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10-2 そしてジョンは仕事を始めた

次の日、ジョンは早速パラメータを見てもらう。

「早くするメェ」

神様に背中を押され魔法陣の描かれた敷物の上に立たされた。


「ま、まるでボクより

 神サマのほうが気にしてるみたいデス」

「そりゃそうだメェ。

 メーの見つけた逸材が

 どれほどのものか確認したいんだメェ!」

「俺も気になるからな、始めるぞ」

ヴィタリーも待ちきれなかったのか、

すぐに魔術を展開した。

詠唱が終わると、

用意された紙に結果がひとりでに浮かび上がる。


「力C、魔力E、知恵B、器用C、運Cここまでそのままだな」

「運以外はメーのご利益の効果外。当然だメェが……」

続きをヴィタリーが読もうとするとその目を見開く。

「黄金率、Aプラス……」

「ええ……ぷらす?」

ジョンは聞いたこともない結果を真顔で言い直した。


「すごいぞジョン!

 Aプラスなんて初めて見たメェ!」

神様は自分のことのように

ぴょんぴょんと跳ねて喜んでくれた。

「これってもう周囲のひとにも影響あるレベルだぞ……。

 魅了魔術とか呪いとかそんなくらい」

「そ、そんなに……、

 なんだか怖くなってきました」

目を丸くしたままのヴィタリーの例えを聞いて、

寒気を感じたようにジョンは自分の腕を抱いた。

「いい影響だからそんな心配するな。

 力持ちが乱暴に仕事すると怪我するようなものだから」

「き、気をつけマス」

ジョンは背筋を伸ばして返事をした。


「さて、そんな才能あふれるジョン少年の

 仕事探しを再開しようと思うメェが――」

「あの、ボクやりたいことが見つかったんデスけど、

 言ってもいいデショウか?」

今度は縮こまるように肩を丸めて手を挙げた。

「おっ! それはいい!

 教えてくれメェ」

「ボクは、城壁の街とこの街の

 橋渡しをするような仕事がしたいデス」

「橋渡し?

 こことあそこの間に川なんて流れてないぞ」

「ヴィタリー、文字通りの意味じゃないメェ。

 メーの街と城壁の街は言葉や常識が違う。

 だからジョンはその間に入って、

 仲良くできるように協力してくれる。そうメェ?」


「はい! 神サマのおっしゃるとおりデス。

 アーングリア語はおそらく他にも使われてる街があると思うんデス。

 デスので、そういった方が

 この街に来たときに話ができるように通訳や外交の仕事がしたい。

 そんなふうに思いマシタ」

「うんうん、それは嬉しいメェ」

「他のひとがやってない仕事だが、大丈夫か?」

「はい。それに神サマやヴィタリーサンがいてくれますから」

「もちろんだメェ!」

「俺としても、

 ジョンが近くにいてくれるのはありがたい」

神様は満面の笑みで、

ヴィタリーもあまり見せない嬉しそうな笑みを見せてくれた。

そんなふたりを見て、

ジョンは決心を固めるように両腕を強く握る。


「それデハ、ボク、

 もう一度城壁の街に行こうと思いマス」

「今からメェ!?」

「はい。同じことを向こうにも伝えないといけマセん。

 あとお呼ばれをお断りしてきてマスから、

 ちゃんと向こうの招待を受けないとあちらの神サマにも失礼デスし」

「そうか。先にこっちに来てくれてありがとうな」

ジョンは頭を下げてすぐに部屋を出ていこうとする。

「約束しマシタから。

 それに神サマのご利益をもらえてうれしかったデス。それじゃ」

「ちょっと待つメェ!」

神様は大声を上げてジョンを呼び止めた。

止められるとは思っていなかったジョンは、

急に足を止めて転けそうになる。


「今日までメーたちの仕事を手伝ってくれた給料だメェ」

なんとかこらえると目の前に小さな袋が差し出された。

「えっ!?

