第五話:
登場人物
―三神凌牙の事件簿 第五話:閉ざされた図書室の手紙―
三神凌牙
本作の主人公。高校生時代の姿。鋭い観察眼と冷静な判断力を持ち、どんな騒動にも巻き込まれながら真相を見抜く。今回は密室めいた恋文事件の仕掛けを暴いた。
神谷拓也
凌牙の友人。事件と青春イベントが大好物の騒がしい男子生徒。今回も最初に騒ぎを持ち込み、最後まで一番盛り上がっていた。
篠原恵
図書室を管理する司書教師。落ち着いた雰囲気の大人で、生徒たちからの信頼も厚い。密室状態の図書室に届いた手紙に困惑していた。
白石真琴
物静かで口数の少ない女子生徒。絵の才能があり、校内でも密かに評価されている。今回の恋文の宛先となった人物。
長瀬修一
本好きで控えめな文学少年。白石の絵に惹かれ、勇気を出して恋文を送った。直接渡せず、返却箱を使う遠回しな方法を選んだ。
文芸部部長
直接は登場しないが、青インクの万年筆の持ち主。事件解決の手がかりとなった人物。
クロガミ
今回も姿は見せず、最後に黒板へ意味深な一言だけを残した観察者。なぜか恋愛模様まで楽しんでいる。
ブックル
後書きで現れた新たな進行役魔物。しおりのような姿をした知的キャラ気取りの存在。
チャック
後書き進行役の座を脅かされ続ける常連魔物。新人登場のたびに動揺している。
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人物関係
三神凌牙 × 神谷拓也
冷静な探偵役と騒がしい助手役。今回も青春騒動に巻き込まれた。
白石真琴 × 長瀬修一
互いに気づかぬまま見つめ合っていた二人。事件をきっかけに距離が縮まった。
篠原恵 × 生徒たち
静かな図書室を守る大人と、そこへ青春を持ち込む生徒たち。
ブックル × チャック
後書き進行役の座を巡るライバル関係。
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この回の位置づけ
第五話は、推理要素よりも青春とすれ違いが主題の回。
三神凌牙 が事件を解くだけでなく、他人の気持ちの交差点を見届ける立場として描かれたエピソード。
三神凌牙の事件簿
第五話:閉ざされた図書室の手紙
雨の朝だった。
校舎の窓を叩く水滴。
薄暗い廊下。
いつもより静かな教室。
三神凌牙 は席についたまま、机に頬杖をついていた。
「眠い」
そこへ勢いよく扉が開く。
神谷拓也 が叫んだ。
「凌牙ァァァ!」
「またか」
「今回はロマンだ!」
「帰れ」
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神谷は机を叩いた。
「図書室で怪事件!」
「誰も入れない閉ざされた部屋に、恋文が置かれてた!」
凌牙は目を閉じた。
「朝から情報量が多い」
「しかも差出人不明!」
「なおさら知らん」
「聞けよ!」
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昼休み。
二人は図書室へ向かった。
そこには司書教師 篠原恵 と、生徒たちの人だかり。
図書室の扉には鍵がかかっている。
篠原が困った顔で言う。
「朝来たら、扉の下から封筒だけ出ていたんです」
「でも鍵は昨夜から私が持っていました」
「中には誰も入れないはずなのに……」
神谷が震える。
「密室ラブレター!」
凌牙がため息をつく。
「ただの投函だろ」
「夢がない!」
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封筒の宛名にはこう書かれていた。
二年B組 白石真琴さんへ
教室で静かに絵を描く少女。
白石真琴 が赤くなる。
「……私?」
中を見ると、一枚の便箋。
あなたの描く絵が好きです
放課後、旧校舎裏で待っています
神谷が叫ぶ。
「青春だァァ!」
白石は固まっている。
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だが凌牙は封筒を見る。
「違和感がある」
「またそれか」
「この封筒、濡れていない」
外は朝から雨。
もし登校時に誰かが扉の下へ入れたなら、多少は濡れるはずだった。
「つまり、もっと早い時間に置かれた」
篠原が驚く。
「昨夜……?」
「たぶん」
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図書室の鍵を開けてもらい、中へ入る。
静かな本棚。
窓は閉まり、荒らされた様子もない。
凌牙は床を見る。
入口付近に細かな紙屑。
そして、貸出返却箱の横にインクのしみ。
「神谷」
「何?」
「この学校で青インクの万年筆使ってる奴、知ってるか」
「え?」
「一人だけいる」
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放課後。
旧校舎裏。
白石は不安そうに立っていた。
神谷は物陰で息を潜める。
「来るぞ……!」
現れたのは、眼鏡をかけた文学少年。
長瀬修一
彼は震えながら頭を下げた。
「ぼ、僕です!」
「ずっと前から、絵を見ていました!」
白石は目を丸くする。
神谷が小声で叫ぶ。
「本当に青春だ!」
凌牙は無言だった。
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だが凌牙は前へ出る。
「一つ聞く」
長瀬が固まる。
「手紙、どうやって図書室に入れた」
「え……」
「鍵は司書しか持っていない」
「窓も閉まっていた」
「つまり中へ入って置いたわけじゃない」
長瀬は観念したように肩を落とした。
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「……返却箱です」
図書室入口横の本返却口。
外から本を入れられる仕組みになっている。
「封筒を本に挟んで入れて……朝、箱を開けた先生が気づくようにしました」
神谷が感心する。
「無駄に頭いい!」
長瀬は顔を赤くした。
「普通に渡す勇気がなくて……」
凌牙は便箋を見る。
「青インク。文芸部部長から借りた万年筆だな」
「……はい」
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白石はしばらく黙っていた。
やがて小さく口を開く。
「……絵、見てくれてたんだ」
長瀬が慌てる。
「ご、ごめん!」
「勝手に!」
白石は首を振る。
「……嬉しい」
神谷が鼻を押さえる。
「甘酸っぱすぎて死ぬ」
凌牙は帰ろうとした。
「巻き込むな」
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その時、白石が長瀬へスケッチブックを差し出した。
中には、図書室で本を読む長瀬の横顔が描かれていた。
長瀬が固まる。
「え……」
「……私も、見てた」
神谷、崩れ落ちる。
「両想いかよ!」
凌牙は空を見た。
「時間返せ」
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帰り道。
神谷がしみじみ言う。
「いい回だったな」
「疲れただけだ」
「お前も恋しろよ」
「面倒だ」
「一生独りだぞ」
凌牙は少し考えた。
「それは静かでいい」
「終わってる!」
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黒板には、いつの間にか文字があった。
密室より恋の方が難事件やな
凌牙は見なかったことにした。
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後書き
夕暮れの図書室。
本棚の上に、しおりの姿をした小さな魔物が立っていた。
ブックル
「こんばんはー! 今回の進行役ブックルです!」
教壇の下から チャック の声。
「また新人!?」
ブックルは胸を張る。
「恋愛回なので知的キャラ採用です!」
チャックが泣く。
「基準が分からん!」
凌牙は扉を閉めながら呟いた。
「後書き世界の方が事件だな」




