110.単独行動
うーんと悩んでいた一行だったが、その中でイルダーがとんでもない提案をニールにし始めた。
「じゃあさ、危険はあると思うし無謀だとは思うんだけど……まずはあんたが1人でこの塔の中に入って調べてみてくれないかな?」
「はい?」
何を言ってるんだこいつは。
こんな得体の知れない塔の中に、俺1人で入れだと?
ニールの口から思わず変な声が出るが、イルダーは理由をしっかりと考えた上での提案だと言う。
「だってさ、僕達の中でこの塔? が見えているのはあんただけなんだろう? だったらこの塔の中に入る事が出来るのもあんただけって事にならないか?」
それに続いてエリアスも同意し始める。
「それもそうだな。俺達はそもそも塔自体が「見えていない」んだからな。そもそも見えないのに入れって言われても無理な話だよ」
「そうよね。それに結局この場所に来たのだって、貴方が自分の世界に帰る為のヒントがあるかも知れないからよね?」
ミネットにまでそれらしき意見を言われて、ニールは反論する事も出来ずに口を噤んで黙り込む。
「別にダメそうだったら一旦戻ってくれば良いじゃねえかよ。何も死にに行けって言ってるんじゃねえし」
「いや、この得体の知れない塔の中に入って死んでしまったらそれは同じ事じゃないのか……?」
エルマンのフォロー(?)にささやかな抵抗をしてみるニールだが、次のシリルのセリフで塔の中に入らざるを得なくなってしまった。
「じゃあ良いよ。あんたが自分の世界に帰る為の手掛かりを見つけたくないって言うなら、俺達も別にこれ以上あんたに付き添う理由も無えし、ここでおさらばって事でだな」
「……分かりました」
5人から変なプレッシャーを掛けられ、ニールはとうとう陥落した。
哀愁と悲壮感が漂う背中を他の5人に見せながらトボトボと歩き、出入り口の大きな扉に手を掛けて1度だけ振り返る。
「もし、俺が何時まで経っても戻って来なかったらせいぜい墓だけは作ってくれよ」
「ああ、分かった」
シリルに無駄にそこだけ力強く頷かれ、ニールは更に不安に押し潰されそうになりながら塔の中に足を踏み入れた。
(……薄気味悪い場所だな……)
ニールの第一印象は、一言で言えば「ヨーロッパの廃墟」がピッタリ当てはまった。
知り合いのツテでヨーロッパにスタントマンとして向かった時、そこで廃墟となった城の中にセットを作って中世ヨーロッパのストーリーでロケをした事があった。
その城のエントランスの光景がしっくり来るこの塔のエントランスの天井では、豪華なシャンデリアが既にその輝きを失って長い年月の末に朽ち果てている。
ドアからはまず1本道になっていて、突き当たりで通路が左右に90度折れ曲がってその先に木製のドアがそれぞれ1枚ずつある。
(どっちに行けば良いんだ?)
迷っていても話が進まないので、ニールはとりあえず右のドアから入ってみる事にした……が。
「ん、あれ?」
ガチャガチャと円形のドアノブを回してみてもドアはビクともしないし、蹴って開けようとしても引いて開けようとしてもやっぱり開かない。
このままじゃ埒も明かないのでこっちのドアは無理と判断し、もう1つのドアに向かった。
しかし……。
(……おいおい、こっちもカギが掛かっているじゃないか!!)
左の通路の先にあるドアも結局ビクともせず、いきなり先に進めない状況となった。
結局どっちのドアもカギが掛かっていて入れそうに無いので、早々に諦めて退散しようとしたニール。
だが、試しに腰のハンドメイドのショートソードでドアが破れないかどうかを試してみる。
(行けるか?)
自分の目の前にあるドアに向かってショートソードを構え、上段から斜め左下に振り下ろして斬り付ける。
その結果は……。
「何だよ、結局駄目じゃないか!!」
自分にパワーが足りないからドアを破れないのか、或いは木製に見えるこのドアの材質はこの世界にしか存在しないものなのか。
どっちにしてもこのドアは開きそうに無いので、今度こそ諦めてニールは戻ろうと肩を落とす。
しかし、その無意識のリアクションが大きなヒントを彼に与えた。
(あれ、このドア……良く見ると何本もの釘で固定されてるのか?)
薄暗いせいもあってドアの前に立っただけでは気が付かなかったが、視線を足元に落とした事でキラリとドアの一部が輝いた気がしたのだ。
その場所に顔を近づけてみると、ドアの至る所に細かく釘が打たれて開かずの扉になっているのだ。
そして、放置されて年月が経っているせいもあるのかドアの所々に穴が開いて向こう側が見えている。
(何でこんなロックが掛かっているんだ?)
普通に鍵を掛けておくだけじゃダメだったのだろうか、とニールは首を傾げつつも、穴の1つからそっとドアの向こうを覗いてみる。
(んー、良く見えないな)
せめて少しでも何かが見えれば不安も幾らか和らぐのだが、この状況ではそうも言っていられない。
ドアにはまだ他にも穴が開いている箇所があり、その内の1つがドアの端に存在している。
(ここなら行けるか?)
これでダメなら諦めようと決心し、ニールはショートソードの先端をゆっくりとその穴に差し込んだ。




