10.素足に鉄の階段が冷たかった
沖田はマドカに
「終わったら送っていくよ。じゃ、また後で」
と言って、保護者たちがいる壁際へと移動した。
そのマドカは次の試合がデビューとなる。
まだ入部して間もないが、交流試合では「選手たちに場慣れさせる」という目的もあり、実力の有無に関係なく全員の出場が許されていた。
一年生の女子部員はマドカを含めて三人。
「リラックスして行け。まずは試合の雰囲気に慣れることだ」
と顧問がアドバイスをする。
「はい!」
と三人は元気良く答え、防具着用の準備を始める。
「うー、緊張してきたね」
「そだねー」
防具を着用しかけたマドカは、ふと立ち上がる。
「ちょっとお手洗いに行ってくる」
「大丈夫? あと10分くらいしかないよ」
「すぐ戻る」
タタタと袴の裾を揺らしながら素足で体育館を出て行った。
体育館から渡り廊下を伝って校舎に入る。
一階には職員室があるようで、トイレも職員用しかなかった。
マドカは二階に駆け上がり、廊下の先にあるトイレを見つけ、中に入った。
用を済ませ、急いで戻ろうとする。
さっきの階段ではなく、手近な階段を使ったのがよくなかったようだ。
初めて入った校舎ということで方向もうまくつかめなかった。
気づくとマドカは別の校舎に迷い込んでいた。
防具をつけ終わった一年生の女性部員がもう一人の部員に言った。
「マドカ、まだトイレに行ったまま? 大丈夫かな」
その言葉に反応したのがカヤだ。
(もしかして迷子になってる?)
すっと立ち上がり、袴をひるがえしながら体育館を出る。
「どうしよう。試合、始まっちゃう」
と涙目になりながらマドカは非常階段を駆け下りる。
自分でも理由が分からなかったが、別の校舎の最上階まで行っていた。
廊下の奥の非常階段の扉を開けて、今こうして下りているわけだ。
素足に鉄の階段が冷たかった。
ようやく一階にたどり着いたはいいが、そこでマドカは固まってしまう。
そこには数人の男子学生たちがいた。
階段をふさぐようにして座り込んでいる。
マドカの出現に眉をひそめる者もいれば、じろりと睨みつけてくる者もいる。
その一人が立ち上がり、マドカに声をかけた。
その頃、体育館では、剣道部の顧問が一年生の女子部員を前に腕組みをしていた。
「桜宮はまだ戻ってないのか?」
「はい……」
「困ったな」