第35話「血の雨を振り切れ!」
仕事行きたくねえ!
A.
「お姉ちゃん....その時にはもう道を踏み外してたって言うの!?」
自分の両親を石掘が殺した理由が実の姉に依頼されたからという、余りにも酷い真実に打ちのめされて緋美華はぺたりと座り込んでしまった。
「懐かしいなあ、私がひみかと会ったのは中学の入学式だったよね」
「せやあああああああ」
「あーもう金城さんは何でこうも空気が読めないのかな! 話はちゃんと聞きなよ」
石掘は後ろから振り下ろされた巨大な斧を振り返りもせずに鋏で受け止め、馬みたいに後ろ足で金城を吹き飛ばす。
「ぐっ....ああ、あああ!!」
「お嬢様!」
「私は殺人鬼ではあるけど、流石に誰でも良い訳じゃないんだよ。だから帰って?」
倒れる金城とそれを抱き締める椋椅を、石掘は見下ろす。仮面で顔を隠していても冷酷な表情をしていることが何となく分かる。
「入学式は私の両親が殺された年....いや、お前が私の家族を殺した年!」
良く見ると緋美華の何時もは青く澄んだ瞳が澱んでいる、憎しみと絶望に心が支配され始めているのかもしれない。
「初めて会った時のこと覚えてる?」
「....」
予想以上に精神的なショックが大きかったのか緋美華は何も答えない、しかし気にせずに石掘が言葉を紡ぐ。
「その時にね、一目惚れしちゃったの」
「な、な、なんですって!」
....恋敵がまた一人いただなんて、流石に金城ほどじゃないにしろ動揺してしまうけど。
「いま消してしまえば問題ない、か」
魔力充填完了....石掘が雨を降注がせてくれてるお陰で魔力切れの心配をせずに戦うことが出来る。
「切り裂け母なる者たちよ!」
私が放った周囲の木を切り裂きながらブーメランの如く回転する十の水刃が石掘に凄まじいスピードで向かっていく。
「お前より私のが先に出会ってんの、ポッと出が調子に乗らないでよ!」
石掘は指を鳴らして吹雪を起こし、水の刃全てを凍結させることで無力化した。
驚くべきはこの間わずか三秒だと言うこと、普通の人間から見れば瞬時に水が凍って地に落ちたかのように見える筈だ。
「くっ、これも通用しないか。この強さは....能力によるものだけじゃない」
「そりゃそうさ。何百人もの人間を殺したんだから強くもなるよ」
能力を使って人を殺せば殺すほど、その人間の肉体は更に強化されていくんだった。
こいつが人殺しを繰り返してた理由もこれなのか....? 殺し屋として金稼ぎも兼ねてた可能性もある。
「封印して差し上げます!」
椋椅に結界に閉じ込められるも、石掘は声をあげて笑い転げる。
「お前は人を殺したことないね?だってこんなにも能力が脆いんなもの」
石掘が立ち上がり内側からパンチすると、結界は鏡みたいに割れて散らばる、破壊されてしまった....!
「私の結界が!」
「本来なら核攻撃すら弾くらしいけど、人殺しまくった今の私の全力パンチはそれ以上だもんね、残念でした!」
石掘が雨雲に覆われた黒い空に両手を空に掲げると、青い雷と紫の雷が地に降り注いで地面や木々を焼き払う。
「ひいっ、黒焦げはもう嫌ですわよ」
「何人も殺してない私の結界では、何百人も殺したコイツの雷を防ぎ切れません!」
みんな避けるので精一杯で、しかも私は周りも焔に包まれていく周りを消火しながらだから余計に疲れる。
「津神さん、春野さんを連れて一先ず引きますわよ!」
「ひみかは逃がさないから! 月光遮る悪魔の虹でも食らえ」
石掘の手から放たれた虹が足元で爆発し、金城と椋椅は爆風で気を失ってしまった。こいつどうあっても緋美華を....!
「教えてあげるよ、津神 水無、実はお前の両親殺したのも私なんだよねー」
「うそ....」
しまった、一瞬の動揺が命取りだった。私の懐にハサミを構えて石掘が素早く飛び込んでくる!
「地獄で嘘か本当か聞いてみなよ」
ハサミの刃先が私のゴシックロリータ服ごと皮膚を貫き体内に侵入して私の心臓を挟んでいる、もしこれが閉じられたら!
「やばっ....」
「液化して逃げるなんてさせないよー!」
吹雪で体を凍結されたことで目論見は失敗し、私の心臓は鋏で真っ二つにされてしまった。
「があ!あああ、あああああ!!」
今までを凌駕する苦痛に襲われ、自分でも聞いたことのない絶叫が溢れて耳を劈く。
「はっ、水無ちゃん!?」
....責めて緋美華だけでも逃げ....て。
第35話「血の雨を振り切れ!」
B.
