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「妹」とオフ会に行く話

 オフ会といっても、その形式は様々である。

 ゲームの愛好家同士で企画し、数人単位で集まるものもあれば。

 公式が呼びかけ、大人数を収容できる環境で、数百人単位が集まるオフ会もある。

 内容も、単に参加者同士の顔合わせを目的としたものから、コスプレ、同人誌の販売など、まさしくコミックマーケットじみたものまで様々だ。

 今回、『デジタル・ファミリー』の運営会社、『ファミリー・コーポレイション』が企画したオフ会は、後者にあたる。


 つまり、大人数が参加する郊外型のイベントで、当日も様々な催しものが開かれるという仕組みだ。

 「参加する」と言ったのはいいものの、実は抽選式のイベントだったようで。

 アプリやゲーム本体をとおして申し込みをしなければ、そもそも参加が出来ないところだった。

 幸いにしてまだ締め切りまで日があったので、無事当選出来たわけだが。


 そういうわけで、その日はあわただしく始まった。

 三月の休日のことである。

 いつもはごろごろ寝ている日曜日に、俺は起きだすと、ささっと朝食を準備して、


 「おら、出来たぞ」

 妹に声をかける。

 相変わらず

 「あっそ」


 とだけ言って食べ始める妹に多少の腹を立てながらも、俺も席につき、食事を始める。

 やがて食べ終えた俺たちは、食器を片付けると、準備にかかった。

 まあ、準備といっても俺の方は特にすることもないんだが。


 妹の方は華の女子高生らしくいろいろとおしゃれをすることがあるんだろう。

 それがオフ会にふさわしいかっこうであるかどうかは別として、着飾った彼女が出てくる。

 ちょうどそのタイミングでチャイムがなった。

 「おーい、けんや」

 「ルナちゃーん!! 」


 俺は玄関に向かいながら

 「あいつらは大声を出さないと人の名前を呼べないのか」

 「もう少し周囲を気にしてほしいわ」

 二人して悪態をつきながら玄関を開ける。


 玄関の前には、にこやかに笑っている東兄妹がいた。

 「準備は出来たか? 」

 ケイが尋ねて

 「わーかわいい」

 メイがルナのかっこうを見て言う。


 ルナもまんざらではなさそうで

 「そ、そう?」


 「うん、そのアクセとか、ポーチとか、よく似合ってるよ!! 」

 「あ、ありがとう……」


 二人だけきゃぴきゃぴの女子高生空間である。


 ケイは俺を見て


 「けんやも、なんだ、その……その髪型よく似合ってるな」

 「寝ぐせなんだけどこれ……」


 無理やりほめんでもいい。

 男子高校生同士の絡みはそれほど美しくないのはなぜなんだろうな。


 「とにかく、行きましょう!! 」

 元気よくメイが叫ぶ。

 移動は徒歩で、まず駅まで行く。

 それから、電車で数駅揺られて会場近くのT駅に到着。


 こういう大規模なイベント開催地にも割とすぐ行けるのが、一応の都内郊外の魅力といえば魅力か。

 騒がしい東兄妹も電車内では比較的おとなしく


 「あ~~寝不足です」

 「俺も最近勉強のしすぎて」

 「うそ!! お兄ちゃんはゲームばっかりしてるくせに」

 ……まあ、普通の兄妹に比べたらだいぶうるさいが。


 そういえば、と俺は思い出して

 「今回、ケイは……というか俺もだけど…『デジタル・ファミリー』の『家族』に会いに行くわけだが」

 俺はケイの方を向いて

 「お前の『家族』って、メイちゃんとは別の『妹』だよな? 」

 ケイが答える前にメイが口を開いて

 「そうなんですよ!! お兄ちゃんったら、あたしというものがありながら!!! 」

 メイはその頬をかわいらしく膨らませると

 「ゲームの中で、赤の他人と『家族』ごっこをやってたんですからね!! 浮気です浮気!! 」


 ぷんぷん、とわざとらしく怒ってみせる。

 「メイはがっかりです。現実のあたしという妹がいながら、別のところで女を作ってたなんて」

 「いや、これはだなあ……あくまでゲームであって。それに、ゲームの世界で『妹』と触れ合うことで、現実の「妹」であるメイの良さがわかるというか……」

 「……もう、そんなこといってごまかそうとするんだから」


 そういいながらも満更ではなさそうなメイ。

 ……というか。

 「このオフ会に参加するってことは、お前も『デジタル・ファミリー』をプレイしているってことだろ? 」


 「あたしはあくまでソロプレイヤーですから」

 ソロプレイヤー。

 デジタルファミリーは本来『家族』を作ることを楽しむゲームである。

 だが、VR技術の粋を集めて、様々なイベントを行えるようにした甲斐もあってか、ひと昔どころかふた昔前にはやった、会員制交流サイト的な目的で使う人間も増えている。

 ソロプレイヤーというのは、そういう意味で、要はアバターを作って、一人でいろんな社会的イベントを楽しんでいるわけだ。

 「あたしはあくまで、今日は友達に会いに来たんです」

 「メイはどの学校に通っているんだ? 」

 「それが聞いてくれよ……」


 ケイが不満そうに

 「こいつ、Z校に通ってるんだよ」

 「Z校? 」

 「あの不良で有名な?」

 ゲーム内でも学校は存在し、年齢を高校生にしている人間のアバターは、当然高校に通うことになる。

 現実の高校にレベル格差が存在するように、ゲーム内の高校にも……かなりデフォルメされた形ではあるが……それは存在する。

 頭の良い高校には、めちゃくちゃハイレベルな大学の専門レベルの授業を行っているところもあれば。

 レベルの低い高校は、不良のたまり場と化し、学校側もなぜかそれを煽り、バイクで運動会が行われたりしている。


 こういうリアル生活系のゲームは数あれど、その中でも抜きんでて、とにかくいろんなギミックをつめこんだゲームなのだ。

 「なんでわざわざ不良に? 」

 「どうせなら、現実世界ではなれない自分になりたいじゃないですか!! 」

 メイがうっとりとして言う。

 「今日はだから、あたしが所属している暴走グループの集会っていう名目なんですよ~~」

 なんともぶっそうなものである。

 せめてユーザーがあくまでゲームの世界を楽しんでいるだけの善良な市民であることを祈ろう。

 

 そんなこんなで話をしているうちに。

 やがて、たどりついたのは会場だった。


 普段から様々なイベントで使用されているところで、何千人単位で収容することが出来る。

 会場周辺にはたくさんの人が集まり、続々と入場を開始していた。

 会場周辺には横断幕や風船、にぎやかなBGMがかかっている。


 一番目立つところには、『デジタル・ファミリー/オフ会』と看板が掲げられていた。

 俺たちも慌てて集団に並ぶ。

 「しかし、すごい人だな!! 」

 「この中で『家族』を見つけるだけでも大変そう」


 確かに一苦労だろう。


 何しろこの人である。

 見渡す限り、視界のどこを見ても人だらけ。

 しかし、しぶしぶ来た俺であるが、ここまでくると、なんていうか……


 「高まるものがあるな」

 思わずつぶやいた俺に

 「……キモッ」

 相変わらず冷たい視線をよこす妹。


 とにかく、オフ会の始まりだった。



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