第95話 宣戦布告①
親方! 空から女の子が!
そんな何処か有名なアニメのワンシーンみたいなセリフと同じ現象に巻き込まれるなんて、今まで考えた事もなかった。
ただ、有名なアニメのワンシーンと大きな違いがあるとすればそれは、空から降ってきた女の子が、僕のヤンデレ彼女であるという事だ。
「ねぇ正樹さん。 なんで私から離れちゃったの? 浮気なの? っていうかなんですぐに探しに来てくれなかったの? 不倫なの? いくら私が貴方の事が好きで空のように広い心を持っていても許容できない事だってあるんだからね?」
「待って由紀ちゃんッ!! 誤解ッ! っていうか勘違いッ!! これでもすぐに探しにいったんだよ!!」
「うそ・・だって、正樹さんから知らない女の匂いがするもの」
「~~ッ!!」
先ほど、大人の姿になる前のピースにキスされた記憶が鮮明に蘇る。
さらには襲い掛かってきたあの痩せこけた女性に無理矢理キスされた事さえも脳裏に浮かび、正樹は動揺を表にだしてしまった。
そんな正樹の変化に気付かない筈のない由紀は、正樹に抱きつきながらも首をカクンッと横に落として長髪がユラユラと揺れる。
「その焦った表情は何? まさか・・本当に浮気をしたんじゃ・・・」
「ゆ、由紀ちゃん?? 待ってッ!! く、首が、しまって・・・ッ!!」
「他の女に盗られるくらいなら、いっその事ここで・・!!」
「ちょーーッとまってッ! いっその事なに? なんで僕の首を少しずつ曲げてくの?! もう無理だから!! それ以上、首曲がらにゃいからッ!!」
徐々に絞める首の力を強くする由紀に、正樹は何度もギブアップのタップをするが、由紀が力を緩める様子はない。
「ちょっと!! 誰か助けてッ!!」
どうする事も出来ず、このままでは彼女に絞殺されるバッドエンドが見えてきたので、目の前にいるアンナ達に助けを求めるが・・・。
アンナは絞め殺そうとする由紀に怯えオロオロとしながら落ち込んだ猫のようになり、隣で哀れんだ表情で見ているグレンはそのまま手を合わせて合掌を始める始末だ。
まずい・・本当にまずいッ!!
このままでは恋人の殺されるバッドエンドになって・・・ッ!!
「あんじょう、由紀さんッ!」
女神の囁きが、僕の命を首の皮一枚繋げてくれた。
「・・・だれ? アナタは・・・」
「私はこの世界の現人神。 名をピースと申します」
「・・・・・・ピース、ちゃん?」
神々しい大人の姿をした女性が名乗った名前を聞いて、完全に曲げに決めようとしていた由紀の力がピタリと止まる。
「はい。 色々とありましてこのような姿になりましたが、私は貴女達に拾われお世話になったピースです!」
「えーと・・つまりピースちゃんは、本当は、大人?」
「え? ま、まぁそうですね。 人間の年齢的にまだ幼女ですが、姿は大人と言ってもいいでしょう」
「・・・そう」
完全に首を曲げ切ろうとしていた正樹の首から腕を放した由紀は、その場でゆっくりと立ち上がり
「じゃあ、敵ね」
「「「 え? 」」」
堂々とピースに向かって宣戦布告をしたのだった。




