第七話:
長らく続いた――
学園の片隅で起こる小さな事件。
消えた答案用紙。
放送室の告白。
給食プリン騒動。
図書室の恋文。
そして、学園中を揺らした告白事件。
それらはすべて、ひとときの寄り道。
本来この物語は、もっと大きな運命の渦の中にある。
黒き翼を持つ者。
国を背負う姫。
神々の陰謀。
滅びと継承。
戦乱の果てに問われる、命の意味。
三神凌牙 は、
セラ として目覚める。
月城沙耶 は、
鳥羽姫 として帰還する。
そして、笑いながら全てを見ていた クロガミ もまた、本来の舞台へ戻る。
ここから先は、遊びではない。
だが――
あの騒がしい日々も、確かに彼らの記憶に残るだろう。
次回より、本編再開。
三神凌牙の事件簿
第七話:本編へ戻る扉
夕暮れの校舎。
赤く染まる廊下を、三神凌牙 は一人歩いていた。
今日の事件はすでに解決していた。
理科準備室から消えた答案用紙。
犯人は教師でも生徒でもなく、風で開いた窓から飛ばされ、換気口に詰まっていただけ。
あまりにも平和な結末だった。
神谷が肩を落とす。
神谷拓也
「今回は地味だったな……」
「事件なんてその程度でいい」
「もっとこう、爆発とか変装とか愛憎劇とか!」
「求めるな」
⸻
その時だった。
廊下の突き当たり。
存在しないはずの扉が現れる。
黒い木目。
金の取っ手。
表札には、こう刻まれていた。
本編へ戻る扉
神谷が叫ぶ。
「何それぇぇ!?」
凌牙は顔をしかめた。
「嫌な予感しかしない」
⸻
扉の前には、パン屋の格好をした男が立っていた。
白帽子。口ひげ。エプロン姿。
黒神田昴
「毎度ー!」
「ついにこの時が来ましたで!」
神谷が指差す。
「またお前か!」
黒神田はニヤリと笑う。
「せやけど、今日はパン屋やない」
帽子を取る。
ひげを外す。
エプロンを脱ぎ捨てる。
現れたのは――
クロガミ
教室がざわつくような不穏な気配。
「スピンオフはここまでや」
⸻
神谷が震える。
「終わるのか!?」
クロガミは腕を広げた。
「十分遊んだやろ」
「推理もした」
「プリンも消えた」
「告白も広まった」
「そろそろ本筋へ戻る時間や」
凌牙は睨む。
「勝手に決めるな」
⸻
その瞬間。
校舎全体が揺れた。
窓ガラスが鳴る。
凌牙の体が光に包まれていく。
神谷が叫ぶ。
「凌牙!?」
クロガミが静かに告げた。
「お前の名は仮の名」
「ここでは三神凌牙」
「せやけど本来の名は――」
光が弾ける。
黒い翼が背に現れる。
鋭い眼差し。
少年の姿が変わっていく。
セラ
神谷、腰を抜かす。
「誰ぇぇぇ!?」
セラは頭を押さえた。
「……思い出した」
「やかましい学園生活だった」
⸻
その時、廊下の向こうから足音。
月城沙耶が現れる。
月城沙耶
彼女もまた光に包まれる。
長い髪が揺れ、華やかな装束へ変わる。
凛とした眼差し。
鳥羽姫
神谷、再び叫ぶ。
「先輩までぇぇぇ!?」
鳥羽姫は周囲を見回し、記憶を取り戻したように目を細めた。
「ここは……妙な夢の国」
⸻
セラと鳥羽姫の視線が交差する。
数秒の沈黙。
次の瞬間。
バゴォォン!!
鳥羽姫の拳がセラの顔面へ炸裂した。
神谷絶叫。
「何でぇぇぇ!?」
セラは壁にめり込みながら言った。
「……理不尽だ」
鳥羽姫は頬を赤くして叫ぶ。
「学園で女に囲まれ、先輩と恋愛騒動までしておいて何が理不尽ですか!」
「記憶がない時の話だ!」
「知りません!」
もう一発。
ドゴォ!
⸻
クロガミは大笑いしていた。
「最高や!」
「これ見たかったんや!」
セラが翼を広げて怒鳴る。
「全部お前の仕業か!」
「せや!」
「このスピンオフ世界も、学園も、事件簿も!」
「暇つぶしや!」
神谷が呆然とする。
「俺の存在は!?」
クロガミは親指を立てた。
「ノリで作った」
「軽いな!」
⸻
扉がゆっくり開く。
その先には、戦火の空。
城壁。
叫び声。
本編の世界。
クロガミが一礼する。
「ほな皆さん」
「次回より、本編へ戻ります」
セラは拳を握る。
鳥羽姫は腕を組む。
神谷は泣いていた。
「俺、消えるの!?」
クロガミは笑う。
「人気あったらまた出すで」
「雑ぅぅぅ!」
⸻
最後にセラが扉へ進む。
鳥羽姫も続く。
振り返らず、ただ一言。
「……騒がしかったが、悪くなかった」
神谷が号泣する。
「凌牙ぁぁぁ!」
扉が閉まる直前、クロガミの声だけが響いた。
「次回、本編再開や!」
暗転。
夕暮れの教室。
誰もいないはずの教壇に、ぴょこんと小さな影が飛び乗った。
チャック
「こんちわー!」
「そして、こんばんわー!」
「ラスト進行役、チャックでーす!」
拍手……は、ない。
「最後まで静かな客席やなぁ……」
⸻
チャックは教室を見回した。
凌牙の席。
神谷の机。
黒板の落書き。
窓際の夕日。
「終わるんやなぁ……」
少しだけしんみりする。
「プリン事件も」
「告白事件も」
「新人進行役に席取られたことも」
「全部ええ思い出や!」
どこがやねん、と誰かの声が聞こえた気がした。
⸻
チャックは急に顔を上げる。
「せやけど皆さん!」
「気になることありますよね!?」
「チャック、本編でもでっまっか?」
自分で言ったあと、自分で緊張する。
「ど、どうなんやろ……」
黒板に文字が浮かぶ。
需要しだいや
チャック絶叫。
「シビアァァァ!!」
⸻
さらに別の文字。
戦場に出したら一秒で踏まれる
「ひどっ!」
会議に出したら空気壊す
「否定できへん!」
せやけど可愛い
チャック、感涙。
「最後に優しいぃぃ!」
⸻
チャックは教壇の端に立ち、深く一礼した。
「スピンオフ世界、ありがとうございました!」
「もし本編で見かけたら……」
「その時は、生き残れるよう応援してな!」
教室の窓が開き、風が吹く。
チャックの体がふわっと浮かぶ。
「ほな皆さん!」
「また会う日まで――」
「こんちわーーーっ!!」
そのまま夕空へ飛んでいった。
黒板には最後に一行だけ残っていた。
たぶんまた出るで




