86.ファーストバトル
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23.馬のポーズ
に馬のポーズの挿絵追加。
事前に4人側の方で打ち合わせをしていた通り、最初にニールと戦うのはミネットになった。
「よろしくね~、ニール」
「ああ……」
笑顔で挨拶されてもニールは特に動揺も何もせず、黙ってカラリパヤットの腕をクロスさせて顔を守る姿勢を取る。
それを見たミネットは得意な武器である弓を構えるのかと思いきや、取り出したのは何とロングソードだった。
この修練場で用意されている、レンタルの修練用の武器の1つで刃を潰した物だとミネットは説明する。
しかし、ニールは弓と短剣しか扱う彼女を見た記憶しか無いので違和感を覚えるのは当たり前だった。
「あれ、弓じゃないのか?」
「こんな場所じゃ弓を構える前にやられちゃうわよ。それに私はシルヴェン王国の騎士団員と鍛錬してたし、今住んでいる王国でも騎士団とは色々鍛錬させて貰っているからね。それよりも自分の心配をしたらどうかしら?」
ミネットに忠告され、それもそうかと再度気合を入れ直すニール。
それを見たミネットも、しっかりとロングソードを構えるその姿はなかなか様になっている。
「では……始め!!」
合図が審判員によって出され、ほぼ同時に2人は動く。
4連戦バトルの初戦と言うだけあって、時間も余り掛けていられなければ体力も余り使いたくないのでさっさと短期決着を狙うニール。
しかし、その目論見は開始早々崩れる展開になってしまった。
ミネットのスピードはニールにとっては見切れないものでは無いが、自分の攻撃と防御に対してワンテンポ上手い事ずらされてしまう様な……何時もと違ってタイミングが噛み合わないニールが苦戦気味である。
(え……?)
自分が肩透かしを食らった様なタイミングで攻撃されるので、顔には出さないものの焦りの色が心の中に生まれるニール。
相手が女だからと言って手加減は一切しないと決めているものの、もしかしたらミネットは相当戦い難い相手なのかも知れないと徐々に気が付き始める。
出来ればカラリパヤットの柔軟性や素早さを活かせる様な戦法を取りたいが、素手とロングソードではリーチが明らかに違う上にミネットの剣術に押され気味だ。
「良いぞー、ミネット!!」
「おいおいニール、どうしたんだよ!?」
エリアスとシリルが対照的なリアクションをする目の前で、ニールは1つだけ戦略を思いついていた。
(あれしか『勝ち』には持って行けそうに無い。そこまではじっと我慢だ!!)
まともにこのミネットに攻撃や防御を合わせるのは危険だと判断し、ニールは我慢する。
チャンスが来るまではしっかりとミネットのロングソードの軌道を読み、そこから出来る限りの反撃に出て行く。
だが、そんなニールを嘲笑うかの様に一旦距離を取ったミネットは、ニールのカラリパヤットに何とか対応しつつもまだまだ余裕がある様な表情を浮かべる。
「じゃあ、これはどうかしら!?」
ロングソードを振り被って来るミネットの振り下ろしを横に避けるニールだったが、そのまま避けた彼にミドルキックを放つミネット。
「うっ!?」
咄嗟に横っ飛びからの回転受身で、そのキックをギリギリでかわしたニール。
その後にまたミネットがロングソードを横薙ぎに振るうので、馬のポーズでそれを回避してから彼女の腹目掛けて両手でパンチを突き出すニール。
ミネットもそれを咄嗟に後ろに飛んで回避。
「へぇ……そこからそうやって攻撃するのね。なかなかやるじゃない」
答えようとしないニールに、ミネットは再びロングソードを振り被る。
そこでニールは彼女の腕目掛けて右足でキックを放ち、蹴って攻撃を止める。
この止め方はカラリパヤットのキックの方法でトレーニングするもので、対武器の鍛錬をする時に相手が振り被って来た木製のショートスティックを持っているその右腕を蹴って止めるのだ。
それの応用で、ロングソードが届く前に止める事に成功したニールの防御で一瞬ふらつくミネット。
しかし彼女もそこでただふらつくだけで無く、蹴られた勢いを利用して今度は時計回りに身体を動かしてニールの足を狙う。
それをカラリパヤットの大きく足を開くジャンプで回避したニールは、再びロングソードを振り被って来た彼女の懐に潜り込んで両肩を掴み、自分から後ろに背中をつける形でゴロリと転がる。
柔道の試合で見る事が出来る「巴投げ」のスタイルだ。
「きゃああっ!?」
勢い良く投げ飛ばされたミネットは、ロングソードを握っていたせいもあってまともに受け身を取れずに背中から石舞台の上に叩きつけられる。
「くう……っ!!」
痛みを堪えつつ、まだ諦めてなるものかと立ち上がったミネットは再度ロングソードを振るう。
だが今度は縦に振り被って来た所で、彼女の右腕の外側にニールが回り込んでその右の手首を左手で掴む。
そのまま手首を大きく動かして彼女のバランスを崩し、空いている右手を彼女の股の間から差し込んでグイっと持ち上げるニール。
「えっ……え?」
そのまま右の太ももと右の手首がくっつく様な姿勢で持ち上げられたミネットは、成す術無く石舞台から落とされる……振りだけをされた。
「本当にこのまま落ちるか?」
「いいえ……私の負けね……」
持ち上げられたままのミネットがギブアップ宣言をし、これで初戦はニールの勝ちとなった。