 ボクは仕事らしい仕事なんて……」

「神様への助言、

 俺の仕事の手伝い、

 遺跡調査の協力、

 なにもしてないとは言わせないぞ」

ヴィタリーは強引にジョンの手を引いて袋を受け取らせた。

ずっしりとした重みを感じる。

この街で硬貨に使わる金属は銅、銀、金の三種類だ。

そして重さも価値も小さい順に、銅、銀、金になる。

そしてこれは銅貨や銀貨にしてはあまりに重い。


そこまで考えてジョンは息を呑んだ。

神様はそれを見て、

「あと城壁の街までの移動費だと思って受け取るメェ。

 これだけのお金を持ってるんだから、

 よい馬車や護衛を雇うんだメェよ」

脅かすような細い目と、

助言をするような優しい言い方をしてきた。

ジョンは袋の重さと神様の言葉で中身を察し、

コクコクとうなずいた。

「よし! 行け!」

ヴィタリーがジョンの肩を叩く。

ジョンはもう一度頭を下げて、

ようやく外へと歩き出した。

「ジョン! 部屋はそのままにしておくからなー」

神様はまるで遠くにいるジョンに呼びかけるように大声を出した。

ジョンは少し振り向いて、手を振る。

「さて、今日も仕事を始めるメェ。

 ヴィタリーは山のようにやってくるひとたちの、

 パラメータの鑑定をするんだメェ」

「はいはい……。

 みんながみんなジョンみたいになってればいいがな」


#


「博物館は諦める」

後日、神様は神殿の大きな地図の前で急にそんなことを言いだした。

「あれだけやる気だったのにか?」

「あの遺跡調査はさせたいが、

 多分なにもしないほうが周囲の街の安全のためになるメェ。

 それに面白そうな発掘品が全く出てこない!」

「あれからさらに調べたのに板切ればっかりだもんな」

「それにアンドレが言ってた『すもう』とか

 ジョンの言ってた『おんせん』とか、

 あとお金の両替所とか、

 やりたいことはいっぱいある!

 この街はまだまだ発展の余地があるメェ!

 施設の場所や工事のことも考えたいんだメェ」

神様はそう言って以前に覚書をした石版を掲げる。


「建てたい物がいっぱいあるのはいいが、

 大工はどこから手配するんだ?」

「宛は、あとで神殿に来る予定があるメェ」

「ああ、そういうことか。

 そいえばあの街は石の加工技術が発達してるんだったな。

 いい大工とかもいそうだ」

この後の予定を思い出してうなずいた。

ヴィタリーも彼と合うのが楽しみだが、

顔には出さないようにする。

代わりに神様はごきげんだ。

「あの騒動のおかげで、

 優秀な人材が出入りするようになったメェ。

 おかげでまたいろいろ新しいことができるようになって嬉しいメェ」

「新しいことを始めるのが目的になってないか?」

「そんなことないメェ。

 メーは街が安全な場所であるためにがんばってるんだメェ……。

 確かにあの騒動は本末転倒な結果になってしまったけど」


また神様の言う聞き慣れない言葉についてヴィタリーは聞く。

「えっと、目的がひっくり返ったって意味だっけ?」

「そうそう。

 だから今後はもう少しヴィタリーの言うことも聞くメェ」

神様は珍しくしおらしい表情と上目使いでヴィタリーに言った。

思わぬ行動と、愛らしい様子にヴィタリーは目をそらして、

「そうしてくれ……」

とだけ言った。


頼られるのは嬉しいがどうにもそれを素直に受け入れられない。

神様が小さいので仕方ないのだが、

上目遣いで見られると心臓の動きが早くなるのを感じる。

それがなんだか心地よくもあり耐え難くもあった。

ヴィタリーは目を泳がして違う話題を探す。

違う話題を与えれば、

神様はそちらに目を向けると思った。

「それにしても遅いな……。

 予定ではとっくに街に到着してると思ったんだが」

「見に行くメェ」

神様は神殿の入口の方へと駆け出した。

ヴィタリーはホッとしたような、

少し名残惜しいような、

そんな息を吐いてついていく。



神殿の入口でジョンはたくさんのひとたちに囲まれていた。

そのひとたちに阻まれ動けずにいる。

「ジョンさん、うちの店で働かないかい?

