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後編08 信太朗⑪

 イケメン兄弟だ!


 信太朗から見た曽我兄弟の第一印象だ。


 兄は雄々しさの中に優しさを感じさせる。

 弟は知的な顔立ちの中に可愛らしさを残している。


 ソシャゲに出てきそうな二人だ。

 俺はメガネの位置を意味なく直した。


「俺が曽我十郎だ。こっちはとら……じゃなくて弟の五郎。俺たちに何の用だ?」


 乱暴な言い草だがなぜか嫌な気はしない。与一に似たタイプか?


「曽我殿。私は、平参議経盛(たいらのさんぎつねもりが六子、平敦盛と申す。」


 敦ちゃんが自己紹介する。


那須与一宗隆なすのよいちむねたかでござる。」


「信太朗です。」


 どうも俺だけ締まらない。

 今度かっこいいい名乗りを考えてみようか。


「敦盛?平敦盛は一の谷で、熊谷直実殿に討たれたって、義父殿(おやじどのが言ってたぜ。偽物だろう。」


「ちょっと兄上、いきなり失礼ですよ。」


 五郎が兄を戒める。


「僕は、本物の敦盛様だと思いますね。女性のような美しい顔立ちも噂通りです。そもそも死んだとされる敦盛様の名を騙って、僕らに嘘をつく意味がない。」


 五郎は見かけ通り聡い。話しが早く進みそうだ。


「わかったようるせえな。で、その敦盛様が我らに何かご用ですか。」


「単刀直入に言う。君たちの力を借りたい。一緒に源義経を倒すのを手伝ってほしい。いかに?」


 敦ちゃんは本当に単刀直入に言った。

 それ以上説明しようとはせず、口を閉じてしまった。


 与一は俺の隣で貧乏ゆすりをしている。

 一緒に旅をしてきて分かった、たぶん与一は、話は早く終わらせて、曽我兄弟と手合わせをしてみたいのだろう。


 五郎が警戒モード全開で俺たちを見ている。

 ここは俺の出番かな……。


「横から失礼します。私は敦盛様の従者で信太郎と申します。敦盛様は先の戦で、熊谷直実に討たれたのではなく、逆に命を助けられました。熊谷殿と、いかにしたらこの戦乱の世を終わらせられるか話し合い、和平の障害となっている源義経殿の命を頂戴する策を考えられたのです。その同行の士を募る旅をしています。豪傑の誉れ高い曽我殿にご助力いただけましたら幸いです。」


「話、長げええ!」


 十郎が叫んだ。


「俺たちは、義父や義兄たちの厄介者だからさ。ごちゃごちゃ言わなくても力を貸してほしいんならいくらでも貸すぜ。なあとら!」


「ちょ、私はとらではなく、曾我五郎時致です。兄上、義父上たちがいないときにそんなこと簡単に決めちゃっていいのですか?」


「いいってことよ。それにさ、平家の敦盛殿の配下に入れば、にっくき工藤を討てるってもんだ。母上もお喜びになる。そうだろう?」


 おお、これはいい流れだ。

 曽我兄弟の戦闘力が加われば、作戦成功の確率が跳ね上がる。


「しかしだ。」


 十郎が敦盛を睨みつける。


「俺はいまいち信用できねえ。おたくは本当に平敦盛なのかい」


 場が急に凍り付く。


「俺は嘘が嫌いなんだ。もし偽物ならただじゃおかねえ。」


「兄上!」


十郎は慌てている。なんだか可愛いな。


「偽物……」


 そうつぶやいて敦盛は目を瞑る。


 その時、外で雷の音がした。


 館の庭を見ると、さっきまで晴れていたのが急に曇り、雨が降り始めた。


「では……。」


 敦ちゃんはおもむろに目を開け、すくっと立ち上がった。


 懐から横笛を取り出す。

 先日熊谷殿から返してもらった『青葉あおはの笛』だ。


 彼女は笛に唇をそっと寄せる。

 息を吸い込むかすかな音がなぜかはっきり聞こえる。

 彼女の唇から静かに息が青葉の笛に吸い込まれる。


 曾我の屋敷内に笛の音が流れ始めた。


 俺は急に寒さを感じ始めた。

 雨は確かに、外で降ってているはずなのに、屋敷邸内に降っているような錯覚を覚える。

 雨音と笛の音がコラボレーションする。


 俺も与一も曽我兄弟も、魂を抜かれたように呆然として、邸内を降りしきる雨を見つめている。


「……」


 しばらくして笛の音はやみ、彼女の唇から笛が離れた。


 同時に雨も上がった。


 しかし皆の頬を流れる涙は、しばらく止まることがなかった。


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