【番外編】純喫茶 店員目線
純喫茶過ぎて、純喫茶ブームに乗れない店。それが真由の働いている店だった。
可愛らしい茶色のエプロン、メロンクリームソーダ、堅焼きプリン。これが揃えば中高生にはドストライクだろうと思うのだが、なかなか客足が伸びない。SNSだけでもやれば少しでも客足につながると思うのだが、店長が頑なに拒む。
(まあ、潰れなければなんでもいいけど)
そこまで、SNSをやって欲しいわけではないので、一度言って店長に拒否反応を示されてからは提言していない。
SNS以外で、来客を望めないかとも考えたことがあるが、店の外見が古風な看板を除いてカフェのように洋風だ。外見は一切純喫茶ではないので、高校生には物足りぬのだろう。本物の純喫茶は純喫茶らしい見た目をしているとは限らないことを知ってほしいものだ。
それに、店が注力しているのが紅茶やコーヒーといったものなのでそれもイマイチなのだろうか。色々な相乗効果でこの店の来客は望めなかった。
――26歳。まだ、若者の一員である真由は店の掃除をしながら、若者の事を考える。
シャランとドアベルが涼しい音を奏でる。客が来たようだ、と真由は振り返る。そこには2人の少女が立っていた。
何度も見たことがある少女達だ。最近、純喫茶過ぎて、純喫茶ブームに乗れない店に常連客が来るようになった。しかも、中学生だった。
真由は2人を席に案内すると、メモ帳を手に微笑んだ。
「ご注文はお決まりですか?」
「私は、固焼きプリンとブラックコーヒーをお願いします」
ミディアムヘアの少女はメニューを見ることなく答える。ブラックコーヒーを選ぶとは随分と大人びた味覚らしい。少女はメニューをガン見している向かいの友人に目を向ける。
「香苗ちゃんは何にするの?」
どうやら、常連客の1人、大人っぽい服装にロングヘアの少女は香苗というらしい。
「私はメロンクリームソーダをお願いします」
大きい目を輝かせながら、香苗は言う。その様子に真由は微笑みをこぼした。
「かしこまりました。ごゆっくりどうぞ」
厨房にメロンクリームソーダとプリンを伝えると、真由はコーヒーを淹れる。狭い店内は耳を澄ませなくとも、会話の声が聞こえてしまう。ただ、真由は聞き耳を立てまいとする努力はしていなかった。
「涼花ちゃんはメロンクリームソーダあんま好きじゃないのー?」
もう1人の常連客は涼花というらしい。涼花は凛とした顔立ちながら、愛らしい雰囲気で先に渡されたお冷の結露を手でいじっていた。
「あんま味好きじゃないんだよね」
「あー、ちょっと化学っぽい感じー?」
コーヒーとメロンソーダが出来上がると、真由はお盆にのせ、涼花と香苗の席に持っていく。
「おまたせ致しました。プリンはもう少し時間をいただきます」
「「ありがとうございます」」
香苗と涼花はコーヒーとメロンソーダを各々口に運ぶ。真由は掃除を再開させることにした。木製の机はたまに磨いてやらないといけない。ワックスを付け、しばし磨くと光沢を放ちはじめる。
「最近、どうー?」
「どうって?」
香苗からの問いに涼花は首を傾げる。
「恋路はどうー?」
「恋路って……絢斗とのこと?」
ここで、新たに絢斗という人物がではじめた。恋バナと言ったところだろうか、中高生の恋バナほど甘酸っぱいものはない。それは、大人である真由は身に沁みて感じていることだった。
「夏祭りに行ったらしいじゃんー?」
「なんで、知ってるの?」
「絢斗くんからLINEで聞いたー、浴衣着たんだって?」
「いつの間に交換してたの?!」
とっても、甘酸っぱくなってきた。夏祭り、浴衣と来れば付き合っている男女が憧れるシチュエーションだろう。
(私も行ってみようかな)
夏はすでに終わったが、秋祭りならまだやっているところはあるだろう。もう青春は通り過ぎたが、彼氏なるものがいる真由は実家の押し入れの浴衣の存在を思い浮かべる。
「ずっと聞きたかったんだけどさー、絢斗くんと涼花ちゃんは付き合っているの?」
「付き合っているか?って聞かれたらうんって答えるけど、付き合ってない?って聞かれてもうんって答える」
雲行きが怪しくなってきた。てっきり付き合っているものだと思っていたが、どうやら違うらしい。曖昧な関係性、少しビターな恋になってきた。
「手を繋いだことは?」
「ない」
「ハグは?」
「一回ボウリングでテンション上がったときに」
「それ以上は?」
「断じてない」
どうやら、健全な恋ではあるらしい。真由は密かに胸を撫で下ろす。ただ、話の流れ的にお互いに恋慕は持っていそうだ。
「このぐらいの距離が丁度いいっていうか、でも、そろそろはっきりしたいところだけど」
「それもそうかもねー」
不意に、スマホが鳴った。真由のスマホは仕事中なので切ってある。今、店にいる客は涼花と香苗の2人しかいない。ガサゴソと2人がカバンを探る。鳴ったスマホの持ち主は涼花だったようで真由が「店内での通話はおやめください」と言う前に店の外に出ていく。
涼花が店の外に出たところで丁度プリンが蒸し上がった。真由は席に涼花が注文したプリンを運んでいく。
「おまたせ致しました。ご注文のプリンです。置いておきますね」
メロンソーダとバニラアイスの境にストローをさす事に集中していた香苗は顔を上げ、微笑む。
「ありがとうございます」
「いいえ」
そう言って背を向けようとしたところだった。
「どう思いますか?」
「は?」
突然の質問に真由は怪訝な表情をしてしまう。だが、香苗は真由の表情になど気にする素振りなく、ニコニコと話し始める。
「私、板挟み中なんですよ。絢斗くんって子からも相談聞いたんですが、2人が付き合う日もそう遠くはなさそうです」
「……そ、そうなの」
どうやら、中学生の恋も色々大変らしい。真由はぎこちない笑顔を浮かべながら、そう思った。




