113.スイッチ
まさか敵か? と金属製のドアの向こう側に隠れて身構え、息を潜めるニール。
ドカドカと慌ただしく駆け上がって来る所から見ると、相当慌てているか急いでいるか。
魔物だったらすぐにドアを閉めようと決め、近づいて来るその足音の主を待つ。
(魔物じゃない事を祈ろう)
さっきの赤いスイッチを押した事でこのタワーのシステムが色々と動き出したのは分かるが、それによる「弊害」もまた様々な形であるかも知れない。
だからこうして身構えておけば、その弊害に対処出来る可能性が少しでも増えるだろうと考えるニールの目の前に姿を現したのは……。
「おーい、何処だニール!!」
「えっ……?」
階段の下から慌ただしく現れた足音の主は、何とパーティのリーダーのシリルだった。
このタワーの姿が何も見えないと言っていた筈の彼が何故ここに?
疑問を抱きながらも、ドアの影から出て彼の前にニールは姿を見せた。
「……俺ならここだ」
「うおぉ!? な、何だよそんな所に隠れて……」
「魔物かと思った」
「ひでーなそれ。それはそうと、あんた一体何をどうやったんだよ?」
「ん?」
見るからにテンションが高い様子で話し始めたシリルに、ニールはまた首を傾げる。
「何の話だ?」
「何のって……俺達にもこのタワーの姿が見える様になったんだよ!! かなりでかいなここ!!」
「……ああ」
シリルの報告を聞いたニールは、外の様子がどうなっているのか一瞬で把握した。
「それはあれだ、この上にコントロールルーム……あ、人喰いの遺跡で見つけたあの機械室みたいな場所がここにもあったんだ。案内するから着いて来い」
一旦金属製のドアの先を調べるのを中断し、シリルを連れて3階のコントロールルームに戻るニール。
「ここがそうだ」
「へぇーっ、何だか見た事の無い金属の塊ばかりだぜ」
この世界では見慣れない設備の数々に、シリルは驚きながらも1つのものに注目した。
「ん、何だこの赤いボタンは?」
「それを押したら……だと思うが、タワーの姿があんた達にも見える様になったんだと思う。俺は最初から見えていたからどうなっているのかは知らないがな。それに、このタワーの中で何かが色々と動き出しているらしいんだよ」
「この中……か」
スイッチを押した途端、このコントロールルームの照明が点いたのを皮切りに、ブーンと機械に命が吹き込まれている音が至る所からし始めたのがその証拠だろう。
しかし、それを聞いたシリルは突然の行動に出る。
「じゃあこれをもう1度押せば止まるって事か?」
「え、ちょ、おい……!」
ニールが止める暇も無く、シリルは人間と同じ形をしたその肉厚の大きな手でポチッと赤いボタンをプッシュする。
その瞬間シューン……と音を立てて照明が消え、目の前のコントロール設備も一気にシャットダウンした。
シリル自身には何も影響は無い様子であるが、突然の彼の行動に驚いたニールは安堵の溜め息を吐いた。
「おいおいおい、勝手な事をしないでくれ。これが入っていないとあの俺が隠れていたドアだってロックが掛かってしまうんだから」
シリルにどくように手で指示すると、もう1度その赤いスイッチを押してタワーのシステムを起動させる。
そして、その時もう1つニールは気が付いた事があった。
「あれ? そう言えば他の4人は?」
「ああ、あいつ等なら外で待って貰ってるよ。突然このタワーが現れたもんだから驚いてな。そこで俺が単身ここに乗り込んで、探索するついでにあんたを探しに来たって訳だ」
「ついでか……」
「そうそう。ついで、ついで」
そんなに自分の存在は軽く見られているのだろうか?
ニールは心の中に不信感を生み出しつつも、とにかくこれでタワーが見える様になったのだしシリルも実際にここまで来られているのだから、他の4人と合流しようと提案する。
その提案に乗ったシリルと一緒にタワーの外に出たニールだが、待っていた4人の口から異口同音に驚きの言葉が出て来た。
「あ、ニール!! 何よこの大きな建物は!?」
「こんなでっかい建物がどうしてこんな場所に……?」
「それよりもさ、何でさっきこれ1回消えたんだよ? 時間差で何かなってるのか?」
「僕達も入って行っても良いのかな、これは?」
矢継ぎ早に全員がほぼ同じタイミングで喋るので、ニールはまた溜め息を吐いた。
「……あんた等、出来れば1人ずつ喋ってくれないか。俺はマルチタスクが苦手なんだよ」
そもそもマルチタスクを超えたキャパシティなんだがなと呆れるニールに、4人を代表してイルダーが答える。
「さっきこのタワーが急に現れて、そしてその少し後にまた空間に溶け込む様にして僕等の目の前から消えて行ったんだよ。一体何をしたんだい?」
「ええと……」
ニールはコントロールルームの赤いスイッチの件について話す。
「じゃあその赤いのが、俺達にこのタワーが見えるか見えないかの話に繋がるんだな」
「そうらしい。でも一旦中に入ってしまえばこの世界の住人であるシリルを見る限りは大丈夫だろうから、ここから先は全員で中を探索しよう」




