第三十六話:
―タクマの声―
白き王都ルクシア。
崩れた石壁の上で、一人の少年が風を受けていた。
名は――タクマ
誰もいない空を見上げ、ぽつりと呟く。
「……やっと、ここまで来たか」
その声は若い。
だが、その奥には年齢に似合わぬ重さがあった。
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「未来じゃ、みんな笑ってなかった」
「空は割れて、海は燃えて、国は崩れた」
「英雄は死に、王は狂い、仲間は仲間を疑った」
タクマは腰の双槍に手を置く。
「その始まりが、この門だった」
白都の門。
世界を書き換える力を持つ禁断の遺産。
それが開いた日、時代は壊れた。
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「親父は最後まで笑ってたな」
苦笑する。
マサユキ
「大丈夫だ、なんとかなるって」
「何一つ、なんとかならなかったくせに」
だがその言葉には、憎しみではなく愛情が滲んでいた。
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「母上は最後まで怒ってた」
ミレナ
「ちゃんと食べろ、寝ろ、無茶するな」
「世界滅亡の前日まで説教してた」
タクマは少し笑う。
「……強かったよ、あの人は」
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そしてもう一人。
「師匠」
その名を口にした瞬間、表情が変わる。
セラ
「誰より不器用で、誰より背負って、誰より先に立つ男」
「何度倒れても立ち上がる姿を見て、俺は槍を持った」
「だから今度は、俺が先に立つ」
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風が吹く。
白都の門が低く唸る。
時間が軋む音。
未来はまだ決まっていない。
タクマは静かに目を閉じた。
「頼む」
「今度こそ、生きてくれ」
「みんな」
そして少年は振り返る。
過去へ。
まだ壊れていない世界へ。
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その顔に、若き戦士の覚悟が宿る。
これは未来から来た少年の物語ではない。
大切な者たちを失った少年が、
もう一度、家族を取り戻そうとする物語である。
第三十六章:白都の門
白き王都ルクシア。
かつて理想国家ヴァイゼル皇国の栄華を誇った都は、今や白い瓦礫と沈黙だけを残していた。
崩れた尖塔。
割れた大理石の道。
誰もいない広場。
だが都の中心には、なお輝きを失わぬ巨大な門がそびえている。
天へ届くほどの純白の門。
古代文字が刻まれ、淡い光が脈打っていた。
白都の門
連合軍は、その威容を前に足を止める。
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アテーナー が前へ出た。
「間違いない」
「クロガミはここへ来る」
セラは門を見上げる。
「壊せば済む話じゃないのか」
「触れれば反動で都ごと吹き飛ぶ」
「面倒だな」
「お前ほどではない」
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その時。
広場の奥、崩れた石柱の上に一人の少年が立っていた。
黒い外套。鋭い目。
背には二本の短槍。
まだ若い。だが異様な覇気がある。
「遅かったな」
空牙が斧を構える。
「誰だ坊主!」
少年は鼻で笑った。
「坊主じゃねぇ」
「タクマ だ」
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その名に、後方から声が上がる。
「えっ!?」
振り向けば、そこにいたのは――
マサユキ
ミレナ
二人は旅装のまま、ぽかんとしていた。
マサユキが指差す。
「いや待て待て待て!」
「なんで俺に似てる!?」
ミレナも目を細める。
「目元は少し似てる……」
タクマは面倒そうに頭をかいた。
「騒ぐな、親父」
広場が凍った。
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マサユキが転んだ。
「お、親父ぃぃ!?」
ミレナが耳まで赤くなる。
「だ、誰が母ですか!」
タクマはため息をつく。
「未来から来た」
全員沈黙。
空牙だけ笑った。
「よし分からん!」
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アテーナーが真顔になる。
「時間跳躍者か……」
タクマはうなずく。
「この門が開いた未来で、世界は一度終わった」
「だから止めに来た」
セラの目が鋭くなる。
「クロガミに使われてる可能性は」
「疑うなら斬れ」
タクマは胸を張る。
「でもその前に聞け、親父母上」
マサユキとミレナが同時に叫ぶ。
「母上言うな!」
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その時、空から黒羽が舞った。