水無ちゃん....そうだ、私は何をしてるの。放心してる場合じゃない、彼女を、皆を守らなきゃいけないのに!
「これでも、まだ死なないって厄介過ぎるよねー」
「はあっ!」
私は音もなく立ち上がって石掘に飛び蹴りを浴びせた。すると森中のカラスが不気味な合唱を始めた、私か石掘の葬送歌のつもりだろうか?
「不意討ちなんて酷いね、でもやる気になってくれて嬉しいよ」
「黙って戦いなよ」
私は怒りを込めた灼熱の拳を仮面に叩き付けた。
「私の仮面が....!」
割れた不気味なピエロの仮面の下は、やっぱり学校で見慣れた石掘の顔だった。
「私の両親、水無ちゃんの家族、殺された罪のない人たちの無念は私が晴らしてみせる!」
「できるかなー?」
突き出されるハサミを持つ腕を掴んで焔を纏い、腕ごと灰にすることに成功した。どんな豪雨でも私の焔の勢いを弱めることなんて出来ないってわけね!
「ふふ、あははは、やる気出てきたよ」
片腕を失ったのに全く気にしてないなんて得体の知れない恐怖を感じずには居られない。だからって逃げる気は更々ないけどね。
「来なよ」
「まあ慌てなさんなって、その前にさっきの続きを話すよ」
「聞かせて、殺すのはその後にする」
「初めて会った時に一目惚れして思ったの、この娘の絶望し怯える顔は素晴らしいものに違いないって!」」
「私だって素敵な友達が出来たって思ってたのに!」
確かに最初に会った時はそう思った、此処でも友達は出来るかなって思ってたから嬉しかった....。
「そして丁度お姉さん、春野 紅鴉に依頼されたんだよ」
「きゃあっ」
雨雲から雷が降注ぐ、一撃でも食らえば暫く動けないほどダメージを受けてしまう。今度は当たらないようにしないといけない!
「私の両親を殺して欲しいとね」
「じゃあ水無ちゃんの家族はどうして!強くなるため!?」
「それも依頼だよ、ひみかのお姉さんからの」
お姉ちゃんが水無ちゃんとどんな繋がりがあるのか、何でそんな依頼したか何て全然わからない。
「....」
「ふふふ罪悪感でまた腑抜けちゃったー?」
....けど、けれど!
「寧ろ、だったら、尚更わたしはお前を倒してお姉ちゃんも倒さないといけないんだ!! 焔点火....!」
私は腕を空に突き上げ焔の柱を雲にぶつける、こいつの一番厄介な落雷攻撃はたぶん雲なしでは使えないはず。
「何処を狙ってるの?」
「私の心に絶望の雨はもう降らない!」
雨雲が全て蒸発し曇天は青空に変わる、これで強力な落雷攻撃は使えない筈だよね。
「雲すら吹き飛ばすなんて前より火力が上がってる!?」
「はあっ!」
驚いて隙が出来た石掘をラリアットを食らわせ、そこから更に巴投げのコンボ....!
「いてーっ、油断したよ全く。とりま凍っちゃえ!」
「燃えちゃえ!!」
吹雪攻撃も私の焔の前に全部溶けて水溜まりになった、後は急いで石掘の虹を避けながら水溜まりから水を掬って倒れてる水無ちゃんの口に流し込む!
「ん、んん....」
良かった、水無ちゃんが目を開けてくれた。
「チッ、せっかく二人きりの時間だったのに」
「ごめんね水無ちゃん。私はもう絶望なんかしないから」
「私も貴女と居られるなら絶望なんてしない」
ああもう、こんな時にだって水無ちゃんは私の心を満たす言葉を言ってくれるんだから。
「ノロケんなくそー!」
キレた石掘の竜巻も飛び越えてしまうほどジャンプして、からの焔を纏った急降下キックと水無ちゃんの高圧水流と共に降下しながらのパンチ....!!
「あっ、避けきれないほど速いんですけどっ!?」
「私たちの家族の....」
「仇ーぃいいッ!」
あと数メートルで、数秒で家族の仇は消え失せる。さようなら憎むべき敵にして良き友よ....!
