スピンオフ:
登場人物
―三神凌牙の事件簿 第一話:犯人は君だ―
三神凌牙
本作の主人公。異世界でセラとなる前の姿。高校二年生。目立たず静かに過ごしているが、人の嘘や違和感を鋭く見抜く観察眼を持つ。今回、生徒会費盗難事件の真相を暴いた。
神谷拓也
凌牙のクラスメイト。騒がしく感情表現が豊かなムードメーカー。事件発覚時に真っ先に凌牙を呼びに来た。口は軽いが根は熱く、仲間想い。
水野梨沙
責任感が強く成績優秀な学級委員。誰より真面目に見えたため疑われにくかったが、弟の入院費に追い詰められ、今回の事件を起こしてしまった。涙ながらに真実を語る。
大河内隼人
サッカー部所属の快活な男子生徒。短気で言葉は荒いが情に厚い。事件後、文句を言いながらも募金に一番多く協力した。
白石真琴
口数の少ない少女。普段は静かだが優しさを持つ人物。事件後、水野へハンカチを差し出し、募金箱には手描きの絵を添えた。
水野の弟
直接登場はしないが、水野梨沙が罪を犯すきっかけとなった存在。治療費が足りず、姉を追い詰めていた。
クロガミ
本編の黒幕。今回は姿を見せず、黒板の文字だけで存在を示した。凌牙の才能に早くから興味を持っていた様子。
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人物関係
三神凌牙 × 神谷拓也
騒がしい友人と冷静な観察者。正反対だが付き合いは悪くない。
三神凌牙 × 水野梨沙
犯人を見抜いた探偵役と、追い詰められた犯人。しかし凌牙は彼女を断罪せず、救う道を選んだ。
クラスメイト達 × 水野梨沙
責めるのではなく助け合う道を選んだ、未熟ながら温かい仲間たち。
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この回の位置づけ
異世界転生前の 三神凌牙 が、
すでに“人の本質を見抜く力”を持っていたことを描く前日譚。
後の主人公セラへ繋がる、静かな原点の物語。
スピンオフ
三神凌牙の事件簿
第一話:犯人は君だ
雨だった。
灰色の空。
駅前の雑踏。
傘の群れ。
濡れたアスファルトに映るネオン。
三神凌牙 は、コンビニの軒下で缶コーヒーを握っていた。
高校二年。
特別優秀でもなく、人気者でもなく、むしろ目立たぬよう生きてきた少年。
だが彼には、一つだけ奇妙な癖があった。
人の違和感に、気づいてしまうこと。
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「おい、凌牙!」
振り向くと、クラスメイトの 神谷拓也 が走ってきた。
息を切らしている。
「大変だ!」
「また告白でもされたか」
「されるわけねぇだろ!」
「じゃあ何だ」
「生徒会費、盗まれた!」
凌牙は缶コーヒーを一口飲んだ。
「知らん」
「知らんで済むか!」
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話を聞くとこうだった。
文化祭準備のため集めた現金三万円が、教室の金庫代わりの引き出しから消えた。
放課後、教室にいたのは五人。
* 神谷拓也
* 学級委員の 水野梨沙
* サッカー部の 大河内隼人
* 無口な美術部員 白石真琴
* そして三神凌牙
「つまり俺も容疑者か」
「形式上はな」
「帰る」
「待て!」
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教室へ戻ると、空気は重かった。
水野が腕を組んでいる。
「誰かが取ったのは間違いありません」
大河内は机を蹴る。
「マジで最悪だろ」
白石は窓際で黙っていた。
凌牙は教室を見回す。
机。椅子。黒板。濡れた窓。
そして、床に落ちた小さな紙片。
彼はそれを拾った。
レシートだった。
駅前コンビニ。時刻は十七時十二分。
購入品。
* ホットスナック
* 缶コーヒー
* 絆創膏
凌牙は眉を上げた。
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「質問いいか」
全員が彼を見る。
「金がなくなったのは何時だ」
水野が答える。
「十七時頃です」
「その時間、全員教室にいたか?」
神谷が頷く。
「俺はいた」
大河内も言う。
「俺も」
白石は小さく頷いた。
水野も同じく。
凌牙はレシートを揺らした。
「じゃあこれは誰のだ」
神谷が首をかしげる。
「何それ」
「十七時十二分、駅前コンビニのレシート」
「ここから駅前まで往復十分」
教室が静まる。
「つまり誰か一人、“教室にいた”と言いながら外へ出てる」
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水野が険しい顔になる。
「疑っているんですか」
「全員だ」
凌牙は机の上にレシートを置いた。
「でも犯人は一人だけ」
大河内が舌打ちする。
「証拠あんのかよ」
凌牙は床を見る。
そこには泥の跡があった。
雨の日の靴跡。
教室入口から、水野の机まで続いている。
そしてその泥には、細かい赤い粉が混じっていた。
凌牙は窓の外を見る。
校庭脇の工事現場。
赤土。
「工事現場側から回ってきたな」
神谷が目を見開く。
「そんなの分かるのか」
「分かる」
凌牙はゆっくり一人を見た。
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水野梨沙
彼女の右手には、新しい絆創膏。
「君だ」
教室が凍る。
水野の顔色が変わった。
「……何を」
「コンビニで絆創膏を買った」
「工事現場のフェンスを越える時、手を切った」
「外へ回り込み、教室の窓から戻った」
「真面目な委員長が最後に疑われにくいと読んだ」
大河内が叫ぶ。
「マジかよ!」
水野は唇を震わせた。
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「……違う」
「違わない」
凌牙の声は静かだった。
「本当に盗むつもりなら、レシートなんて落とさない」
「慣れてない」
「初めてだ」
水野の目から涙が落ちた。
「……弟の、入院費が」
誰も言葉を失った。
「母も仕事を増やして……でも足りなくて……」
神谷が拳を握る。
大河内は目を逸らす。
白石はそっとハンカチを差し出した。
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凌牙はため息をついた。
「金はどこだ」
水野は鞄から封筒を出した。
「……まだ使ってません」
凌牙はそれを神谷へ渡す。
「戻せ」
「お、おう」
水野は泣き崩れた。
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しばらく沈黙。
やがて神谷がぽつりと言う。
「お前さ」
「何でそこまで分かるんだ」
凌牙は窓の外の雨を見る。
「分かるんじゃない」
「皆、見えてないだけだ」
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翌日。
水野の件は教師に知られぬまま、クラス全員で病院費を集めることになった。
文化祭費は別に再徴収。
大河内は文句を言いながら一番多く出した。
白石は募金箱に絵を描いた。
神谷は騒ぎ続けた。
凌牙は何もしなかった。
ただ、窓際で眠そうにしていた。
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その時。
教室の後ろの黒板に、誰も書いていない文字が浮かんでいた。
面白い才能やな
凌牙だけが気づく。
振り向いた時には消えていた。
彼は眉をひそめる。
「……気のせいか」
遠い未来。
その才能を、ある黒幕が見ていたことも知らずに。
今回は本編前スピンオフとして、前世の 三神凌牙 による学園ミステリー回でした。
異世界で剣を振るう前から、凌牙は“違和感を見る力”を持っていた――という話です。
次回予告
第二話:消えた答案用紙
テスト前日に消える数学の答案。
疑う教師、笑う生徒。
そして黒板にまた現れる謎の文字。




