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84.世の中、甘くない

 歩いて2日掛かる距離を、ワイバーンなら地上の障害物を関係無しにショートカット出来て一直線に飛んで行けるので、結果として出発から僅か2時間で到着した。

 ニールの体感速度で言うと時速30km位なのだが、余りスピードを出すと急激な方向転換の際に同乗しているメンバーが落ちてしまうかも知れないし、下に見えて来るであろう目的地を通り過ぎてしまってはそれこそワイバーンに乗ったアドバンテージが無駄になってしまう。

 そのエリアスの意見によって、快適……とまではいかないものの非常にのんびりとした空の旅を満喫する事が出来たニール。

 このエンヴィルーク・アンフェレイアの雄大な自然の景色を、空中から遠くまで見渡す事が出来て久し振りの爽快感を味わっていた。

 ニールは自分が今住んでいるカリフォルニア州サンディエゴの隣、自分が生まれ育ったアリゾナ州のフェニックス近辺にある、世界遺産のグランドキャニオンから見た雄大な景色を少し思い出してしまった。

 だが、その雄大な景色を楽しんだ後に予想外の展開が待ち受けていたのである。


 昼過ぎに北のハーベルクの修練場に辿り着き、事前に立てていた計画通り情報収集の為に修練場の中に入った一行。

 そこで北の方の遺跡を探しているんだけど……とシリルが聞いてみた所、修練場の冒険者達の空気が変わった。

「へー、あんた達も南から来たのか。南から来る奴は多いけど、大抵何も収穫無しで帰ってっちゃうから期待しない方が良いよ。まぁ、止めはしないけどさ」

 冒険者達の中の1人がやる気無さそうに忠告する。


 しかし、情報として仕入れてある3つの遺跡の中で未だに場所すら見つかっていないのは、この北の方にあると言われている遺跡だけである。

 北の方と言う事は場所は大まかに出来ても、山脈の北側もかなり広い地域になっているのでその何処かまでは断定が出来ないからこそこうしてここまでやって来たのだ。

 冒険者達曰く、その遺跡は「幽玄洞」と呼ばれている鍾乳洞らしい。

 だがそこも様々な冒険者が奥地までの道のりを進むのにトライしているものの、鍾乳洞の中には色々な仕掛けがあるらしい上に、1番奥まで踏み込んだ獣人の冒険者が証言した話では「長くてだるかったし変な岩の壁があって先に進めなかった」との証言が。

「岩の壁……長いダンジョン……」

 あの無限回廊をヒルトン姉妹と一緒にぐるぐる回っていたレカーン遺跡の事を思い出し、目立たない様にパーティの後ろで話を聞いていたニールは小さく溜め息を吐いてデジャヴを感じていた。


「それでも俺達はそこに行きたい。だから地図か何かあれば欲しいんだ」

「うーん……分かった。だったらちょっと待っててくれ。余っている地図が無いかどうか俺が見て来るわ」

 冒険者の1人が敷地内の騎士団の詰め所へと向かって行き、約10分後。

 その冒険者は手の平サイズに収まる程に小さく折り畳まれた、シワシワの地図を持って戻って来た。

「地図ならこれしか無かったけど、こんなもんで良いか?」

「ああ、全然これで問題無いよ」

 そう言いながら地図を受け取ろうとしたシリルだが、冒険者にはその手をさっと引っ込められた。

「……おい、何すんだよ?」

 冒険者の態度に一気に表情が変わったシリルに対し、その冒険者から思いもよらない発言が。

「ちょっと待った、やっぱりあの遺跡に挑むんだったらタダじゃ渡せないな」

 その発言に、隣で成り行きを見ていた鍛錬場の職員からも同意の声が上がる。

「僕もそう思う。ここに居る冒険者達の中にはその遺跡にこれから挑もうとしている人も居るからね」

「そうだな。だから……ちょっと腕前を見せて貰おうか?」


「う……腕前だって?」

 まさかの要求に対してシリルは一瞬たじろぐものの、それでも何とか落ち着いて答える。

「まぁ、いきなり来た部外者が遺跡に挑戦したいって言ったらそう思われても仕方無いか。だったら俺があんた等を相手にしてやるよ」

 だが、今度は冒険者達と修練場の職員達からまたも思い掛けない要求が。

「ちょっと待て。俺達が戦うなんて言ってないぞ」

「は?」

「僕達が気になるのはその……後ろに居る髭を生やした茶髪の男だよ」


 修練場の職員に指を差されたニールは、まさか自分が指名されるとは思っていなかった為に流石に動揺する。

「……お、俺?」

「うん。見慣れない武器を持っているし、かなりの軽装だから凄く気になるんだ。他の人達はそれなりに旅人の格好をしているみたいだけど、どう見ても1人だけ場違いだからね」

「別にやらないならやらないで俺達は構わない。でもその場合この地図は渡さないぞ?」

 修練場の大勢の人間や獣人達から感じられるその圧力に、とうとうニール一行が根負けした。

「……良いよ、やるよ」

「おう、それならさっそく準備だ」

 こうして、まさかのパーティメンバー同士での手合わせを行なう事になってしまった一行。

 普通はこの修練場の冒険者相手に実力を示すもんじゃないのか? と不思議に思いつつも既にバトルが決まってしまったので、ニールが断る事は今更もう出来そうに無かった。

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