「危ないっ....!!」
いきなり教会から三尋木さんが飛び出してきて、石掘さんを抱き締めて庇った。
「きゃああああああああ!」
「そんな、何で!」
三尋木さんの体にはポッカリ穴が開いてしまった、これじゃもう助からない。
「三尋木、なんで!? ついてくるのは良いけど絶対出てくるなって言ったのに!」
「貴女は愛する人の苦しむ顔が見たい、けど私は愛する人の苦しむ顔や死に顔なんて見たくないから」
三尋木さんは石掘さんのことを愛していたんだ....。
「....ごめんなさい二人とも、わたしは石掘が犯人だって知ってて黙ってた悪い奴なの。だからこれは当然の報い」
「三尋木!」
「ごめん、貴女を止めてあげられなくて....」
そう言うと三尋木さんは石掘の胸の中で息を引き取った。何でこうなっちゃうんだろう、神様の意地悪。
「あーあ、なんか萎えちゃった。ひみかは振り向いてくれそうにないし、殺し屋稼業で稼いで遊びまくったけどなんか楽しくないし」
血も涙もないはずの殺人鬼の目から透明な雫が流れているけど彼女が流させた血と涙の数は多く同情する訳にはいかない。
「身勝手な」
「それに三尋木が死んじゃって、どうでも良くなっちゃったから私も死ぬとするよ」
「願ったり叶ったりだ」
石掘は三尋木さんを残った片腕で背負って教会の裏にトボトボと進んでいく。
「裏は崖になってたのか」
「私に依頼した春野 紅鴉はもうすぐ街に来るよ、そこで色々直接教えてもらいなよ。じゃあね、バイバイ!」
満面の笑みでそう言ってすぐ、家族を殺した仇は....親友と一緒に自ら海に呑まれていった。
「さようなら私の友達」
C.
海を暫く眺めて戻ろうとした時に、教会から二つの人影が出て来た。こいつらはヴォルフトと蟲女だ....!
「....此処に匿ってたなんて」
石掘さん達もお姉ちゃんの部下だから、同じ仲間を捕まえたりするハズないんだ。
「絶望の雨は降らない?もう一度降らしてあげるよ、今度は君の血で雨をね」
「お礼はたっぷりさせて貰うぞ」
私たちに襲いかかる黒い狼の群れと無数の吸血触手は、焔で焼いてもまた現れて水で切っても再生してキリがない。
「前より再生速度や出現速度が早くない!?」
「再生怪人は弱いハズなのに」
怪人....?
「あはははは血をたくさん吸わせて貰うよ〜」
「っとさせねーぜ?」
いきなり地面の中からイグさんが現れ、口から紫色の液体を吐いて触手を溶かしてくれた!
「イグさん!」
「あははは目障り極まりないしもう殺しちゃお? 前より私たちは強くなったんだからさ!」
「アンタらは逃げな、心配すんじゃねえ俺は強いからな」
「えっでも」
「言う通りにしますわよ!」
いつの間にか起きた金城さんが私たちを急いで自宅の玄関前に転移させてくれた、でもイグさんは大丈夫なのかな。
「緋美華、いまはイグより街のみんなの心配をしないと」
「....お姉ちゃんが直接ここに来るんだね」
石掘さんの言う事が本当なら、もう直ぐお姉ちゃんが、この街に帰って来る。心の準備と休憩はちゃんとしておかないと。
「水無ちゃん、ごめんなさい私のお姉ちゃんが貴女の家族を....」
「気にしないで、貴女だって被害者なんだから」
「ありがとう」
「さあさあ御二方、早く入って休んで下さいまし。次なる戦いに備えて!」
金城さんのお言葉に甘えて今日はもう休みを取るとしよう、仇を討てた達成感と友達を失った喪失感を同時に味わって疲れちゃったよ。
「ただいま、ひよ....り....」
大好きな幼馴染の顔を早く見たいな、そんな思いでひよりの待ってる私の部屋に向かってドアを開けると信じたくない光景が待っていた。
「ひみ....か....」
「か、風見さん!!!」
全身から血を流している泡を吹いてるひよりが、何者かに頭を掴まれ持ち上げられている。
「くっくっく、帰って来るのが遅かったな我が妹よ」
そして、ひよりをこんな目に遭わせてるのは私の実の姉である春野 紅鴉。もう帰って来ていたなんて、予想より早すぎるよ!
「お母さんとお父さんだけじゃなく幼馴染で一番の親友まで奪うつもりなの? 何で? どうして!?」
「ふふふ、絶望はしないだと? バカめ、更なる絶望はここからなのだ!!」
高笑いが耳を、愛する者の今にも死にそうな姿が目を、生臭い血の臭いが鼻を、言い得ぬ恐怖が全身を襲ってくる....!
つづく
再生怪人は大幹部怪人やラスボスだろうと弱くなるからね仕方ないね