風が巻く。
広場の上空から二つの影が降り立つ。
一人は威厳ある黒翼の装束。
鳥羽姫
もう一人は白銀の羽衣に身を包んだ美女。
美兎姫
空牙が口笛を吹く。
「華やかになったな」
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鳥羽姫はセラへ歩み寄る。
「勝手に先行するとは何事です」
「会議してただけだ」
「未来の子まで増えているではありませんか」
「俺の子じゃない」
即答だった。
美兎姫はくすりと笑う。
「でも、セラ殿には子がいても不思議ではありませんね」
鳥羽姫の眉がぴくりと動く。
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その時、タクマがセラを見る。
じっと見て、そして一礼した。
「初めまして」
「未来で世話になる人だ」
「……何?」
タクマは真顔で言う。
「俺の剣の師匠は、あんただ」
セラが固まる。
マサユキが叫ぶ。
「なんで俺じゃない!」
タクマは即答した。
「弱いから」
「辛辣!」
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ミレナは腕を組む。
「では私は?」
「怒ると一番怖い人」
「……正解です」
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鳥羽姫はセラを見た。
「未来で弟子を取る余裕があるのですね」
「知らん」
「随分と親しげです」
「初対面だ」
「そうですか」
目が笑っていない。
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その瞬間。
白都の門が轟音を立てた。
光が走る。
門の中央に黒い亀裂が入る。
そこから、聞き覚えのある笑い声。
「集まったな」
空間の裂け目から現れた黒衣の影。
クロガミ
「過去、現在、未来」
「駒は揃った」
焔牙が前へ出る。
焔牙
黒炎を纏い、セラの隣へ立つ。
「父さん――じゃなかった、セラ」
「今日は右腕として暴れる」
セラは剣を抜いた。
「好きにしろ」
焔牙が笑う。
「任せろ」
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白き王都ルクシア。
門は開き、時は乱れ始める。
過去と未来、血と絆、王と預言者。
すべてが交わる決戦が、今始まる。
登場人物
タクマ
本章の中心人物。白都の門が開いた破滅の未来から現代へ来た少年。若いながらも冷静で実戦経験が豊富。口は少し悪いが情に厚く、大切な人々を救うため過去へ戻ってきた。双槍を武器とし、セラを「師匠」と呼ぶ。
マサユキ
飄々とした性格の元教祖。現在は冒険者として活動している。未来ではタクマの父とされる存在。明るく前向きだが、肝心なところで雑な面もある。タクマからは愛情半分、呆れ半分で見られている。
ミレナ
気丈で面倒見の良い女性。未来ではタクマの母とされる存在。怒ると怖いが、仲間思いで情が深い。タクマにとっては厳しくも温かな母親だった。
セラ
本編主人公。前世は現代日本の三神凌牙。過酷な人生を経て異世界へ転生した。未来ではタクマの槍の師匠となる人物。寡黙で不器用だが、誰より責任感が強く、人を導く器を持つ。
鳥羽姫
黒翼の国を治める姫君。知略と威厳を備えた名君。セラへの信頼と想いは深く、時に嫉妬心ものぞかせる。連合軍の重要人物の一人。
美兎姫
白翼の王家に連なる姫。上品で穏やかな物腰だが、芯は強い。鳥羽姫の理解者であり、時にからかう余裕も見せる。
焔牙
冥王ハデスの血を引く少年。強大な黒炎の力を持つ。セラを父のように慕い、現在は右腕として共に戦う存在。感情豊かで真っ直ぐな性格。
クロガミ
歴史の裏で暗躍する黒幕。未来を読むだけでなく、未来そのものを歪める存在。白都の門を利用し、時代の崩壊を企む。
アテーナー
神々の中でも冷静かつ理知的な女神。世界の危機を察し、連合軍結成に動いた。セラやタクマの運命にも深く関わる。
白都の門
白き王都ルクシアの中心に存在する巨大な門。時空や歴史へ干渉する危険な力を秘めており、未来崩壊の原因とされる。
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人物関係
タクマ × マサユキ × ミレナ
未来で家族とされる関係。賑やかで騒がしいが、強い絆で結ばれている。
タクマ × セラ
弟子と師匠。未来で槍を学んだ深い信頼関係。
鳥羽姫 × セラ
戦乱の中で支え合う特別な関係。
連合軍 × クロガミ
未来と世界の存亡を懸けた対立構図。
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この章の位置づけ
未来から来た少年タクマの登場により、
物語は「現在の戦い」から「未来を救う戦い」へと変化した章。
家族、師弟、運命。
それぞれの絆が明らかになり始める重要回。




