ高い小沢提督と肩を並べて戦える事、望外の喜びであります。我が艦隊が加わればかなりの戦力増強になるでしょう。ヴァナヘイムの奴らに王国艦隊は他の国々とは一味違うということを思い知らせてやります」

「うむ。期待しているぞ。ただ、あまり気負い過ぎるのは禁物だ。そこはよろしく頼む」

「ハッ!」


 アルゲンティ少将は、30年前、観戦武官として戦艦大和に乗り組んだアルゲンティ海軍大将の息子で、現在50歳と新進気鋭の若手提督として頭角を現している人物である。当時、王国海軍大学の学生であった彼は、戦後、多くの学生仲間同様、日本人の提督達に艦隊運用や戦術について学び、見学で訪れた大和に大きな感銘を受けた1人であった。


 アルゲンティは、第5艦隊空母戦隊司令の角田静流少将、第8巡洋艦隊司令のジョセフ・ラドフォード少将、第11水雷戦隊司令アレン・バーク大佐、第12水雷戦隊司令ジャック・バルクリー大佐、艦隊首席参謀のジョン・ヴェレカー大佐らと握手して挨拶を終えると、現在の状況と今後の方針について訊ねた。


「早速ですが、現在の帝国艦隊の状況と、対処方針についてお聞かせください」

「よかろう。首席参謀、説明を頼む」

「では、小官から説明します」


 全員が会議テーブルの椅子に着席すると、ヴェレカー大佐がバインダーを手に、テーチス海の地図が張られた移動式黒板の前に立って説明を始めた。


「まず、エルク・バルドー中将麾下の帝国第3任務部隊は9月19日にフリッツ島を出港しました。翌9月20日、フリッツ島から西北西方向185海里の地点で、漸減作戦の命令を受けた我が潜水艦8隻が攻撃を行い、巡航艦4隻と突撃艦12隻を撃沈、巡航艦2隻を大破撤退させました」

「ほう。初戦にしては、かなりの戦果ですね。それで我が方の損害は?」

「3隻と音信不通です。潜水艦隊旗艦のエスカローサからは敵艦隊にはモルム級対潜突撃艦が配備されていたと報告がありました。恐らく、これに撃沈させられたかと…」

「そうですか…。意外と損害が大きかったですね」


「ですが、彼らのお陰で第3任務部隊は溺者救助や大破艦の後送等で足が止まりまりました。彼らは艦隊を再編すると、再びネアス環礁へ向かって進撃を始めましたが、環礁から200海里の地点に到達するのは9月26日と当初予想より2日遅れとなる見込みです」


 今日は9月24日。潜水艦の足止めが無かったら第4艦隊の到着は間に合わず、優勢な帝国艦隊に各個撃破された可能性があった事を想像して、アルゲンティの背筋に冷たいものが走った。


「偵察によると、敵艦隊の戦力は戦艦12、空母10、巡航艦12、突撃艦40、補給艦4隻の計74隻となっています。特に、撃沈破した巡航艦6隻中、アームズ級防空巡航艦4隻が含まれていたのは、今後の作戦にとって大きな成果といえるでしょう」

「我々の要請に答えてくれた潜水艦隊には感謝しかない」


 小さく呟いた小沢中将は瞑目した。撃沈された潜水艦の乗組員に心の中で感謝しているのかも知れないとアルゲンティは思った。しかし、まだ敵の戦力は圧倒的だ。


「それでも、艦隊比は1対2か…。それで、我々の迎撃作戦は?」

「私から説明しよう」


 ヴェレカー大佐に代わって、空母艦隊司令の角田少将が立ち上がった。角田は第1次ヴァナヘイム戦争で艦上偵察機彩雲の搭乗員として活躍した。戦争後は航空機搭乗員養成の教官として数年勤めた後、空母の飛行長、艦長を経て提督になった人物で、航空戦に関しては王国海軍でも屈指の指揮官として知られていて、小沢も全面的な信頼を寄せている。


「敵の空母は10隻、搭載している人型飛行兵器の総数は約300機から400機。フィンヴァラーVとアルビオンが半々と推察される。一方、我が方の空母4隻の搭載機数は補用機を除き300機。さらに軽空母ユニコーンの45機と第4艦隊の軽空母2隻の90機を加えてほぼ互角だ。このうち、戦闘機の数は285機と我が方が100機以上優勢だ」


 角田は地図の上に自艦隊と敵艦隊の想定位置に磁石を置き、両艦隊の間を指示棒でなぞった。


「航空戦における最大の障害は敵戦闘兵器フィンヴァラーだ。これを排除するため、まず、戦闘機のみを編成して攻撃を仕掛ける。編成は第1次攻撃は正規空母イブキ(伊吹)、クラマ(鞍馬)、ホダカ(穂高)、ヒダ(飛騨)4隻に搭載された戦闘機136機。第2次攻撃は軽空母ペガサス、パトロクロスの戦闘機80機で行う。なお、艦隊防空は軽空母ユニコーンの艦載機が担う」