 計算ができるひとを探してたんだ」

「ジョンさん、前に学校に来てくれただろう?

 計算や文字の読み書きを子どもたちに教える仕事をしないかい?」

「ジョン、アーングリア語が分かるんだってな?

 俺と一儲けしないかい?」

「君がジョンくんかい?

 遠くの街で考古学者をやってるんだが、

古代イポーニア語が読めるひとを探してたんだ?

 いっしょに古代文明の謎を解き明かそうじゃないか」

「えっと、ゴメンナサイ。今は別の仕事をしてるので」

街を助けるために走った英雄なんて呼ばれていたとき以上に、

今のジョンは注目されていた。

黄金律Aプラスという目に見える才能があると聞いたひとたちが、

ジョンを自分の仕事場に連れてきたい、

いっしょに仕事がしたいというひとが続出している。


城壁の街でもこの街でも、

行き来するたびにジョンはこうして声をかけられてしまう。

「転職なんてすぐじゃないか?」

「子供の教育は未来のためにあるし、

 神様のお墨付きだ。

 いっしょにやりがいがあって安定した仕事はどうだ?」

「今の給与はいくらだい?

 うちはこれくらいだ」

「考古学にはロマンがあるぞい」

「えっとその……」


「ほらほら、お前ら!

 ジョンの仕事をじゃまするなメェ」

ワイワイとした神殿の入口の人だかりを見て、

神様が甲高い声をあげて割って入ってきた。

「あ、神サマ、助かりマス」

「はーい」「また来るぜ」「わしは諦めないからな」

口々に言いながらジョンを

引き抜きに来たひとたちは散っていった。

それを見て三人は同時にため息を吐いた。

「ジョンもはっきり断らないと、

 どんどんこういうヤツらやってくるぞ」

「そ、そうデスね。がんばって断ってみマス」

腕を前に出してジョンはやる気を見せた。

ヴィタリーはそれを見てなにか言いたげだったが、

「それで向こうの返事はどうだメェ」

神様が先に話題を振ってきた。

ジョンの表情は一気に明るくなる。

「はい! この街の製紙技術に興味があるそうデス。

 この日時のどれかで見学したいとのこと。

 双方の街に建てる両替所についても、

 そのときに話したいと言ってくださいマシタ」


「うむ、ヴィタリー、予定は空いてるか?」

神殿の中を移動しながら話を進めた。

ヴィタリーは新しく使えるようになった覚書用の石版を見て、

神様の予定を確認する。

「最後の日の午後からなら」

「午前になにか仕事あったメェ?」

「牧場の視察だ。あれから獣が出たって報告はないが一応な」

「そうか! なら午後からだな」

 神様はまた一段と嬉しそうな声で返事をした。


「分かりました。そのように伝えます」

「なんでジョンが嬉しそうだメェ?」

神様は自分が嬉しそうな返事をしたのには気が付かなかった。

なのに、神様はジョンの反応には気つく。

そんな神様に、ジョンは笑顔のまま、

「牧場に行く予定のある神サマが嬉しそうだからデスよ。

 ねぇ、ヴィタリーサン」

「ああ、いつぞやジョンが言ったとおりだな」

「メェ?」

覚えのない会話を始めたヴィタリーとジョンを見て、

神様は首を傾げた。


「それと神サマ、

 城壁の街について気になることがあるか聞いてほしいって、

 頼まれたんデスが、どうデショウか?」

「もちろんあるメェ。

 石の加工技術、

 城壁を作るだけの建築技術に興味があるメェ」

「はい、そのように伝えマスね。

 なにか建てるんデスか?」

「いろいろ建てる気らしい……。

 俺も神様の考えてることは全部分からん」

「なるほど、またヴィタリーサンは書類仕事に追われるんデスね」

「ジョン、また手伝ってくれ……」

「そうしたいのは山々なんデスが……」

「ってことはジョンは一泊しないメェ?

