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「他サイトとの重複投稿か……」
ランキング上位のあらすじをチェックしていると、そこそこの頻度で出て来る言葉だ。もちろん、作者によって「重複投稿」と言ったり「転載」と言ったり「~~にも掲載しています」などと表現は様々だ。言ってることはもちろん同じなんだけど。
「確かに色々なサイトがあるし、それぞれ読者も違うんだろうけど、……って、わ、すご、この人、なろう含めて5つも同じの投稿してるんだ!」
あらすじの末尾には『同じ作品をヨムカク、ベータポリス、エブリムン、ノベルダウン-にも投稿しています』との注意書きが。
「きっと、それぞれサイトごとに特色があったりするんだろうけど、管理しきれないよね……」
色々な人の目に止まるのはもちろんいいことだと思う。それだけ、読まれる確率が高くなるし。ただ、全部のサイトを管理する時間を考えると、正直、そこに時間を取られるぐらいだったら、書く時間に充てたいと思うのもまた確かで。
(だって、どこかに誤字とか脱字とか見つけちゃったら、全部直さないといけないわけでしょ? それはムリ!)
身も蓋もないかもしれないけど、誤字や脱字はどうしてもチェックの目をすり抜けてしまうものなんだ。何度読み返しても、わざわざ一晩寝かせて次の日に読み直しても、まるで蚊のように気付けばそこにいる、それが誤字脱字だ。ヤれるものならヤりたいけど、私にだってヤれないものはある。
「まぁ、時間があるときに考えよ、っと。とりあえずは昨日の続きの――――って、感想きてる!」
クリックする指に力が籠もる。いやだって、最近感想ご無沙汰で、燃料不足というか何というか。もちろん、一人でコツコツと書き続けられないわけじゃないけど、たまにブースターがあると嬉しいのもまた確か。
つまり、読者の感想は読まれているという確かな手応えであり、続きを書くモチベーションを大幅にアップさせる魔法のような……
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投稿者:デューク本郷@追放マダァ?(・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン
<良い点>
検索しやすいよう「ざまぁ」タグを付けていること
<気になる点>
検索しやすいよう表記ゆれ「ざまあ」タグを付けていること
<一言>
相変わらず時流のネタをぶっこんでくるフラン・ハルルイエ先生の執筆の早さにびっくりします。ところでヒロインの前世ネタですが、SUNを喰らうeclipseのネタはJavaの開発をした経験者しか分からないネタなんじゃないでしょうか。プログラム言語も知ってるなんて、フラン・ハルルイエ先生の知識の幅が広くって、すごいです。
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「死・に・さ・ら・せ!」
良い点と気になる点ってさ、どう考えても本編関係ないよね? 確かに表記ゆれに配慮したけどさ、感想欄って、そういうもんじゃないでしょ? ストーリーの流れとか、キャラクターの魅力とか、そういうのを語る場じゃないの!?
「ほんっごう~~~~っ!」
怒りに任せてガチガチッと一言欄をコピーして暗号化/解読ツールにペースト。最近、マウスの左ボタンの調子が悪いのは、うっかり強く押し過ぎるのが原因かもね、こういうときに! あとで原因になった本郷に弁償させてやろうか!
……いや、何か仕込まれそうだからいいや。やめよ。そういう隙を見せたらだめだって、ガイアが囁いてる!
解読された文章を確認した私は、すぐさま着ていたルームウェアを全部脱いだ。夏用のタオル地のお気に入りの上下を洗濯機に放り込み、仕事でよく使う謎ロゴの入った水色のTシャツとデニムのハーフパンツに着替える。
「急ぎの仕事とかっ! 後で絶対に特急料金請求してやるっ!」
必要最低限の荷物を鞄に詰め、私は部屋を飛び出した。
☆彡*:;;;;;;:*☆彡*:;;;;;;:*☆彡*:;;;;;:*
「危ない危ない。飛行機に乗られたらシャレんなんないっての」
仕事中に汚れてしまった服は処分してしまったので、私は途中で買ったレモンイエローのカットソーとカーキ色のカーゴパンツでの帰宅だ。あのTシャツ、そこそこ気に入ってたんだけどなぁ。捨てる前に謎ロゴの意味を調べておくんだった。知らない単語って、記憶に残りにくいから、今更思い出せないし。
「はー、それより、中華だよ中華! 中華料理!」
そう、仕事からの帰り道、私の頭を占めていたのは、中華料理のことだった。別に食べたいわけじゃない。
「あとメジャーな中華料理って、何があったっけなぁ、もう!」
今、メインで書いているのは「杜撰な冤罪で追放された聖女は社畜の前世を思い出す」っていうタイトルなんだけど、……あ、タイトルでなんとなく内容が分かるって? そういうタイトルを付けてるんだから当たり前じゃない。それはともかく、つい登場人物の名前を中華料理をもじった名前で統一しちゃったんだよね。シリアスな内容じゃないし、そこまで長くならない予定だから、大丈夫かなって……
(そんなことを考えてた二週間前の自分を全力で止めたいんだけどね!)
