第83話 謎の男性
黒く輝く光は痩せこけた女性を包む込み建物の天井を貫いた黒い塔柱を創り上げた。
それは空さえも貫き天へと繋がる一本の柱。
夜の暗闇でさえハッキリと視認できる塔柱は世界中の人々が見上げた。
「なんだ・・これッ!!」
黒い柱から感じ取れる圧は強風を呼び寄せ膝をついていないと立っていられない威力が正樹に襲い掛かる。
「・・・ッ」
「由紀ちゃん?!」
一方、由紀は強風など微塵も感じ取れていないのか黒いオーラを鞭のように変形させたものを数本発動させると黒い塔柱に向けて攻撃を仕掛けた。
しかし黒いオーラが塔柱に当たろうとした瞬間、すべて簡単に弾かれてしまった。
「あァ駄目ダメぇ。 今の状態じゃァどんな攻撃もワタシには通用しないわよォ? 今のワタシはギフトでどんな攻撃も通用しないスキルと与えられているかラぁ!」
「なに?」
痩せこけた女性は塔柱を指で押し下げて目元だけを塔柱から見せた。
「フフ・・ウふふフふフふふフフッ! いいわァ、いいワよその顔ォ。 理解できないわよネぇ。 訳が分からないわよねェッ! でも安心してネっ! その感情もッ! その常識も! すべて・・」
すべて全てスベテすべてすべて全てスベテすべてすべて全すべて全てスベテすべててスベテすべて
すべて全てスベテすべてすべて全てスベテすべてすべて全てスベテすべてすべて全てスベテすべてすべて全てスベテすべてすべて全てスベテすべてすべて全てスベテすべてすべて全てスベテすべてすべて全てスベテすべてッ?!?!
「ワタシが奪ってあげルぅ!」
痩せこけた女性の目はすでに焦点が合っておらず誰が見ても普通の状態ではない。
だが女性から感じ取れる強力な圧は全身の皮膚が痺れるほど押し付けられる感覚が襲い、強風のせいでまともに立つ事さえままならない。
「・・・ないで」
しかし、そんな中で由紀だけは痩せこけた女性を睨みつけて平然と立っていた。
「エぇ~?? なんですかァ~???」
「・・ふざけないで、って言ったのよ」
「なにガぁ?」
女性の挑発的なセリフに由紀は顔を地面に向けてゆっくりと足を踏み出す。
「誰から、何を奪うって?」
「それはもちろンっ! ダーリンから色々な物をッ!」
常識を奪いましょう
知識を奪いましょう
夢を奪いましょう
思い出を奪いましょう
過去を奪いましょう
未来を奪いましょう
「あァ~~~~、足りないィ。 奪いたい、ダーリンのすべてを奪いたイっ!!」
痩せこけた女性はとどまらなくなった目の焦点を一瞬だけ止めて正樹を見て、なんとなく目を細めて呟いた。
「それを手に入れたらワタシは、今度こそ幸せになれる」
そして、遂に女性は塔柱から腕を伸ばして何かを仕掛けようと動いた。
広げた手の先は間違いなく正樹を補足しており由紀はそれを察して正樹を守ろうと女性に向けて再び攻撃を仕掛けた。
今度は数本の鞭ではなく数百本の黒い鞭を発動させて四方八方すべてから攻撃を与えられるように繰り出した。
「はァ・・・だかラぁ、無駄だって言ってるじゃァ―――」
女性の神の権限で由紀の攻撃はまったく通用しない事はつい先ほど立証されたばかりだ。
どんな攻撃も通用しないスキル。
そんなチートスキルであれば確かに彼女を倒すどころか傷一つ与える事は不可能だろう。
しかし
そんな女性にとっての常識は呆気なく破られた。
「・・・・・・ハっ?」
「!? 由紀ちゃんの攻撃がッ!?」
ほんの少し、結果的に言えば成功とも言えない現実ではあるが、由紀の数百本の鞭の内のどれかが女性の目の下を薄く引っ搔いた。
女性の皮膚からはゆっくりと頬を辿って血が流れる。
その現実を受け入れられないのか、女性は立ち尽くして呆ける。
「チャンスッ!」
その状況を見落とさなかった由紀は黒い塔柱から見える女性に向けて、数百本の鞭を一気にぶつけた。
ぶつけた、はずだった。
「おやおや。 来るのが随分と遅いと思えば、まさか君が追い詰められているとはね」
由紀が女性に向けてぶつけた数百本もある鞭はまるで時間が停止したかのように女性の目の前で止まってしまっていた。
一体何が起きたのか由紀も正樹も理解できなかったが、2人の背後から男の声が聞こえた。