 部屋は掃除させておいたからキレイだぞ」

「実は向こうの夕食会にまたお呼ばれしてマシテ、

 夕方までには出マス。

 お迎えもくるのでゆっくりはできそうにないので……」

「そうか~。向こうでも引っ張りだこメェ」

神様は嬉しそうな、

残念そうな笑みを浮かべた。

それに対してジョンも申し訳無さそうな、

でも今の状況を楽しんでいそうな笑顔で返す。


「引っ張りだこ……。

 あっちこっちで呼ばれて忙しいって意味だったか?」

「はい。オクトパス……たこをよくご存知で」

「いや、前に読んだ本に書かれててたまたま覚えてただけだ」

ジョンに褒められヴィタリーは間が悪そうに目をそらした。

「最近ヴィタリーは勉強するようになったメェ。

 これもジョンのおかげだメェ。頭を垂れよ」

「こ、こうですか?」

何をされるのか分からないが、

神様に言われたとおりジョンは頭を下げた。

最近ここまで頭を下げた覚えがないなと思ったその時、


「いいこいいこ。

 ジョンはよくがんばってるメェ」

神様の小さく細い手がジョンの金髪を撫でた。

子供のような大きさ、

母親のような慈愛に満ちた手だ。

その愛らしさや優しさに触れて、

ジョンは顔を真っ赤にする。

頭を下げていなければ顔を見られてさらに恥ずかしい思いをしたのかもしれない。

「さ、サンキューソウマッチ……」

いっぱいいっぱいになってしまったジョンは、

頭を下げたまま思わずアーングリア語で礼を言った。

その間にも神様はその優しい手を止めない。

もちろん城壁の街の神様の豪快な声に褒められるのも嬉しい。

またがんばろうとか、

元気に慣れるような気持ちになる。

だがこちらの神様は優しく、

ずっとこうされていたいと思うようになってきた。


「勉強してるのは俺なんだが……?」

そう思っているとしびれを切らしたように

ヴィタリーは不機嫌そうな声を上げた。

「ヴィタリーはもうちょっと頑張ったら撫でてやらんこともないメェ」

手を止めぬまま神様はいやらしい言い方でヴィタリーに言った。

当然その間もジョンは頭をなでなでされるままだ。

「お断りだ。別に撫でてほしくて言ったんじゃない」

「なんだつまらん反応だメェ」

神様が不機嫌そうに言うとようやくジョンは開放された。

すぐに頭を上げると、

いつの間にかヴィタリーに睨まれていたことに気がつき、首を引く。


「で、では早いデスが他に寄るところもあるので失礼しマス」

謝るように頭を下げて、すぐに上げて神殿を出ていこうとした。

他にも用事はあるので嘘はついていない。

「どこ行くメェ」

「本屋さんに行ってきマス」

そう言い残してジョンは足早に神殿を出た。



「行ったか……」

先程は思わず睨んでしまったが、

こうしていなくなると寂しいという感じがした。

「本当に忙しそうだメェ。

 でもジョンはなんだか明るく話すようになった気がするメェ」

「そうだな。

 前はなんだか自信なさげだったが、

 今は堂々としている。

 あとはパラメータ目当てで寄ってくるヤツらをあしらえればいいんだがな」

「でも今は向いてる仕事を見つけられたし、

 好きな本も読めるようになって、いいことばかりだメェ」

「城壁の街とつながりができて、

 いいものが買えそうだとか言うと思ったが」

「もちろんそれもあるメェ。

 でもやっぱりひとが幸せにならないと、

 いくら街が大きくなっても意味がない。

 神はひとのためというように、

 街もひとのためにあるメェ」

「ま、今回は神様がジョンを拾って、

 色々連れ回してよかったってことか」

「そうだメェ!

 やっぱりメーのやったことでよかったんだメェ」

神様はにっこりと満面の笑みを見せてくれた。

読んでいただきありがとうございました。

なろう向きではないかもしれませんが、羊神様かわいいというコンセプトで書き始めたお話でしたら、お気に召していたければ幸いです。

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