餃子に始まり、焼売、ワンタン、ジャージャー麺、青椒肉絲、回鍋肉、棒々鶏ときて、麻婆豆腐からの麻婆茄子、麻婆大根の麻婆三兄弟、酸辣湯に小籠包、油淋鶏などなど、思いつくかぎりの中華料理を並べ、スーパーに買い物に行ったついでに中華即席コーナーと睨めっこしたりもしたんだけど、いよいよもってネタ切れ。
(だからといって、今更、名前の付け方を変えたくないし……)
困った困った、と強風にした扇風機の前に座って「ワレワレハ~」と発声練習。現実逃避? もちろん。
とんてんてろりん とんてんてれりん♪
なんで帰宅してどっかり落ち着いたタイミングでいつも電話が鳴るんだろうなぁ。盗聴されてるとか? あいつヤっとく? 盗聴は犯罪だし、犯罪者なら手加減無用でいいよね。
「で、なに?」
『え! なんで普通に電話とってるの? もしかして体調とか悪い?』
「用がないならKillよ」
『あー、待って待って! まだ切らないで! っていうか、風の音すごいね、まだ移動中?』
私はちらりと扇風機を見て「どうでもいいでしょ。用件は?」と口にする。
『とりあえず仕事お疲れ様、そんでもって、ありがとう。君じゃなきゃ間に合わなかったよ』
「あっそ。っていうか、ああいう緊急の仕事振るのやめてくんない? 移動に疲れるし、即席でヤるから頭使うんだけど」
『いやぁ、そこを何とかしちゃうフラン・ハルルイエ先生にシビレるアコがれ……』
「もうKill死ね」
『まって切らないで! とにかく急ぎの依頼に対応してもらったってことで、依頼料の振り込みもすぐ終えたから確認しておいてね』
そういう内容なら、別にわざわざ電話をかけなくてもいいだろうに、と思ったところで、ふと気がついた。もしかしたら、ワンチャンいけるんじゃないか、と。
「本郷、メジャーだけどマイナーな中華料理ってなに」
『え? 突然どうしたの?』
「いいから、なんか中華料理あげなよ」
『え? えーと、八宝菜?』
「……使えねー」
私は通話を終了させた。それもう使用済みだし。サイ・ハッポウって追放サイドの腰巾着がいるから!
「はぁ、どうしようかな……。ワ・レ・ワ・レ・ハ~」
やばい、現実逃避が楽しくなってきた。いやいや、こんなことで時間を取られるのが勿体ない! 誰か中華料理! ギブミー中華料理!
「ってそうだ!」
私はPCを立ち上げて、目の前にどっかりと座る。
「そうよ、こんな時には、いにしえの暗黒皇帝ググレカスに頼ればいいって、じっちゃんが言ってた! ……じっちゃんなんていないけど」
ブラウザを立ち上げて、検索窓に「中華料理 メニュー」と打ち込む。ずらっと出て来るのは、どちらかというとレシピサイトだ。小説投稿サイトもいくつかあるけど、料理レシピサイトもかなりあるよね。企業が一方的に出してるやつとか、投稿するタイプのやつとか。って、やっぱり重複投稿……って、今はその話じゃない! それを考えるのはまた後でだ!
「あ、そうだ! これを忘れてた!」
ありがとう暗黒皇帝ググレカス。あとで水羊羹供えておくね(大嘘)。
無事にヒロインをサポートする新キャラの名前が決まり、私は心の赴くままに『杜撰な冤罪で追放された聖女は社畜の前世を思い出す』の執筆を続けた。
なお、その新キャラの名前をエヴィ・ツィリ、と言う。