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義務教育にはハマりません。  作者: juri


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涼花とおはよう後編

 鼻息荒く、使い古されたメモ帳とペンを片手に、初対面の人が詰め寄ってくるという状況に陥ったことがあるだろうか。


 その状態に陥った事がある。というか、今まさに陥っている状況の涼花はこう思った。


 (怖い)


 シンプルだが、これとしか表現できない。涼花は苦笑いのまま、目の前で詰め寄る同い年ほどのショートカットの少女を見る。


歩奈(あゆな)ちゃんそのペン最近買ったー?」


 目の前の詰め寄る少女は歩奈と言うらしい。香苗のペンどこで買った?という質問によって、名前だけが分かった。


 (正直、今名前どうでもいい)


「香苗ちゃん、どうにかしてあげたら」


 涼花を追い詰める歩奈に、新品のペンに食いつく香苗。その地獄絵図を打破したのは海斗だった。


 海斗は初対面は苦手らしいので、涼花の前ではさっきから萎縮してばっかりなのだが、勇気を出して助けてくれたらしい。


 現在周りを取り囲んでいるのが異風な人しかいないため、普通に突っ込んでくれた海斗が何だか神々しく見える。後光が指しているように見えるのは勘違いだろうか。


「歩奈ちゃーん!一旦深呼吸&椅子に座ろー」


 香苗が歩奈の目を捕らえて言えばとりあえずその場は静まった。のだが、歩奈は平常心を取り戻すと黒縁メガネを外し、涼花に問いかけた。


「あなた、恋愛してますね」


 随分パンチのある言葉だった。雨の中公園で香苗に「学校行かないなら、原宿行かない?」と言われたときよりはパンチが少ないが、それでもすごい言葉だなぁ、と涼花は冷静に思った。


 驚く事がありすぎて、客観的に判断できるようになった、というのが最近、涼花が会得した特技である。


 そんな冷静さを活用して、香苗の方を見た。口をぽかんと開けて唖然とした顔をしている。当たり前だが、香苗が漏らしたわけではなさそうだ。彼女は口が軽そうに見えてそういう所はしっかりしている。


「それでぇ?お聞かせ願います」


 涼花に歩奈は更に顔を乗り出し、近づける。まつげの本数が数えられるほど、顔が近づくと熱が伝わってきた。


森歩奈(もりあゆな)ちゃんはねー、少女漫画大好きーだから。でも、私も歩奈ちゃん自身も周りに同い年ぐらいの殿方がいないからねー、恋愛話とか出来なくて、飢えてんのよ」


 香苗はしれっと涼花に歩奈の名字を教えながら、ソファにどかっと座る。歩奈に無理やり涼花も座らされて、女子3人組はソファに座った。


 とりあえず、歩奈が恋バナに飢えていることは分かった。ただ、同い年ぐらいの殿方である海斗の目の前で言う話じゃないことは香苗と涼花は気付いていない。海斗は奥の本棚の方に行ってしまった。


 この地雷事故が1日に何度起こっているのだろうか。諦めた表情の海斗の表情から見て、ショックを受けたような様子はない。慣れてしまったのだろうか。


 なんだか、申し訳ない。 


「それでぇ?」


 歩奈は懲りずに涼花に聞く。これは話し終わるまで離してくれなそうだと涼花は喋り始めた。





 ガタゴトと電車が揺れる。

 口の疲労を感じながら、涼花は香苗と帰りの電車に乗っていた。恋バナ中に頬が緩まないよう唇を噛んだため若干痛い。


 随分暑い、と涼花は手で顔に風を送った。電車の中には半袖、タンクトップの人しか見当たらず、かくゆう涼花も半袖だ。


 淡い黄色のシースルーシャツを着て、下はジーンズ生地のマーメードを履いている。


 こんな、ときでもくっついているカップルは暑くないのだろうか。


 ドア付近に立ちながら涼花は逃げるように外を眺めた。フリースクールテントの帰り道で時刻は3時30分ほど、昼のように刺す日差しが鋭い。


 そんな事を思っているとふと、同じく、ドア付近にいた香苗に話しかけられる。


「すーずかちゃん、ちょっと寄りたいところがあるんだけど」

「いいけど、どこ行くの?」 

「ひ・み・つ」


 香苗は片目をつぶり、艶っぽく笑ってみせた。涼花が乾いた視線を浴びせたのは言うまでもない。

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