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義務教育にはハマりません。  作者: juri


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話し合い

「久しぶり」


 汗を手で拭いながら、玲は言った。鈴花の予定などが重なり、会うのは平日の午後になってしまった。もう、夏休みに入っているものの、玲は塾があったらしい。そのため、塾が終わり急いで来たのだろう。玲の額にはほんのり汗が浮かんでいる。


 鈴花はほんのりと微笑み、口を開く。


「久しぶり」


 正直その微笑みは鈴花の意地でしかない。鈴花はギュッと自分のワンピースを掴む。本当は逃げ出したい。だが、ここで逃げ出すのは違うだろう。


 プリーツスカートからのぞくスラリと長い足。ショートカットの髪はハーフアップにされていた。髪には飾り一つ付けず、ゆったりとしたブラウスを着ていた。


「追加しちゃった!勝手にごめんね、誤りたいから会えないかな?」と言う軽快なメールを送ったようには見えない優等生っぷりだ。


 今まで連絡先を交換したことがなかったので気が付かなかったが、どうやら、会った時の印象とメールでの印象が違う性格らしい。会ったときは不思議な雰囲気をまとった神秘的軽だが、メールはギャルだ。


 そんな玲を見据えると鈴花は口を開く。


「今日はいきなり、友達と絢斗を連れてきてごめんなさい。なるべく、友達に関してはご迷惑をおかけしないようにするから」


 絢斗と香苗が来ることは伝えておいたのだが、楽しいお茶会でもないのに友だちを連れてくるなど謎だったろう。


 鈴花は大口を開けてプリンを頬張ろうとする香苗の膝をつねった。その拍子にスプーンの上のプリンが皿の上に落ちる。観念したようにうつむきながら、香苗は玲の方に向き直った。


()()()()()()、堀香苗といいます。勝手に今日はすみません」


 にこっと愛想のいい笑顔を浮かべる香苗はやればできる子だ。いや、計算づくしてわざと砕けたようにしているところもあるので、いつもやっている子なのかもしれない。


 ただ、今日に関してはいつもより2割増でいいのできちんとして欲しい。


「ええ、()()()()()()

「桜木さん、話すのは久しぶりかな?」

「そうだね、青木くん久しぶり」


 絢斗はいつもより笑顔を封印している様子だった。


 絢斗は夏休み中にも関わらず、学校で友達と勉強会をしていたそうだ。絢斗自身が提案したらしく、相変わらず楽しそうにやっている。絢斗は制服姿だ。さらりとした半袖シャツにネクタイをゆるく締めている。


 喫茶店に流れる音楽だけが耳に届く。短い沈黙の中、玲が口を開いた。


「今日は突然呼んでしまってごめんなさい」


 玲はティーカップを撫でた。


「申し訳なかったと、思っているの」


 物憂うような言い方ではない。事実を語っているかのような、極めて冷静な言い方。玲のペースに引っ張られていくような、感情が見えにくいような。


 玲はとても厭味ったらしいような人ではない。だからこそ、対応に困る。理不尽ないじめだった、そのはずなのに玲自信からは理不尽さを感じない。


 鈴花はぐっと手を握る。うわべは微笑んでいられても、鈴花は玲のように冷静ではいられない。どうしても、心のなかでは臆病だ。でも、言わなくてはいけない。


「私のものを紛失させたり、切り刻んだことをでしょうか?」

「そちらも含めて、あなたを無視して精神的に負担をかけてしまった。周りが見えていなかった」


 玲は髪に触れ、そっと目を伏せる。


 わかっていないな、と鈴花は思った。玲がしたことで一番傷ついているのは無視をしたことに対する精神的な負担ではない。


 大まかに言えば精神的な負担なのかもしれないが、細かく言えば、鈴花が一番傷ついたのは壊されたものを処理するときに生ずる負担だ。


 玲に無視されようと、鈴花に話しかけてくれる人はいた。だが、荒らされたロッカーを片付けるときや、傘を捨てるとき。心の奥で何かが軋む。しみじみと悪意を感じる瞬間だった。


 他の人がどうなのかはわからない。人の感じ方は多様だ。ただ、鈴花はそう感じていた。鈴花と玲が黙り込んでいるとスプーンのカチャリという音がする。


「桜木さん、嘘は良くない」


 砂糖を混ぜた紅茶を口に運びながら絢斗は言った。鈴花は目を瞬かせる。まるで、断言するような綾斗の言い方を鈴花は久しぶりに聞いた。


「なぜ、私が嘘を言っていると?」

「桜木さんが髪を触るときは、嘘を付いているときだ」


 あはは、と玲は笑う。可笑しくてたまらないとでも言うように。


「人のそういう細かいところを覚えているから、だから、青木くんは私などという、好きな人の好きな人を害するような人に好かれてしまう」


 玲の低い声色はズンと胸の奥に落ちた。次の瞬間までは。

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