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義務教育にはハマりません。  作者: juri


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19/19

はじめまして・久しぶり

玲が絢斗を初めて見た時の印象なんて、さして良いほうじゃない。その人を巡って問題が起こるなんて夢にも思わなかった。


 通りかかった教室で、彼は数名と楽しそうにふざけ合っていた。服装は乱れ、顔がいいだけの絢斗という人間を一瞥し、玲は過ぎ去った。


 ――そのはずだった。


 放課後の公園で寄り道をしているカップル。馬鹿馬鹿しい。先生にバレたらどうするつもりなのだろうか。


 また、玲は一瞥しようとした。ふいに、公園で笑い声が上がる。その笑い声に引き寄せられるように玲はその方向を見てしまった。見てしまったのだ、青木絢斗の満面の笑みを。


 どんなに欲しい物でも、手にはいらないことがある。


 いらない物は手に入っても、あふれても。


 欲しい物がどれだけ近くても、どれだけ、まわりの協力があっても。手にはいらない。


 玲が人生で初めて強く欲しいと願ったのは、絢斗が好きな人――涼花に見せる笑顔だった。


 少し前の事を思い出しながら、玲は公園のベンチに座っていた。玲はベンチに付いているテーブルに肘を乗せる。頬杖をしながら、玲は遊んでいる少年少女を眺めた。玲がいるのは喫茶店の直ぐ側にある小さな公園だ。


 放課後の公園は賑わっている。小学生が数名とそれを見守っている保護者が数名。


 何の変哲もない公園だ。


「あらー、桜木さんじゃないですかー」


 陽気な声が耳をかすめた。後ろを振り返ると香苗が立っている。


 香苗の手にはポテトチップス、グミ、せんべい、クッキー、板チョコを持っている。わんさかと溢れ出さんばかり持つお菓子をがさりとテーブル付きのベンチに乗せた。


 「なんか、黄昏れてたし。話しかけようか悩んだんだけど、ご一緒してもいいかなー?」

 「どうせ、話しかける気だったくせに」

 「ありゃー、バレた?」


 香苗は頭に手を当てながら、笑って見せる。


 「さっきのはじめまして、久しぶりの間違いじゃないの?香苗ちゃん?」

 「逆に聞くけど、なんで玲ちゃんもはじめましてって返したのかなー?」


 一見変にも見える二人の会話。事情を見れば、そこまで変な会話ではない。2人は実は小学生の頃からの付き合いであった。 


 「なんとなく」

 「私もなんとなく、はじめましてっていったよー。奇遇ですね」


 嘘だ、嘘に決まっている。堀香苗はどこまでも計算ずくされてる。そして、その計算力はいつも必ず香苗自身のためではなく、他者のために使われる。


 「相変わらず、世話を焼いているの?」

 「そうだよー」


 ボリボリと香苗はクッキーを食べ始める。


 「声をかけて、厄介事に絡まれるかもしれないのに?」


 実際、香苗はもう巻き込まれているだろう。ずっと昔からそうだった。小学校の中で泣いている子がいると手を差し伸べに行く。香苗は不登校生なのに、たまに小学校に来ては、助けに行くのだ。


 「お節介をして、50%の確率で好転するとしたら私は声をかけに行くよ。玲ちゃんは?」

 「声なんて、かけたってどうにもならない」


 そんな簡単な世の中ではないのだ。


 「玲ちゃんは結局かける言葉がないんじゃない?玲ちゃんは臆病者で愚行者で、卑怯者だ」

 

 どくりと心臓が脈を打った。玲は手を握りしめる。


 「涼花ちゃんに勝った気でいるのかもしれないけど。だから玲ちゃんは涼花ちゃんに会ったときに冷静を保てていたかもしれないけど」

 

 香苗は言葉を切る。


 鈴花の隣には絢斗がいて、玲の横には誰もいない。あんなに、欲しかったものは結局手に入らなかった。あんなに、醜い自分になったくせに、少しもかすめなかった。


 (いや、違う。私はもっと・・・)


 玲は気づいた。自分が思っていた醜い自分よりも、醜かったのではないかと。


 先生には玲が有利になる情報を吹き込み、周りの友人にいじめを実行させた。そして、学校から追い出した。言葉にするととても明解だ。


 だが、現実はもっと複雑で、玲の中では色んなものが交差していた。


 学校から追い出したという一つの勝利に玲はすがっていた。欲しいものが手に入らなくても、鈴花の友人に糾弾されても、一つの目標を達成したという達成感に。


 「玲ちゃん。玲ちゃんは負けたよ」


 口元についた、クッキーのクズを払いながら。香苗は真剣な顔で呟く。


 「みんな、向いている場所と向いてない場所があるの。丁度ね、涼花ちゃんは学校に向いていなかった。やり方は本当に卑怯だ。だけどね、玲ちゃんのその卑怯なやり方で、涼花ちゃんは一歩を踏み出したんだよ」

 「・・・・・そんなの結果論」


 香苗はふふっと笑った。その笑顔は侮蔑も蔑みもこもっていない。ただ、無垢なばかりだ。


 「玲ちゃんは反省しているね、それはよく分かる。きっと、少し周りが見えなくなっただけだ。だけど、これが人の人生を揺るがすことになるということ。欲しいと思って人の心は手に入らないこと。周りが見えなくなってこんな事をしてはいけないということ。何があってからでは遅いということ。覚えておいてね」

 

 香苗と玲の久しぶりの再会はこの言葉で締めくくられた。

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