第96話 宣戦布告②
「待ってください奥様ッ!」
今も国の修復と人間達の怪我の治療や蘇生に全力を出しているピースに対して、本気の殺意を向ける由紀に、先ほどまでオドオドとしていたアンナが由紀の間に割って入る。
「どいてアンちゃん。 その女、殺せない」
「待ってください奥様ッ! この人・・ピースちゃんは敵ではありません!」
「でもそいつは今、自分の事、現人神だって言ったわ」
「そ、そうです! しかし神様ですよ?! 現に今だって人間達の為に力を使って――」
「しかも女」
「――助けようとしてえぇぇぇ・・・え?」
由紀の最後の溢した言葉に、アンナは思わず言葉を止める。
「今、なんて?」
「そいつは現人神」
「いえ、その次です」
「しかも女」
「・・・だから?」
「殺すのよ」
「ちょっと待ってくださぁぁぁああいッ!!」
思わぬ理不尽な殺害予告に、アンナは両手を広げてばたつかせる。
「そ、そんな理由で殺そうとしないでください! 別にいいじゃないですか女の子でも! こんなに可愛いのにッ!!」
「そう。 それがダメなの」
「え? それがダメ??」
つまり、由紀の怒りの理由はこうだ。
ピースが実は大人の女性。
可愛くてスタイルが良く。
さらには神様のそのもの。
イコール
正樹を誑かす女。
【 殺害対象 】確定演出、決定!
「だから退いてねアンちゃん。 大丈夫。 国の人達の事は忘れえる事にしましょう」
完全に生気を失った真っ黒な瞳は、由紀が本気でピースに殺意を向けている事だと理解する。
「正樹様ぁア嗚呼ああッ!! 奥様を、由紀様を早く止めてくださぁああああいッ!!」
完全に迫力に負けて、なんとか逃げ出さずにいるアンナは、小さな抵抗で兎に角、由紀をピースに近づかせまいと両手を広げるだけで精一杯の様子だ。
「おいおい、ちょっと落ち着きなよお前さん」
そんな状況に痺れを切らせたグレンが間に入って由紀を止めようとする。
「いくらお前さんが恋人の事が好きだからって、そんな理由で人に恨み言をしようなんてのはなぁ」
「うるさい。 加齢臭くさいから離れて」
「ぐはぁッ?!」
グレンは由紀の一言により、甚大な精神的ショックを受け、血反吐を吐きながら倒れてしまった。
そして状況は最悪な事となる。
半泣きで怯えた猫のように震えるアンナ。
加齢臭と言われ血反吐を吐き倒れたグレン。
寝違えたような首の痛みに起き上がれない正樹。
そして、今もピースを殺そうと体から黒いオーラのような物を放出させ始めた由紀。
もう、この状況を打破できる術がなくなった。
そう思えた時だ。
「取引をしましょう」
ピースが落ち着いた様子で由紀にそう言った。
「・・・取引?」
その言葉には想像以上の魅力があったのか、由紀は溢れ出そうになっていた黒いオーラがピタリと止む。
「そうです。 貴女がこのまま私の協力をして頂けるなら、貴女の願いを何でも一つ叶えて差し上げます」
その取引に、生気を失っていた由紀の瞳に光が戻った。
「なんでも、一つ?」
「はい。 私は現人神。 取引に応じるなら貴女の願いを叶えましょう」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
硬直して動かなくなってしまった由紀は、数秒後ゆっくりと首を縦に動かした。
「分かった。 君の取引に応じてあげるわ」
「由紀ちゃん!」
なんとか痛みが引いてきた首を擦りながら、落ち着きを取り戻した由紀を入れて、ようやく本題に入る事が出来る。
そう。
今はすぐにでも世界が滅亡するかもしれない状況であると言うに対しての対策。
「それでは、メンバーは揃いましたね」
由紀、グレン、そして正樹。
この三人による世界の救済が始まろうとしていた。
「さぁ、運命への宣戦布告を致しましょう!」