「それは…また、大胆な作戦ですね。しかし、それでは第3次攻撃の艦隊攻撃隊は護衛機無しで行うことになりませんか?」

「そうはならんよ」


 フッと角田は凄みのある笑みを浮かべた。小沢は目を閉じ、黙って説明を待っている。


「第3次攻撃は第11航空団が行う。現在、航空団はアマグラス基地から増派された飛行隊と合わせ、160機(戦闘機、攻撃機各80機)で、敵艦隊の空母と巡航艦、突撃艦を攻撃し、敵艦隊を丸裸にする。そして、正規空母の全攻撃機と第1次攻撃から戻った戦闘機隊による第4次攻撃で敵戦艦を叩く!」


「なるほど…。敵艦隊に対し、優勢な航空兵力で対抗する。確かにそれが最善と思われますが、それでも敵が撤退しなかった場合は…」

「艦隊戦で片を付ける」


 アルゲンティの問いに小沢は明確に答える。ただ、航空戦で敵艦隊が大損害を受け、撤退してくれるのが望ましいとも話した。


「希望的観測に過ぎないがな」


 小沢の呟きにアルゲンティ始め、その場の全員が頷いた。さらに、小沢は艦隊再編について説明する。


「第5艦隊は戦艦部隊と空母機動部隊に編成替えする。戦艦部隊は私が直卒し、空母機動艦隊は角田君に指揮をお願いする。第4艦隊の戦艦2隻は戦艦部隊に合同し、アルゲンティ少将は戦艦部隊の次席指揮官に任命する。また、第4艦隊の巡洋艦、水雷戦隊は空母機動部隊の護衛に付いてもらう」

「ハッ!」

「補給が終わり次第全艦出撃。ネアス環礁東方200海里(約370km)で敵を迎え撃つ!」


 大音声で命令した小沢に向かって全員が敬礼した。いよいよトリアイナ王国艦隊が30年の時を経て初めてヴァナヘイム帝国艦隊と砲火を交える時が来た。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 潜水艦の襲撃を受けた第3任務部隊は、沈没した巡航艦と突撃艦から脱出した乗組員を乗せた突撃艦4隻をフリッツ島に帰還させ、艦隊を再編して対潜警戒運動を行いながら、ネアス環礁のトリアイナ軍を撃滅するため進撃を続けていた。


 総旗艦である魔導戦艦フェンリルの羅針艦橋では司令長官のバルドー中将が苛立ちを隠そうともせず毒づき続けており、首席参謀のリーツ大佐やミュラー艦長をウンザリさせていた。


「クソッ! トリアイナの猿共め…。絶対に許さんぞ。一人残らず皆殺しにしてやる…。リーツ、艦隊の速度を上げろ。1分1秒でも早くネアスに向かえ!」

「はあ。艦長、艦隊を第二戦速にするよう各戦隊に通信を送ってください」


「しかし、速度を上げると対潜警戒運動が困難になるが…」

「大丈夫でしょう。いかにトリアイナだとて、潜水艦の配備数は多くありません。あの後、潜水艦の反応は無いし、もう襲撃は無いと考えられます」

「了解した。通信長、各艦に連絡してくれ。機関室、第二戦速に増速!」


 ミュラー艦長が艦の各部署に指示を送る間、リーツ大佐は幕僚達と海図を確認して、現在の速度からネアス環礁沖に到達する時間を推測する。潜水艦との戦闘、沈没した艦の溺者救助と大破艦の後送等で18時間程ロスしたのは痛い。

 ネアス環礁まで約2,000km。しかし、速度を上げることによって半日ほど短縮できる。明日の昼にはネアス環礁まで約500km圏内に近づくことができるだろう。いずれ、トリアイナ艦隊との戦闘は避けられない。情報によれば敵指揮官は戦略家として敵軍では知られた人物だと言う。不利な状況下でどのような戦術を取って来るのか。このような時こそ冷静な思考と行動が必要になるのだが…。


(困ったものだ。頭に血が上り過ぎて冷静さを失っている。このままでは、勝てる戦いも勝てなくなってしまう。何とか落ち着かせなくては)


 同じ思いなのか、不安そうな表情の艦隊参謀達に向かって頷いたリーツは、バルドー中将に近づき、声をかけた。


「長官、我々は敗北した訳ではありません。確かに巡航艦と突撃艦の一部に被害は出しましたが、今だ敵に倍する戦力を保持し、戦艦と飛空機母艦は全て、巡航艦も12隻が健在です。敵の出方を読みつつ、確実に勝利に向けて進むのが肝要と存じます」

「……………」

「長官!」

「……。わかった、貴官の言う通りだ。俺がどうかしていた。確かに艦隊の一部を失いはしたが、負けた訳ではない。それに、先の被害は貴官の進言を聞き入れなかった俺に責がある。だが、二度と同じ轍は踏まん。俺の艦隊でトリアイナの猿共を叩きのめし、この屈辱と借りは返す!」


 リーツはバルドーが冷静さを取り戻した事に安堵した。バルドーは艦橋を見回して大音声で命令を下した。


「我が艦隊は、圧倒的戦力を持ってトリアイナ艦隊を叩き、ネアスに籠る猿共を殲滅する! 全艦ネアス環礁に向かって前進せよ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ヴァナヘイム帝国、無能な者が上に立つ弊害は、少なくともある程度は是正されたようですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