表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/18

9.竹刀と竹刀がぶつかる高く乾いた音がした

「ふわわわ〜」

 と大あくびをしながらパジャマ姿のマコトが自室から出てくる。

 トイレに行った後、キッチンに入る。

 テーブルには簡単な食事が用意されていた。

 しかしカヤの姿がない。

「珍しい。お出かけかな?」

 今日は日曜日。

 いつもであれば、カヤは父親と一緒に昼食をとろうと、その用意をしている時間帯だ。


 ふと見ると、テーブルに一枚のメモが残されていた。

「試合に行ってきます」

 それを手にしたマコトは「そっか、剣道部の交流試合だ。ゆうべ言ってたっけ」とうなずく。

「見に行こうかな」

 と一瞬思ったが、どこで行われるのかを知らないことに気づいて「ま、いっか」と、そのまま朝食兼昼食を取り始める。


 その頃、カヤは交流試合の会場となるアジガオカ中学校の体育館にいた。

 体育館は熱気に満ちていた。

 県内各地から10数校の中学校剣道部が参加していて、会場のあちこちで応援の声と歓声と、そして選手たちがあげる雄叫びが湧いているのだった。

 選手たちの保護者も多勢集まっている。

 選手たちの邪魔にならないように壁際に立ち、スマートフォンやビデオカメラで試合の様子を撮影している。


 試合は個人戦形式で行われていた。

 男女別の勝ち抜き戦。

 カヤはこれまで二試合を勝ち抜いていた。

 次に勝てば決勝戦に進むことができる。


 その第三試合がいま始まろうとしていた。

 防具をつけて竹刀を手にしたカヤは、試合場の中央に進む。

 相手も同じように中央に進み出た。

 軽く竹刀をあわせた瞬間、赤白の旗を持った主審の「始め!」という声があがった。

 カヤは素早く面を狙って打ち込む。

 竹刀と竹刀がぶつかる高く乾いた音がした。

「先輩、がんばって!」

 マドカの応援する声がカヤの耳に届く。


 ちょうどそのタイミングで体育館に一人の男性が入ってきた。

 長身でスリム。ラフなポロシャツ姿。

 口元には穏やかな笑みを浮かべている。

 彼はしばらく周囲を見回していたが、やがて「いた」と小さくつぶやく。

 彼の視線の先にはマドカがいて、彼女は両手を胸の前で組んで真剣な眼差しをしている。

 彼はその視線を追って……軽く眉をひそめる。

「空野?」

 次の瞬間、パシッ! と小気味のいい音がして主審が「一本!」と赤い旗をあげる。

「やったー!」

 と、マドカが歓声をあげる。

 周囲にいる選手たちも同じように喜んでいた。


 勝利を収めたカヤを部員たちが囲んで「すごーい」「やったね」「先輩、カッコ良かったです」と口々に言っている。

 そこに先ほどの男性が近づいてきて声をかける。

「マドカ」

「あ、パパ! 見に来たんだ」

「せっかくだからね。ママは?」

「仕事で来れないって」

「そう」と言った後、部員たちに向き直る。

「桜宮マドカの父です。いつも娘がお世話になっています」

 そう言って礼儀正しく頭を下げた。

 カヤを含む部員たちは慌てて頭を下げる。

 沖田はニコニコとそんな様子を見ていたが、やがて視線をカヤに注ぐ。

 カヤは「?」と首を傾げるが、沖田はニコリと笑ってうなずくだけだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