第十八話:
この章の真相
* かつてのセラの右腕戦士 ガルド が登場
* カイオスは軍列に加わり、自ら戦う意志を示す
* カイオスの正体は、セラと 烏羽姫 の実子だった
* 本来カイオスは鴉天狗の王族の子だったが、ポセイドン軍に奪われた
* セラは名実ともにカイオスの父となった
第十八章:父殺しの黒翼
―血より先に、守ると決めた―
黒翼の都、総戦備令。
城壁の上では無数の鴉天狗兵が武具を整え、
空路では飛行隊が旋回し、
地上では避難民の誘導が進んでいた。
海を割って進む神の怒り。
ポセイドン は本気で都を滅ぼしに来る。
広場の中央。
セラは剣を研いでいた。
その横でカイオスは小さな鎧を着せられ、落ち着かない様子で立っている。
「苦しい……」
「我慢しろ」
「父さんも昔こうだったの?」
「いや、もっと酷かった」
小鴉 が吹き出す。
「親子漫才してる場合じゃないよ」
そこへ、兵たちがざわめいた。
門の向こうから、一人の巨漢が現れる。
黒鉄の大鎧。
背に巨大な斧。
右頬に古傷。
その男はセラを見るなり、片膝をついた。
「……ようやく見つけた」
セラの目が見開く。
「お前は……」
男は笑った。
「忘れたとは言わせねぇぞ、隊長」
ガルド
かつて神殿時代、セラに仕え、戦場で右腕と呼ばれた戦士だった。
「生きてたのか」
「しぶとさだけが取り柄でな」
トリートーンが腕を組む。
「兄上にこんな部下がいたとは」
「昔は人望があったんだよ」
小鴉が茶化す。
「今もある」
ガルドは真顔で言った。
「ただ本人が信じてねぇだけだ」
セラは言葉に詰まる。
その時、カイオスが前へ出た。
「僕も戦う」
広場が静まる。
「父さんの隣で」
セラは即座に否定する。
「駄目だ」
「なんで!」
「お前は子どもだ」
カイオスは唇を噛む。
「でも僕は逃げたくない!」
「守られるだけは嫌だ!」
その声に、ガルドがカイオスをじっと見る。
そして、低く呟いた。
「……やっぱり似てる」
「何がだ」
セラが睨む。
ガルドはゆっくり口を開いた。
「この子は、お前の実子だ」
空気が凍った。
「……は?」
カイオスも固まる。
トリートーンが咳き込む。
小鴉は屋根から落ちた。
「待て待て待て待て!」
セラが立ち上がる。
「何を言ってる!」
ガルドは真剣だった。
「昔、お前が神殿を追放される前」
「ある夜、密かに会っていた女がいただろう」
セラの記憶が揺れる。
黒い羽。
夜風。
優しい笑顔。
広場の上段から声がした。
「……その続きを私が話そう」
黒翼を広げ、烏羽姫 が降り立つ。
その顔は、いつもの気高さとは違っていた。
少しだけ、照れている。
「母上?」
小鴉が目を丸くする。
烏羽姫はセラを真っ直ぐ見る。
「当時、私は若く……諸国を見て回っていた」
「海神殿で傷だらけのお前に出会った」
「愚かにも、恋をした」
セラの顔が固まる。
「……覚えてない」
「知っている。お前は鈍い」
兵たちがざわつく。
「だが別れの後、私は命を授かった」
烏羽姫はカイオスを見る。
「その子は、本来なら私が育てるはずだった」
「だがポセイドン軍に奪われ、改造され、別の名を与えられた」
カイオスの瞳が震える。
「じゃあ……僕……」
「お前は空の子であり、海に奪われた子」
「そして」
烏羽姫はセラを見る。
「お前たち二人の子だ」
沈黙。
セラはしばらく何も言えなかった。
やがて、ゆっくりカイオスの前にしゃがむ。
「……本当に俺の息子か」
カイオスは涙を溜めて頷く。
「ずっと……そうだったらいいって思ってた」
セラは頭を抱えた。
「願望じゃなく事実だったのか……」
小鴉が笑い転げる。
「父さん確定!」
トリートーンは肩をすくめる。
「兄上、先を越されていたのですね」
「黙れ」
セラは立ち上がり、カイオスの肩に手を置く。
「戦うなら、俺の後ろに立て」
「うん!」
「勝手に前へ出るな」
「うん!」
「怪我したら泣く」
「父さんが?」
「……俺がだ」
カイオスは泣き笑いした。
その時、空が裂ける。
海そのものが槍となり、都へ降り注ぐ。
ポセイドンの本隊到着だった。
セラは剣を抜く。
「行くぞ」
父となった男。
母と再会した子。
そして空の軍勢。
父殺しの黒翼が、今舞い上がる。
登場人物
セラ
本作の主人公。
神々の思惑によって生まれた特異な存在であり、前世は三神凌牙。
孤独に慣れ、誰にも必要とされない人生を歩んできたが、今は仲間と家族を守るために剣を取る。
第十八章では、カイオスが実の息子である真実を知り、父としての覚悟を固める。
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カイオス
これまでリナの血を元に造られた少年とされていた存在。
しかし真実は、セラと 烏羽姫 の間に生まれ、幼い頃にポセイドン軍へ奪われた実子。
恐怖の中で育ちながらも、優しさを失わなかった。
第十八章では自ら戦場に立つ意志を示す。
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烏羽姫
黒翼の都を統べる鴉天狗族の姫。
誇り高く勇敢な統率者。
かつて若き日にセラと出会い、密かに想いを交わしていた。
第十八章でカイオスの母であることが明かされる。
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ガルド
神殿時代、セラの右腕と呼ばれた豪勇の戦士。
巨体と怪力を誇るが、義理堅く情に厚い。
長らく消息不明だったが第十八章で再登場し、カイオス出生の真実を告げる重要人物となる。
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トリートーン
ポセイドンの実子であり、セラの弟。
兄への嫉妬と父への忠誠の狭間で苦しんできたが、今はセラ側についた。
第十八章では複雑な心境ながら兄と甥を見守る立場になる。
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ポセイドン
海の王。
支配と血統を重んじる冷酷な神。
カイオスを奪い、兵器として育てた張本人。
第十八章終盤、ついに本隊を率いて黒翼の都へ迫る。
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小鴉
機転が利き、口達者な鴉天狗の少女。
明るく場を和ませるムードメーカー。
第十八章では衝撃の真実に誰より大騒ぎしつつ、都の戦備にも奔走する。
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アルテミス
月と狩猟を司る女神。
セラを気に掛け続ける存在。
この章では直接姿を見せないが、迫る最終決戦での参戦が示唆される。




